朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第15週「1976-1983」

第69回〈2月8日(火)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第69回 83年の描写に朝ドラ、ドリフ、サザエさん…大河ドラマは?
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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なぜ大河ドラマは出ないのか

アメリカと日本の距離が描かれた回。地理的にも遠いし、言語的にも遠い。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜69回掲載中)

ビリー(幸本澄樹)がアメリカから来たと知ったひなた(新津ちせ)はアメリカがどこかと錠一郎(オダギリジョー)るい(深津絵里)に聞くと地球儀で教えてくれる。
アメリカへのるいのかすかな反応を錠一郎は見逃さない。「遠い?」とひなたが訊くと、るいは「ちょっと遠いね」と答える。

るいにとっては母がいるはずの国、錠一郎にとっては憧れのジャズの本場。ふたりとも行きたいと思っていたけれど、行くことは実現していない。それを今度は娘がアメリカ人に恋して英語を習おうとするようになるとは因果である。

ところが、ひなたの英語の勉強がかはどらない。なぜなら、テレビ番組を観たり、人気漫画を読んだり、ほかにすることが満載だからだ。

日本は高度成長期を経てバブル目前に控えている頃、文化的にも歌謡曲やお笑いやアニメや漫画など日本独特のものが進化していた時期である。歌謡曲やアニメは欧米の文化の影響を受けてガラパゴス状態の日本で独自に進化を遂げた。漫画は欧米が日本の独特の表現に注目するくらいになったし、アニメもそう。

お笑いだけは欧米の影響を受けず、欧米に注目されることもなく、日本独自のものとして存在している稀有なもののような気がする。笑いはその原点の落語がそうであるように、絵や音楽と違って言葉が肝。
チャップリンのような身体性で笑わせるものではなく言葉遊びを楽しむものなので、言葉が通じないと伝わらないのである。

一恵(清水美怜)のことを山口百恵の百分の一とする言葉遊びも日本語がわかるから楽しめるものであり、これを英語に翻訳したらどういうふうにするか翻訳家の腕の見せどころになるだろう。シェイクスピアの言葉遊びを翻訳している方たちは本当にすごい。

この時代(76年)の一般家庭の過ごし方を、朝ドラ、ドリフ、サザエさん、世界名作劇場、ノストラダムスの大予言……とテレビ番組を通じて描いていたが、なぜか大河ドラマは出てこない。サザエさん、名作劇場のあとは大河だろーと思ったが、ひなたはお風呂に入ってしまう。大河は日本独自の時代劇文化であるため、近代化した日本の風景から外れるのだと思う。ちなみに76年は平将門が主人公の『風と雲と虹と』だった。

言葉の違いは不便なもののように思うし、逆に独特の良さがあるという意味では尊い。その言葉の壁にひなたは苦しむことになる。

けっきょく「英語会話の習慣は途絶えてしまいました」(ナレーション:城田優



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第69回 83年の描写に朝ドラ、ドリフ、サザエさん…大河ドラマは?
写真提供/NHK

ビリーとの苦い別れ

ひなたが朝起きられなくて聴けなくなったラジオをるいが家事をしながら聞いている。彼女はとても穏やかな表情だ。母と聞いた幸せな時間を思い出しているのだろう。

ある初夏の日、回転焼き屋にビリーが来たが、るいは英語がしゃべれない。
覚えたと思ったフレーズも出てこなくて、焦っているうちに、ビリーは帰ってしまう。どうやらアメリカに帰る前に美味しかった回転焼きを買いに来たが、ひなたと会話できず買うことができないままお別れとなった。

ひなたにとってはなんともほろ苦い経験であろう。ひなたをただのアホの子みたいに終わらせず、ちょっと切ない幕切れになっていてよかった。とはいえ、安子(上白石萌音)もるいも聡明だったのに、ひなたはなんでこんななんだろう。漫画やテレビを観るとバカになると教養ある大人たちは思っていた時代なので、ひなたはそのロールモデルとして描かれているのかもしれない。

ひなたが歌謡曲やアニメの主題歌に乗って動くときの体のキレだけはやたらとよくて、ひなたはダンサーになれと思った。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪







【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る

番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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