生活のあれこれが睡眠に影響を与える
───他にアプリを使う上で気をつけた方が良い点などはありますか?
蛭田 メイン画面に6つのアイコンがあります。それぞれ「食べ過ぎた」「お風呂に入った」「飲み過ぎた」「運動をした」「イライラしている」「自由記述」で、寝る前に一日を振り返って、思い当たるポイントがあればタップしてください。そうすると「睡眠分析」画面の快眠スコアや睡眠グラフに紐付けられて、関連性がわかるようになっています。
白戸 僕の場合はお酒を飲むと、てきめんに入眠直後の90分で深い眠り(ノンレム睡眠)のパターンがなくなるんですよ。寝付きは早くなるんですが、ぐっすり眠れていない。その結果を見て、ちょっとだけお酒を控えようかな・・・という気になりました。
───なるほど。
白戸 また、なかなか難しいかもしれませんが、「快眠リズム」画面の生活スケジュールやプッシュ通知にも意識を向けてみてください。個々の表示は睡眠分析の結果から自動的に計算されています。たとえば「朝食 07:30」と表示された場合、その時間までに朝食をとるといいですよ、という意味です。いずれも体内時計の維持と結びついていて、良質な睡眠や健康な生活を送る上で重要な項目ばかりです。
───先ほども簡単に説明がありましたが、何か例はありますでしょうか?
白戸 たとえば正午近くになると「目を閉じる」というプッシュ通知が表示されます。これに連動して「快眠生活。」には「おひるねモード」もありますよね。
───ああ、そうですね。それは少し疑問に思っていました。
白戸 これは人間の持つ「睡眠覚醒リズム」と関係があります。実は人間は起きている間中、ずーっと「睡眠物質」を脳の中に分泌しているんです。これが起床して8時間くらいで一杯になります。午前6時に起床すると午後2時くらいですね。そこで15分くらい昼寝したり、目を閉じてリラックスすると、睡眠物質の量を減らすことができます。こうすることで、夜に眠りやすくなるんです。
───なるほど、それでわざわざ「おひるねモード」があるわけですね。
白戸 また夕方近くになると、「姿勢を良く」というプッシュ通知も表示されますよね。
───これも意味があるのですか?
白戸 はい。人間の体温は体表近くと内臓とで異なり、後者を深部体温と呼びます。この深部体温を下げることで睡眠が誘発されるのですが、ジェットコースターと同じで、一度深部体温を上げることで、その後下がりやすくなるのです。お風呂に入ると眠くなるのも、温かいお湯につかることで深部体温を一時的に上げる効果と、体表近くの血管が拡大して、その後に熱を放射しやすくなる効果があります。
───しかし、そのことと夕方近くに姿勢を良くすることに、どんな効果が・・・?
白戸 深部体温は起床後しだいに上昇し、11時間後にピークを迎えて、あとは下がるというリズムをとります。このピークをしっかり作ることが大事なのです。朝6時に起きると、だいたい午後5時ですね。一方で肩甲骨のあたりに体温を調節する褐色脂肪細胞があります。姿勢を良くすることで細胞が活性化し、深部体温が上昇するのです。逆に夕方ごろ疲れたからといって背中を丸めて仕事をするのは、深部体温がしっかり上がらないのでオススメしません。
───なんと、そんな意味があったのですね。
白戸 こうした体内時計に関連する、さまざまな体内リズムを「サーカディアンリズム」といいます。プッシュ通知は、この理論にもとづいているんです。
───ますます勉強になります!
施設とアプリの連動でビジネス展開
───ちなみに開発はスムーズでしたか?
蛭田 そうですね。ただゲームとツールでは開発で注意すべき点が違います。あえて言えば、そこが苦労したポイントでしょうか。
滝澤 一般的にゲームではボタンなどのユーザーインターフェースを、世界観にあわせて自由に作りますよね。逆にツールではiPhoneやAndroidなど、各々のデバイスの文脈にあわせてデザインされることが多いんです。このアプリはゲーマーではなく、一般のお客様に広く使ってもらうものなので、ツールっぽい文脈で作ってもらうことが重要でした。
蛭田 ただ、ゲームが得意な人たちに「もっとツールっぽくしてください」といっても伝わりにくいので、参考になるアプリのスクリーンショットなどを撮って送りましたね。
滝澤 またゲームアプリが得意なので、先方がiPhoneとAndroidのマルチプラットフォームでの開発に慣れていた点は良かったですね。実は「快眠生活。」はゲームエンジンのユニティ(注:ゲーム業界で特に人気の高い開発プラットフォーム)で作っているんです。
───なんと! こんなところにもユニティが・・・それは気がつきませんでした。
蛭田 あとはデバッグに苦労しました。普通のゲームなら徹底的に遊んで、不具合が出たら修正して、すぐに検証できますが、このアプリは実際に寝なければいけない。しかも人によって寝方がまちまちで、不具合の再現性が難しくて・・・。
滝澤 開発の途中で気がつきました。これって実際に寝ないとダメじゃないかって。またスマホのセンサーはメーカーごとに違うことが多く、Android向けのデバッグでは機種対応が大変でした。
───なるほど、そこは盲点でしたね。でも、変なアプリだなあ。
滝澤 そうかもしれませんね(笑)。コナミデジタルエンタテインメントの社内デバッグチームにお願いしたり、開発チームで手分けしたりして対応しました。
───今までにないアプリなので、企画を通すのに苦労はありませんでしたか?
滝澤 そこは施設と連動して活用できる強みが活かせました。すでに『カロリサイズ』では、施設側で行っているリアルのダイエットプログラムと、アプリを連動させるなどの展開を始めています。『快眠生活。』の話とはずれるかもしれませんが、今後も施設でアプリに紐付いたプログラムを作ったり、リアルなプログラムのノウハウをアプリ側に反映させてアップデートしたりと、ヘルスアプリ全体で展開していきたいですね。
───そういえば他のアプリと違い『快眠生活。
蛭田 はい、最初はF2P(基本プレイ無料のアイテム課金)で企画していましたが、アプリの効果を実感してもらうためには、最初にある程度の意識付けが必要だと思い、有料アプリ+アイテム課金の方式に変更しました。実際、『快眠生活。』はダウンロードしたタイミング」と「アプリを使うタイミング」が違うんですよね。その差を越えるためにも、有料アプリにしました。
───なるほど、それは重要なポイントですね。では最後にひとことずつお願いします。
白戸 弊社はこれまで運動に関するサービスを提供してきました。社会的にも「運動したら健康になる」というイメージがあります。それに加えて、このアプリを通して「睡眠でパフォーマンスが上がる」という認識が広まると良いですね。
蛭田 生活スタイルをちょっと見直すだけで、これだけ睡眠が変わるということを、実感してもらいたいです。そういえば「自分のイビキがわかって妻に感謝した」などの感想もありました。
滝沢 繰り返しになりますが、自分の睡眠状態の認識と、ライフサイクルを見直すことでパフォーマンスが上がることを実感して欲しいということ。この2つをぜひ体験してみてください。キーワードは「攻めの睡眠」です。
───ありがとうございました。
(小野憲史)