朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第17週「1983-1984」

第78回〈2月21日(月)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第78回 ひなた、無愛想な五十嵐と怒らせてしまったすみれとの関係に変化
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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死体役の練習をする五十嵐

錠一郎(オダギリジョー)がいつの間にか「破天荒やな」という言葉を繰り返すようになっている。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜78回掲載中)

人気時代劇『破天荒将軍』の撮影をかき回したすみれ(安達祐実)もすっかり落ち着いて撮影再開。ひなた(川栄李奈)が指摘した茶杓の音も控えめになり、演技もナチュラルに。
やればできるやん。なんであんなに大根演技をしていたのか。芝居が腹に落ちてなかったからかもしれない。彼女なりに納得したうえで演じるとちゃんとできるのだろう。

人の言動には様々な要因がある。無愛想で感じ悪く見えた五十嵐(本郷奏多)が所構わずしょっちゅう倒れていた理由は死体役を完璧に遂行するための練習だった。
人物の言動に謎を残すのは作劇上、視聴者に続きを観たい気持ちにさせるためだ。観る者は結果が出るまで自由に展開を想像する楽しみがある。

五十嵐がしょっちゅう倒れているのは過労だろうか、はたまた病気なのだろうか。錠一郎が病気でトランペットが吹けなくなったのでまたしてもそういうことがあるのではないか……という不安もよぎる。とはいえ、この手の引きに関してすぐに知っている病名を持ち出して名付けようとする視聴者をあっさり裏切る展開に胸がすく思いがした。

いまは考察流行り。
それに、もともと想像することは自由である。だから好きにしていいとはいえ、病気に関することを先行してああだこうだ語るのは日常でも他人の根拠なき噂話をするようなはしたなさを筆者は感じてしまう。

ドラマで気をつけてほしいと願う二大要素が、病人が寝ているそばで当人について大声で語る場面と登場人物の病気を主題でもないのになんとなく想起させて話題の釣り餌にする無神経さだ。五十嵐が病気ではなく仕事に一生懸命で本当に良かった。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第78回 ひなた、無愛想な五十嵐と怒らせてしまったすみれとの関係に変化
写真提供/NHK

五十嵐の努力を轟監督(土平ドンペイ)がそっと見ていて、伴虚無蔵(松重豊)に面倒を見てあげてくれと頼む。ただし、第77回で、テレビ時代劇について批判したことには釘を刺す。
撮影所内の厳しさと人情を感じるエピソードだ。

さらにひなたは五十嵐の内面を知る。彼が大月の回転焼きを好む理由が語られた。大部屋俳優の苦労と孤独が熱々の回転焼きで癒やされていた。るい(深津絵里)は「素直ないい子」だと五十嵐に対して高評価だ。すっかりひなたの友達と思っている。




朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第78回 ひなた、無愛想な五十嵐と怒らせてしまったすみれとの関係に変化
写真提供/NHK

ひなたと五十嵐の関係が少し変わるのと同時に、すみれとの関係も少し変わる。撮影時の無礼を謝るひなたに、すみれはサインした台本を差し出した。若さやかわいさだけで十分だった時代。それは彼女にとってお得な面もあったが、それだけではないものを求めて東京に勝負に出たのだろう。でも結果的に若さやかわいさしか取り柄がなかったことを思い知らされてしまう。

自分にとって封印したかったその作品が、若いひなたや五十嵐の心を掴んでいたことを知ったとき、あの頃、自分を突き動かしていた情熱のようなものを思い出したのではないか。
憑き物が取れたようにさっそうと俳優会館の廊下を歩くがちょっとこけて苦笑いするすみれ。悩みはすぐに解決しないけれどちょっとかっこ悪くてもいいではないかと思えるいい場面だった。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪







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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami