朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第14週「1965-1976」

第65回〈2月2日(水)放送 作:藤本有紀、演出:二見大輔〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第65回 父親の尊厳を守るため、さりげなくジョーを立てるるいの麗しさ
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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ひなた、映画村へ

るい(深津絵里)、ジョー(オダギリジョー)、ひなた(新津ちせ)の親子は京都で慎ましく暮らしている。ジョーは働かず、るいが回転焼きで生計を立てているわりにはさほど経済状態が悪そうには見えないという疑問には、近隣の人たちがいろいろおすそ分けする場面が答えていると言っていいだろう。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜65回掲載中)

第64回でジョーが友達の大切さを語っていたが、まさにそうで、近隣の子供たちにるいが回転焼きをおやつに与え、ジョーが遊ぶ子供のお守りをする。
そんなことだけでもみんなの役に立ち、近隣の主婦たちは感謝しておすそ分けを持ってきて家計の足しになる。昭和の時代はなんかこんな感じで関係性がうまいこと回っていたのだろう。

「立派にようやっとる。うち感心しとるんえ」と赤螺清子(松原智恵子)がるいを褒める。でもなんかるいは浮かない顔をしている。

その頃、ひなたとジョーは新しくオープンした条映映画村に遊びに来ていた。
ここで注目したい点は、ジョーが出かける前に、るいが「ジョーさんこれ」とそっとお金らしきものを手渡していることだ。たしか前にもこういう場面があった。

この夫婦の麗しさは、明らかにジョーには稼ぎがないにもかかわらず、ジョーの尊厳を守るためるいがそっとお金を渡して(しかもむきだしでない上品さ)、ジョーはジョーでいかにも自分から出したふうにお金を使っていることだ。るいはジョーをとても立てている。麗しい。

ひとりお留守番したるいは店を一旦閉めてどこかに出かけていく。
ものすごく意味深な表情のるい。これこそ「私の秘密」という感じである。

るいはひなたには厳しい。映画村で行われるモモケン(尾上菊之助)のサイン会の費用1500円を出してほしいとひなたにせがまれると、出せないときっぱり言う。なんだか悩みがありそうなるい。その理由は――。


るいはふたりめの子供を妊娠していた。決して裕福ではない中で第二子出産とは大月家も大変だ。とはいえ、もっと前の時代は貧乏でも子だくさんが普通であった。「よそはよそ、うちはうちや」って筆者が子どものとき、よく聞いた言葉だなとなつかしく思った。

ひなたはお姉ちゃんになるからしっかりしてほしいとるいは言い、ひなたもその気になる。ジョーはいいんか、ジョーは。


「僕も嬉しい。ひなたにきょうだいができて。家族が増えて」と喜ぶが、家計を心配して、よし僕もそろそろ働くぞとは言わない。でもジョーが働かないことをとがめずにあたたかく見守ることが、人としての懐の大きさなのであろう。ジョーが自分の意志で何かするときまでそっとしておくこと。『おかえりモネ』の宇田川さんのようなものなのだろう。


きっとジョーだって最初はなにかしようとしたがうまくできなくて、彼なりに落ち込んだりもしただろうが、るいは何もしなくていいと言ったに違いない。ジョーはジョーで子どもたちの野球を見守りながら手帖にそっと音符を書き込んでいた。彼なりに心の赴くものを探しているのだ、たぶん……。



安達祐実、登場

黍之丞シリーズの娘役で安達祐実が出演。斬られ役の松重豊といい、劇中劇の出演者としてさりげなく大物俳優が出ているところが『カムカム』の面白さ。彼らはいまのところメインの役割ではないが、やがて彼らのドラマも描かれることを期待したい。なかなかメインで活躍しない人物たちをゆっくりと見守る心境は、何もしていないジョーを見守る心境と似ている。


安達祐実はかつて天才美少女子役として子役のなかで群を抜いていた。一方、新津ちせは、子役が活躍する時代、演技の巧い子役たちのなかで切磋琢磨中である。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第65回 父親の尊厳を守るため、さりげなくジョーを立てるるいの麗しさ
写真提供/NHK

新津の長所は圧が強いこと。やたらめっぽう元気を振りまくことで目立つ。体が小さかったときはそうやって自己顕示するしかなかったのだろう。Foorinでの活動ではメンバーのなかでいちばん体が小さかったから短い手足を必死で大きく動かしているところが涙ぐましかった。いまや手足がぐーんと伸びてよかったねと思う。こうしてだいぶ身体的に成長したので自意識を抑え細やかな表現も身につけることで俳優として成長することを期待する。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪







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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami