朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第15週「1976-1983」

第68回〈2月7日(月)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第68回 小夜子とビリーのツーショットに心がざわつくひなた
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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ひなた、ラジオの英語講座を聞く

子どものひなた小ひなた(新津ちせ)と書くと小日向文世を思い出してしまう。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜68回掲載中)

小ひなたは母・るい(深津絵里)と比べると情緒はあんまりないが、体のキレは抜群。Foorinのメンバーとしてダンスパフォーマンスをしてきただけあって、ラジオから流れてきた「証城寺の歌」に合わせて跳ね回っている姿や、学校で先生に叱られたときラップみたいに英語をつぶやくところの躍動感はさすが。
昭和の子の役だが、平成の子の身体性なのである。あの足の長さは完全に平成だろう。

でもそんなことはかまわない。彼女の出番もあとわずか。今週10日(木)に川栄李奈にバトンタッチ。いよいよ3人目のヒロインの登場にわくわくする。
それまで小ひなた、がんばって。

ひなたは知らないが、るいがひなたにラジオの英語講座を聞くように勧めたことには深い理由がある。るいが子どものときに母・安子(上白石萌音)と欠かさず聞いていたからだ。英語の塾に通わせるお金はない代わりにラジオ講座を聞きなさいと提案するるい。15分×6=90分、週に1時間半勉強できると説得する。朝ドラが週に6回あったときと同じ。
朝ドラの1週間1時間半もとても貴重な1時間半だから、あんまり無為なものを流さないでほしい。その点、『カムカム』はテーマ性があって凝った作りになっていて道徳的なので悪くない。

さっそくラジオ講座を聞くも英語についていけないひなたのためにるいはテキストを買い与える。本屋の本棚を横から映し、そこからカメラが横移動するとそこは時代劇村。場面が黍之丞シリーズになって、大月家のテレビ画面に移動している。さりげなく凝った場面転換である。


母はテキストを買い、父・錠一郎(オダギリジョー)はラジオ講座の出席カードを作って、聞くたびにパンダのハンコを押してあげる。でもパンダを大福と思っているという相変わらずの天然だ。

ビリーが店にやってきた

ある夕方(ちゃんとSEが寺の鐘。寺の多い京都らしい)、小夜子(竹野谷咲)ビリー(幸本澄樹)を連れて回転焼きを買いに来た。いつの間にかビリーと親しくなっている小夜子にひなたはなんでもないふりをしているが内心はざわついている。

それにしても小夜子、ビリーが和菓子を食べたいというから連れてきたというが、回転焼きが本当に美味しいという親切心なのか、ほかに和菓子らしい和菓子を知らないのか。天神さんのそばならほかに和菓子屋もありそうだが、子どものお小遣いでは高価で回転焼きはコスパはいいのかもしれない。
小夜子がひなたにマウントしているとは思いたくない。

るいと錠一郎はひなたが英語をにわかに学びたかった理由がほのかな恋であることを知る。るいは明確には知らないだろうけれど、安子が英語学習を頑張ったのも恋がきっかけだった。ひなたは、祖母の初恋と英語学習、祖母と母のラジオ講座を聞いた思い出を受け継ぐことになる。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第68回 小夜子とビリーのツーショットに心がざわつくひなた
写真提供/NHK

思えば、安子もるいも英語を生かした仕事についたわけでもない(安子のその後はわからないけれど)。これだけ英語を強調しているのだから3代目で英語が華々しく役に立ってほしいものである。


錠一郎が意外と英語が話せて、それは「ギブミーチョコレートの世代だから」と言うのが敗戦国・日本がアメリカに影響を受けたからこその英語の普及に思えてやや皮肉に聞こえる。でも祖父の稔(松村北斗)安子は英語をもっと前向きな視点で学んでいた。錠一郎だってジャズが好きでいつかアメリカに行きたかったのだ。しかも「ジョー」なんて外国名を名乗っていた。それを娘には話さないことは、戦争は彼のなかにいまだに残っているということだろうか。

10年、あまりになんにもしないで生きているからこそ気になる彼の心のうち。
オダギリジョーが何もしなくても何かありそうに感じさせてしまう俳優だから余計に。錠一郎がなぜかトランペットが吹けなくなったことと何もできずにいることに日本人のなかの大きな敗戦の記憶を重ねて見てしまう。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪







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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami