
医者にできること、できないこと
──医療の現場や医療行政の実際を小説にした作品が最近は増えてきています。日本の医療行政には限界があるということが改めて言われるようになったのは、ここ10年のことだと思います。ただ「医療行政の限界」と「お医者さんのできることには限界がある」ということとが、世の中では混同されている面もある。はっきりさせておいたほうがいいと思うのは、夏川さんが今おっしゃった、お医者さんにはできないことがある、というのは、そういう外圧とは別なんですよね。
夏川 ええ。別ですね。その違いを意図的に混同して、それを理由に時間が来たら帰っていく医者というのはいます。彼らの言い分は「時代が違う」ということです。「昔のように何でもかんでもお金をかけて全部やればいいという時代ではない」というような言い方で自分の行動を理論武装している面がある。僕は、それは別の問題だと思っています。制度的な問題はたしかにたくさんあって、保険も厳しくなっているし、医療費もどんどん切られている。治療の選択肢はもちろん狭められてはいる。ですけど、それと僕のやろうとしている、「かっこいい医者」を目指すということとは、まったく別の問題として成り立つと思っています。
──ご自分の内面と言いますか、中で咀嚼するべき問題ということですよね。