朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第16週「1983」

第77回〈2月18日(金)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』京都撮影所が舞台の2000年度後期朝ドラ『オードリー』はどんな作品か
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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きやあああ――すみれの演技が酷すぎた

天才俳優・安達祐実が演技の下手な女優すみれの役を巧みに演じた。「きゃー」の棒読みを表現するにあたって、「き」の音を立てるとこうも間抜けになることに感心した。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜77回掲載中)

すみれが東京に進出しても俳優としてうまくいかないのも納得。
そのわりにいろいろ口を出すすみれ。小さな役を勝手に広げようとする。武士の娘がお花は、花(首)が落ちたら不吉だからお茶を点てるシーンにしたほうがいいというのはよく考えたなあとは思うが、斬られる侍と恋仲だったんじゃないかと提案するのはやりすぎだろう。

俳優というものは少しでも自分の役を深め、できるだけ長く印象的に映ることを「爪痕を残す」ことと考えるものとはいえ、「深いシーンちゃいますよ」と轟監督(土平ドンペイ)は困る。彼はかつてすみれが京都で仕事しているときに助監督だったから、すみれに厳しくできない。

当時は人気俳優だったすみれと駆け出しの助監督だった轟。
それがいまでは轟がミス条映コンテストの審査員をやるくらいの売れっ子監督で、すみれは過去の栄光にすがっている売れていない俳優と立場は逆転している。それでも昔の上下関係が精神的に支配しているから、すみれは売れていなくてもこんなに厚かましくいられるのだ。

誰もがあーあと思っているところ、ひなた(川栄李奈)は「ええ作品にしようと一生懸命なんやな」と好意的に解釈する。ここがひなたのはみだした部分――悪くいうと「バカ」なところである。さらに「バカ」なのは「(茶杓の)音たてないほうがいいですよ」と一子(市川実和子)に教わったこと(第73回)を嬉々としてアドバイスする。ええ作品にしようと一生懸命なすみれのために一肌脱いだつもりなのだ。


すみれがにっこりするから喜ばれていると思い込むひなた。でも現場は凍りついている。すみれは大勢の前で恥をかかされたと感じて、「気分が悪い」と芝居を止めてしまう。現場が押して困るスタッフたち。

「おまえのようなバカがいていい場所じゃない」と五十嵐(本郷奏多)がひなたを叱りつける。テレビドラマはいい作品づくりなんて考えていない。
同じようなことを早く安く撮るから会社が儲かるものであり、そのルールを乱してはならないと説く五十嵐の言葉は極めて自虐的なものだ。わかっていてもやるしかないのだ。

「おまえみたいなバカを喜ばせることしか考えてないんだよ」と言う五十嵐に「同じセットで、同じ場所で、同じことが起きて同じクライマックス、同じ大立ち回り。あんたの言うとおりかもしれへん。それでも私は夢中やった。黍之丞やおゆみちゃんの運命にハラハラしてた。
それがバカっていうんやったら、私はバカでよかった」とひなたは真面目に反論する。

朝ドラ『カムカム』と『オードリー』

ひなたの台詞は朝ドラにも当てはまりそうなことである。さすがに同じセットを使ってはいないが(若干の使い回しはある)、毎回同じようなこと(初恋、失恋、結婚、姑いじめ、出産、戦争等々)が起こっている。例えばこの『カムカム』。2000年度後期の『オードリー』(作:大石静)にちょっと似てきている。『オードリー』は京都撮影所の話で、そこにはモモケンこと桃山剣之助(林与一)というスターがいて、佐々木蔵之介演じる新人俳優が次世代スターを目指すのだ。

時代劇に変わって現代劇のスターとして活躍しているニューフェイスはジョーこと錠島(長嶋一茂)といい、スタッフには榊原という名前の人物もいる。
きっと『カムカム』を書くにあたって作家はオマージュとして名前をいただいたのではないかと思う。

撮影所を舞台にした朝ドラには『ロマンス』(84年度)もあるし、最近では『おちょやん』(2020年度後期)もある。朝ドラがはじまって60年、同じような題材を手を替え品を替えて作り続けているのだ。だが同じような題材でも、なにかひとつでも独自な面白さを付け加えることで手垢のついたものがリフレッシュする。

五十嵐とひなたのやりとりも対立ののち感動というひとつのパターンだが、ここで五十嵐は「卑怯だぞ、そんな特殊な回を持ち出してくるなんて」と言い出し、ムードが一変する。ひなたがテレビ時代劇の面白さに挙げた黍之丞シリーズの1作がマニアの間では語り継がれているレジェンド回で、黍之丞はなぜか刀ではなくカンフーアクションで戦うものだった。


それを五十嵐もひなたも大好きで観ていて、完コピできるほど。ブルース・リーが当時流行っていたんだよなあとなつかしむスタッフ。そういえば、第71回でひなたが映画村の橋の上で子ども相手にブルース・リーの手招き(カムカム?)をやっていた。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』京都撮影所が舞台の2000年度後期朝ドラ『オードリー』はどんな作品か
写真提供/NHK

この「おゆみ命がけ」という回は「轟さんがはじめて演出してくれた」とすみれがしんみりする。いまや重鎮のような轟も若いときは変わったチャレンジをしていたのだ。きっと熱意のある、ものづくりが大好きな人だったのだろう。早く安くの中にも、そっと心を込めることはできる。そしてそれに気づく者は必ずいるのだ。

轟監督役の土平ドンペイさんと助監督・畑野役の三谷昌登さんは京都の撮影所や映画村で仕事をしてきた方たちで、現場の雰囲気が滲み出ていた。

〈カムカムエヴリバディ〉轟強監督役の土平ドンペイが大部屋俳優(仕出し)から朝ドラ常連俳優になったワケ
※轟監督を演じた土平ドンペイさんのインタビュー

朝ドラ「スカーレット」に出演&脚本の快挙。三谷昌登に聞いた朝ドラ裏話
※助監督・畑野を演じた三谷昌登さんの「スカーレット」のときのインタビュー
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪







【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る

番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami