朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第15週「1976-1983」

第70回〈2月9日(水)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第70回 おかあちゃん見参! 10歳の父母は立派に成長している
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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おかあちゃん見参

ここぞというときに英語が話せなかったひなた(新津ちせ)は無力感にさいなまれる。この無力感は『おかえりモネ』の「私なにもできなかった」とは違って、自分のことばかり考えた結果だ(あれ? モネも最初はライブが聞きたかったからか)。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜70回掲載中)

ひなたはビリー(幸本澄樹)のことをまったく慮(おもんぱか)らず、自分が英語で彼と話していい気分になることしか考えていない。
ビリーが何を求めているか知ろうとしないで自分のことばかり考えているから会話が成り立たない。たとえ英語が話せなくても、彼が回転焼きを食べたい気持ちを察することは可能なはず。ひなたはずいぶんと甘やかされて育ったのだなあと感じる。

どんなに親が堅実で誠実な人間でも、意外と子どもはわがままに育ってしまうことはあるものだ。本人の資質と子どもは別なのだ。一人っ子というせいもあるかもしれない。
とまあ厳しいことを書いてしまったが、緊張のあまり何もできなくなってしまうことはあるもので、ひなたの場合、極度に舞い上がってしまうタイプなのかなと思う。

拗ねたひなたは回転焼きのおやつに「飽きた」と言い(もちろん、ビリーに回転焼きを売ってあげることができなかった悔恨がそうさせているのだろう)、いつも穏やかな錠一郎(オダギリジョー)も「おかあちゃんにも回転焼きにも謝れ」と叱りつける。

ショックで家を飛び出すひなた。吊り掛け駆動音を鳴らして嵐電(たぶんモボ301号)が映るが、ひなたはそれに乗ったわけではないようだ。なぜならその後ひなたがいるのはまぎれもない鴨川だから。てっきり嵐電に乗って嵐山まで行ったのかと思った。


ひなたが川でたそがれているところへ、るい(深津絵里)がやって来て、「おかあちゃん見参」と黍之丞のマネをする。本日のハイライトはここであろう。いつもおとなしくしているるいだが、ここぞというときにパフォーマンスを見せる(初登場のミュージカルなど)。

初恋がもろく崩れた話をるいに語るひなた。「全部無駄にしてしもうた。なんでなにやっても続かないのかな」と悩むひなたを「いまは真っ暗闇に思えても、いつか光が差してくる。
ひなたの人生が輝くときがくる」とるいは慰める。この願いこそひなたの名前の由来である。

帰宅したひなたは父に真摯に謝る。ラジオからは「山口さんちのツトム君」が流れている。錠一郎は「苦しゅうない、近うよれ」と時代劇調で対応し、ひなたを許す。

父が厳しく叱り、母がフォローし、ちゃんと娘の事情を聞いて励ます。
子どもは父に謝り、父はユーモアを交えて子どもの萎縮を取り除く。こうしてすぐに仲直りする大月家はいい家庭である。10歳のお父さんとお母さんは成長している。きっとひなたもここから他者を思いやれるいい子に育っていくのかな。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第70回 おかあちゃん見参! 10歳の父母は立派に成長している
写真提供/NHK

産気づくるい

夏になって、回転焼き100個をモモケン(尾上菊之助)が買いに来た。自分のことばかり考えているように見えたひなたではあったが、モモケンを喜ばすことはできていた。サイン会のときの差し入れが忘れられず買いに来たモモケンは店に貼られた黍之丞シリーズのポスターを発見。
「よりによってあの駄作を」と、自分でもそう思っていたのか……。

せっかくの大口注文だったが、るいが産気づいて、モモケンは回転焼きではなくるいを車に乗せて病院に運ぶことに、というてんやわんや。エンド5秒の投稿コーナーが、ひなたと赤ちゃんの写真であったところがニクイ。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪







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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami