東日本大震災から4年目を迎えます。
その一方で、首都直下地震や南海トラフ地震などの大規模地震は
いつ起きてもおかしくない状態といわれています〉
これは、ねこの防災を考える会『ねことわたしの防災ハンドブック』(PARCO出版)のいちばん最初のページの冒頭の一文だ。

天変地異、いろいろあったよね最近……
阿蘇山が噴火、その前に東京湾を震源とする地震、その前日には栃木や茨城で大雨のため堤防が決壊、その前に台風が連続して通過、そういえば今年は箱根・大涌谷も噴火したし、去年は木曾の御岳山が噴火して、その前が広島の土砂崩れがあったっけ。
などとフラッシュバックしながら、この本を読んでいる。
猫がいようがいまいが、防災の基本は同じだ。
まず、余計なものを家に置かない、と書いてある。うん、これはそこそこできてると思うんだ。
整理整頓。これもまあ、家人が有能なのでできてる部分多し。
でも僕の仕事机の上はまったく整頓できてないな。
それから懐中電灯を、なんなら各部屋に、とある。これはまだできてないなあ。
〈ローリングストック法〉か。ああ、聞いたことがある。
非常食や水を一定量(たとえば12食×人数ぶん)つねに用意し、古いものから定期的に家で消費し、そのぶんだけ買い足す、というメソッド。
長期死蔵による賞味期限切れを防ぐにはこれだ。
猫がいると必要になる、特有の配慮
防災の基本は同じ、とはいえ、猫がいると、それ特有の配慮もやっぱり必要になる。
ドアが閉まらないようにドアストッパー。はい、これはやってます。OK。

個体識別マイクロチップの埋め込み。これもまだ手をつけてない。首輪タグよりは確実なんだよね。
クレートトレーニングとは?
なかでも印象的だったのは、大きめのキャリーケース(というかケージ)を日ごろからの猫ハウスにする、という話。
これはやってない。
避難所暮らしに備えて、〈クレートトレーニング〉をしよう、と何度も書いてある。
〈クレートトレーニング〉とは、日ごろからケージに慣れさせておき、そこで就寝・食事・排泄ができるところまで持っていく、というのだ。
〈避難所では基本的にねこと飼い主との生活エリアは離れています。
ねこはいきなりケージで独りぼっち。飼い主を求めて鳴くことで、周囲のひんしゅくを飼うことにもなります。そうならないためには、一緒に寝る癖をつけないのが得策といえます〉(60頁)
これから寒くなって猫との同衾シーズンを迎えるなか、これは家によってはかなり厳しい要求に思えることもあるだろう。
避難所で〈飼い主を求めて鳴く〉は、「飼い主が猫を求めて泣く」の誤植では?とさえ思えてしまう。

さまざまな人のヒントと体験
また本書では、猫関係のコンテンツを作っている猫好きクリエイターたちの東日本大震災の体験や防災の工夫が、コラムの形で読める。
登場するのは、猫専門ポータル「Cat Daily」の森井ユカさん(立体造形家)、『猫のかわいい撮りかた手帖 うちのコを世界一かわいく撮る』(マイナビ)の写真家・石原さくらさん、『葬式探偵モズ』(KADOKAWA)の漫画家・吉川景都さん、『猫カフェめぐり 旅情篇 あの猫に会いに旅しよう』(エンターブレイン)の著者で漫画家・でエディターの逸見(へんみ)チエコさんの4人だ。

ご近所づきあいも大事
犬の飼い主どうしにはお散歩ネットワークが自然に出来上がるが、猫のばあいには意識して近所に〈ねこ友〉を作ること、とある。
〈まずは苦手な近所付き合いを克服しましょう。
日頃からあなたとねこが周囲から
かわいがってもらえる
存在になるよう努力してください〉(95頁)
なんだか猫好きを人間嫌いと決めつけたような書きぶりだけど、我が身のことを考えるとまるっきりハズレでもない気がするから恐ろしい。
猫との暮らしを見直すきっかけ
どれもこれも、いざというときの話ではない。いまのこの日常にかんする助言だ。
本書は、「いざというとき」のために、猫との「いまの日常」を再チェックするきっかけに満ちている。
〈ペットと避難するときは「ひとり1匹」といわれています。つまりひとりが助けられるのは1匹、3人家族だったら3匹までということになります。
もしひとり暮らしで多頭飼いをしていたらどうでしょうか? この機会に今いるねこたちを本当に助けられるのかを考えてみてください〉(61頁)
〈ペット禁止の共同住宅で、内緒でねこを飼っている方はいませんか?
〔…〕飼っていることを話題に出すことができないので、もしものときに、近隣の協力を得られることは難しいでしょう。
防災のことを考えると、あなたの大切なねこのためにも、そろそろ秘密飼いは卒業しませんか?〉(93頁)
こういった、人によっては耳の痛い呼びかけもある。
でも、命を預かっているのだから、甘えは禁物だ。
なにがどうあれ、
〈ねこの備えは飼い主の責任〉(35頁)
〈ねこの命を守れるのはあなただけ〉(43頁)
なのだから。
(千野帽子)