朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第21週「1994-2001」

第99回〈3月22日(火)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第99回 音楽、英語、野球……大月家の人々それぞれの再出発
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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それぞれの再出発

岡山から帰ってきた大月家の人々はそれぞれの道を歩みだす。ラジオ英会話を聞くため早起きしたひなた(川栄李奈)は初めてるい(深津絵里)が小豆のおまじないを唱えながら炊いている姿を見る(ひなたがパジャマ代わりにしていた黍之丞Tシャツええなあ)。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜99回掲載中)

物心ついて24〜5年になると思うけれど、ここで初めて知るということはよっぽど朝が苦手なのだろう。
でもふと疑問に思うのは、一時期、回転焼きに挑んだときに教えてもらわなかったのだろうか。そこにはるいの心情をいろいろ想像できる。家族には一緒に住んでいても知らないことがいろいろある。その知らなかったことをこれから埋めていくことも大月家の再出発のひとつであろう。

母娘が昔の話をしながら、るいは改めて母・安子(上白石萌音)の偉大さを噛み締め、ひなたはまったく知らなかった祖母の存在を「新情報」として驚きとともに得ていく。炊きたての小豆から立ち上る湯気のようなあたたかく優しい、親から子に伝えていく民話的な雰囲気が漂う。


優しいあたたかさががすべての疑問をなんとなく包み込んでいく。桃太郎(青木柚)がちょっと遅れて岡山から帰ってきて、お土産の雪衣(多岐川裕美)の梅干しをもらったるいがすごく懐かしそうに嬉しそうな声を出したとき、これまで少女時代、雪衣とは反りが合わなかったのではないかと思って観ていたが、そんなことはなくて、それなりにうまくやっていたようだと思い直した。

第98回で大人たちがるいを追い詰めたと勇(目黒祐樹)が反省していたが、亡くなった千吉(段田安則)がるいを雉真家に縛り付けようとしていただけだったように思うのだが……そんな疑問も小豆の湯気の中に溶けていく……。

錠一郎、ピアニストデビュー

錠一郎(オダギリジョー)トミー(早乙女太一)を大月家につれてきて、楽器を鍵盤に持ち替えて音楽に復帰すると宣言。その後、あっという間にトミーのバンドでデビューする。

錠一郎はそれだけ天才的な能力があったことと何年ブランクがあっても人ぞれぞれの歩幅で生きればいいのだという喜ばしく思う一方で、30年以上何もしないできた人物がまたたく間に返り咲くことは、虚無蔵(松重豊)の「日々鍛錬し、いつ来るともわからぬ機会に備えよ」の言葉からは乖離しているようにも感じる。

好意的に考えたら、錠一郎は音楽への思いをいっときも忘れていなかったということが彼にとっての「鍛錬」だったということか。
それと、音楽は技術ばかりではないということなのだろうけれど。トミーとジョーが共鳴しあえば素敵な音楽になるってことなのだろう。

ここまでの間、錠一郎に何もさせてこなかった理由は、実は……!という驚きの展開を作りたかっただけだろう。2〜3時間の映画や演劇だったらこういうことが効果的だが、朝ドラのように長く、庶民の生活や人生をそれなりにリアリティーあるものに描くタイプのものだとやや不自然な印象は拭えない。正確に言えば、気になる人も少なくないだろうから、そういう人をも説得できるような冴えたアイデアを、ベテラン作家ゆえに期待したかった。



それはかなり贅沢な望みというものであることはわかっている。
鍛錬といえば、安子編では、それなりに和菓子作りの真髄を描いていて、安子は父にダメ出しされたり、戦中、芋飴を作って創意工夫をしたりしていた。その積み重ねがあるから、回想シーンに感動があり、第20週の岡山の奇跡にも感動がある。

安子編で盤石な土台を作ったからこその後々の感動。それを受けて、るいとひなたの世代が安子時代の鍛錬の大切さをようやく自分たちの身に引きつけて実践しはじめる物語なのだと思う。

るいと錠一郎は音楽の夢にもう一度挑み、ひなたは英語をコツコツと学ぶ(発音がものすごくいい!)。桃太郎は岡山の大学で野球を続けることになった。
彼もまた場所を変えて人生のやり直しをはかるのだ。

るいの場合は、30年コツコツ、回転焼き一筋だったから鍛錬を続けていたわけで、それは称賛に値する。雉真がいまもなお足袋を作り続けていることも鍛錬のひとつであろう。いつか役立つときが来ることを祈る。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪










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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami