「『ザ・ウルトラマン』って昔やっていたアニメ版『ウルトラマン』のことじゃないの?」という人はまったくもって認識不足。
『ザ・ウルトラマン』とは、内山まもる(『リトル巨人くん』ほか)が描いたオリジナルストーリーのコミック作品のこと。ゾフィーら総勢100万人(!)のウルトラ戦士が、宇宙大魔王ジャッカルなどの敵と戦う壮大な物語だ。

連綿とウルトラシリーズが続く中、なぜか実写でもアニメでも映像化される機会がなかったが、ドワンゴとカラーが主催するオムニバス短編アニメのイベント「日本アニメ(ーター)見本市」で突如としてアニメ化されることになった。9月4日よりウェブにて配信がスタートしている。
ウルトラ兄弟、惨殺される!
まずは、内山まもる『ザ・ウルトラマン』という作品について説明しておこう。
連載が開始されたのは1975年、当初は『さよならウルトラ兄弟』というタイトルで学習雑誌『小学三年生』に連載されていた。3年後の1978年に『コロコロコミック』で『ザ・ウルトラマン』と改題されて再掲載、人気を博すことになる。
1975年といえば『ウルトラマンレオ』が終了した年。ウルトラシリーズが途絶え、同時期には『仮面ライダー』シリーズと『ゴジラ』シリーズも終了している。いわゆる特撮ブーム、怪獣ブームが斜陽になっていた時代をコミック方面から支えた作品でもあるのだ。
筆者も『コロコロコミック』で『ザ・ウルトラマン』を読んだクチである。怪獣百科などの書籍や怪獣ケシゴムなどでウルトラマンと怪獣には親しんでいたが、いかんせん再放送を待つ以外に本編を見る機会がなかった1972年生まれの筆者にとって、『ザ・ウルトラマン』は福音であり衝撃だった。
初回でいきなりウルトラマンがゼットンに、帰ってきたウルトラマンがナックル星人とブラックキングに、ウルトラマンAがエースキラーに、ウルトラマンタロウがバードンに……と、ウルトラ兄弟が次々と惨殺! これを衝撃と言わずして何と言おう。しかも、それぞれが苦手としている怪獣にきっちりと弱点を突かれて殺されているだけに説得力があった。
ウルトラ兄弟惨殺の犯人、それが宇宙大魔王ジャッカルだった。変身能力を持つジャッカルは強力な怪獣に変身して殺害を繰り返していたのだ。勢いに乗ったジャッカルはウルトラの国に突入、ウルトラの父どころかウルトラマンキングまで倒して、たった一人でウルトラの国を壊滅にまで追い込む。死屍累々のウルトラ戦士たち。生き残りはゾフィーを含めてたった28人! シビアすぎる展開だ。
地球に逃げ込んだウルトラ28人衆(本編でこう呼ばれている。人間の姿のときは揃いのブレザーを着用)をあぶり出して抹殺しようとするジャッカルとジャッカル軍団。そこへ突如として現れたのは、甲冑を着たウルトラ戦士、アンドロメロス!
「こんなウルトラマン知らない!」と頭の中がハテナマークでいっぱいになったちびっこたちをよそに、めちゃくちゃ強いオリジナルキャラクターのアンドロメロスが大活躍。ここからアンドロメロスとウルトラ28人衆の反撃が始まる!
……と、これが「ジャッカル対ウルトラ兄弟」。ほかにもメロスの弟、ファイタスが最強の座をかけてウルトラセブンと果し合いをする「若きファイタスの挑戦」、宇宙海賊パイレーツとウルトラ兄弟が宇宙戦艦で戦う「闘え!ウルトラ兄弟」、少数精鋭で敵の星に潜入して必殺兵器を破壊する「1ダースの特攻隊」など名作揃いだ。
ウルトラマンたちはテレビでの“神”のようなスーパーヒーローではなく、等身大のキャラクターとして描かれており、読者は親近感を持つことができた。ほんのわずかな口の動きとコマ割り、そして多彩なポージングを駆使して無表情のウルトラマンたちから喜怒哀楽が感じられるのだからすごいとしか言いようがない。すべては元タツノコプロのアニメーターだった内山まもるの卓越した技術のたまものだ。
元の作品世界を壊さず、オリジナル要素をふんだんに取り入れて壮大な物語を紡いだ『ザ・ウルトラマン』は、いわばウルトラ兄弟版『アベンジャーズ』だ。物語は『アベンジャーズ』よりもずっと突き抜けているのだから、ちびっこたちが夢中にならないわけがない。『コロコロコミック』では創刊2号目からの連載であり、圧倒的に『ドラえもん』中心だった同誌の中では脇役的な存在だったが、同年夏には『ザ・ウルトラマン』をフィーチャーした特別増刊号が発売されるほどの人気ぶりだった(同増刊号は現在ネットオークションで12万円の値がついている)。
庵野秀明が直々に探してきたウルトラSE
今回アニメ化されたのは、『ザ・ウルトラマン』の本丸「ジャッカル編」だ。
監督の横山彰利は『OVERMANキングゲイナー』『四畳半神話大系』などで演出、『キルラキル』『進撃の巨人』などで絵コンテ、『フォトカノ』で監督を務めた人物。アクション演出に定評のある監督である。
実際には8分程度の短編のため、ほとんどダイジェストに近いが、視聴後は非常に満足度が高い。ウルトラ兄弟が、ジャッカルが、メロスがとにかくよく動く。原作では簡潔に表現されていた冒頭のウルトラマン対ゼットンの戦いは、宇宙空間での高速バトルとして生まれ変わっている。
こだわりはSEにも活かされており、切断音、光線音、爆破音などはウルトラシリーズで使用されているものばかり。いずれも「日本アニメ(ーター)見本市」のエグゼクティブプロデューサーを務める庵野秀明が直々に探してきたものだという。『流星人間ゾーン』のSEまで使われているのだとか。
メロスが攻勢のシーンは『ウルトラマンレオ』の戦闘BGM、エンディングテーマは『帰ってきたウルトラマン』で不採用となった幻の主題歌「戦え!ウルトラマン」という燃える選曲も最高だ。なお、「戦え!ウルトラマン」は庵野秀明がアマチュア時代に監督とウルトラマン役を務めた自主映画『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』の主題歌でもある。このあたりの目配りもよく効いている。
横山監督は25年前から『ザ・ウルトラマン』のアニメ化を企画を出し続けてきたが、すべて却下されてきたのだという(ニコニコ生放送「日本アニメ(ーター)見本市 同トレス」での発言より)。キャラクターデザインと作画監督を務めた森久司(『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』など)は、内山まもるの原作のコマを抜き出し、手の描き方などを徹底的に研究して作品に臨んだそうだ。監督をはじめとするスタッフの愛とリスペクトと努力と執念がわずか8分に注ぎ込まれているのである。そりゃファンも喜ぶに決まってます。
残念ながら内山まもるは2011年に62歳の若さで逝去している。