朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第21週「1994-2001」

第100回〈3月23日(水)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

『カムカムエヴリバディ』あれもこれもそれも恐怖の大王? ノストラダムスの大予言に怯えるひなた
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

※朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第101回のレビューを更新しましたらTwitterでお知らせしています


上向きの大月家

第100回のド頭のナレーションが「悲しいことに時代劇は衰退していく一方です」という悲しさで、撮影所の黍之丞のポスターは剥がれかかっている。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜100回掲載中)

ひなた(川栄李奈)がしょんぼり帰宅すると、かつての英語の先生メアリー(ケイト・J)とすれ違う。メアリーはよくひなたを覚えていたなあ。
わりと決まったことしかやらないタイプの先生のように思ったが、意外と誠実な人だったのか。

雪衣といいメアリーといい、喉元すぎれば熱さ忘れるではないが、心持ちひとつで人間関係は変わるものなのかもしれない。あの頃のひなたはやる気も自信もなかった。でもいまは違う。英語で時代劇を救おうと頑張って、自信をもって英語を話している。だからメアリーもちゃんと返してくれたのだろう。


時に1999年。錠一郎(オダギリジョー)トミー(早乙女太一)とともにアメリカに行くほどになっていた。着々である。るい(深津絵里)はマネージャーになり、ベリーショートにしておしゃれなコートを着て一緒にアメリカに向かう。こういう雰囲気のアート系の人いるいる。大月家、すっかり上向いている。


ミュージシャンとして復活しても、錠一郎は相変わらず朝ドラを観ている。98年度後期は『やんちゃくれ』。木暮さん(利重剛)という人物はヒロイン(小西美帆)が入った新聞社の先輩記者。木暮という名は『カムカム』の登場人物にもいる。大阪のジャズバー「Night and Day」のマスター(近藤芳正)だ。『おちょやん』では小暮(若葉竜也)がいた。
朝ドラでわりとよく使われる名前「KOGURE」。

恐怖の大王

大月家は順調だが、ひなたの気がかりは1999年。彼女はノストラダムスの大予言を信じている。「だんご3兄弟」のヒットによって再び回転焼きの売上のピンチ。これが恐怖の大王か。ハリウッドから映画の視察が来ると聞いて、これが恐怖の大王か。すみれ(安達祐実)が離婚と聞いて……となにかと恐怖の大王に結びつける。
これも喉元すぎれば熱さ忘れることのいい例で、あんなに騒いだにもかかわらず何もなく過ぎ去り、もうみんな忘れてしまっている。

当時、1999年に世界が滅びるという大予言にはそれなりに不安はあった。とはいえそれは若干、イベント的なものでもあったのだ。けっきょく7月には何もなかったが、バブル崩壊が恐怖の大王のようなもので、目に見えない終わりが着々と忍び寄り、21世紀に入るとそれまで浮かれて満ち足りていた日本経済はどんどん衰退していく。ノストラダムスが流行ったときは、豊か過ぎて退屈だった日本人が世紀末というなにか大きな刺激を待ち望んでいた。



そんななかで豊かな時代に慎ましく生きた大月家はバブル崩壊に振り回されることなく自分の歩幅で過ごし、逆に21世紀から右肩上がりになりそうな雰囲気である。
だから、ひなたがそんなに恐怖の大王に怯えることはないようにも思うが、彼女の恐れは、1999年はやり過ごせても、2001年の同時多発テロ、2011年の東日本大震災、2020年コロナ禍、2022年、ウクライナ戦争……と世界を揺るがしていく予感のようなものかもしれない。だからこそ、「日々鍛錬し、いつ来るともわからぬ機会に備えよ」(by 虚無蔵)なのである。

酒屋のおじちゃん、森岡(おいでやす小田)はだいぶ年をとったが、注文してくれる人がいる限り配達をやめないと信念をもっている。この人も日々鍛錬しているひとりだった。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪










【前期の朝ドラ】清原果耶主演『おかえりモネ』の全レビューを見る

番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami