『笑けずり』では、毎回先輩芸人が漫才の講義を行う。第2週〜第4週は中川家・笑い飯・千鳥が講師。つかみやツッコミなどの基本を教えながら、それぞれの理想の漫才がかいま見える講義。中川家は「お気楽さ」、笑い飯は「発想力」、千鳥は「コンビ仲」を若手に伝えてきた。
→ 中川家が笑い飯が千鳥が本気だ。芸人たちのガチサバイバル番組「笑けずり」が凄い
続く第5週はバイきんぐ、第6週はサンドウィッチマンが講師。
これまでの講師たちは関西のしゃべくり漫才がベースだったが、この2組は関西以外の出身かつコントが主戦場。賞レースの優勝をきっかけに、無名から一気に有名になった点も共通している。そのせいか、2組の講義はマインドよりもメソッドに重きを置いたものになっていた。

バイきんぐ:ネタを考える以外なにがあるんだ
これまで、無名芸人たちがネタ作りに苦悩する様子を伝えてきたが、この回は異例の展開を見せる。
「ザ・パーフェクト」のツッコミ・ピンボケたろうが、女性コンビ「Aマッソ」の加納に恋をしたのである。
気持ちが高まったピンボケたろう、加納に告白することをスタッフに伝える。
この時、事前にバイきんぐの2人から出された課題は「コンビニの漫才コント2分」。
あえてベタな設定にしたのには理由がある。バイきんぐは、ベタな設定でも切り口やフレーズにオリジナリティがあるのが大事と考えているのだ。講義ではバイきんぐが作ったコンビニコントをVTRで流す。「1日に2回強盗が来る」という設定だ。
小峠「ベタな設定でも絶対誰も切ってないところがまだまだあるから、それをやっぱり見つけるのも、いいんじゃないかなと思いますね」
設定の切り口はどうやって考えるのか?という質問には「俺はね……ひたすら考える。しんどいけどね。3時間って一応決めてる。出ないときは」と、「考えるしかない」ことを繰り返す。
小峠「だからね、とりあえずネタを作ることだと思うんですよ。
カメラは、ネタを作らず女子に告白したピンボケたろうをアップにする。
前半の恋愛模様は、小峠の言葉の「前フリ」として機能したのだった。
しかし、この日削られたのは芸歴3か月のヤンキー漫才師「こゝろ」。合宿16日目。これまで共に苦しんだ芸人たちは、もうすっかり仲間になっている。別れに涙が止まらない。

サンドウィッチマン:本気になれば王者出ますよ
最後の講義となるサンドウィッチマン。課題は「賞レースで勝てる4分の漫才」。発表は2日後。
講義当日。「M-1の優勝者をここから出しましょうよ」と切り出す伊達。乾いた笑いを返す一同に「いや可能性は全然」「全然ありますよ」と真顔で応える2人。
賞レースで勝てる漫才とは「ずっと笑わせ続けられる漫才」だとサンドは考えている。講義の教材は『M-1グランプリ2007』決勝戦で披露した「街頭アンケート」。台本を1行ずつ追って解説する。

出だしのひと言だけでコントの役にスッと入り、ボケだけでなくツッコミのフレーズでも笑いを取る。「早くしろよ。焼きたてのメロンパン売り切れんだろ」というツッコミができるまで、「どのパンにするか」で2か月悩む。最後の1行まで考えぬく。
サンドウィッチマンを結成したのは24歳の時。30歳までにテレビにネタが出来なかったら辞めると決め、とにかくライブに出続けた。
伊達「バイトも辞めて、月15本20本ライブ出さしてもらいました。誰かに見つけてもらおうと。そしたら30歳の年に、ゴールデンタイムでネタが出来たんです」
富澤「このまんま、いつも事務所のライブ出たりして、何年かずっといていつか売れるんだと思ってやってんのと、もうこの1年売れなかったら辞めなきゃいけないってなったら、動き方全然変わると思うんですよ」
伊達「本気になってやってみましょうよ。みんな面白いから。本気になれば、マジでここで年末、王者出ますよ」
講義の最初、「優勝者をここから出しましょう」と言ったのも本気だった。敗者復活からのし上がった2人。本気が実を結ぶことを知っている。
19日間に渡る過酷な「けずり」を乗り切ったのは、Aマッソ、ザ・パーフェクト、ぺこぱの3組。
全編の講義を通して眺めると、しゃべくり・漫才コント・つかみ・賞レースといった「舞台上」のことと、ネタ作り・コンビ仲・本気の保ち方といった「舞台裏」のことまで網羅した内容になっている。全ての授業を生で聞き、自ら実践した3組は、絶対に強い。
今夜の『笑けずり』は生放送。視聴者投票で優勝者が決まる。”一番面白い無名芸人”を決めるのは、テレビの前の、あなたたちです!
(井上マサキ イラスト/小西りえこ)