アジカン アルバム『Wonder Future』とツアーで見せた、今/ライブレポート
撮影/TEPPEI

■ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour2015「Wonder Future」
2015.10.15(THU) at 東京国際フォーラムホールA
(※画像8点)

このツアーは“Wonder Futureという肉体”になった

一級建築士・光嶋裕介によるドローイングをもとにしたプロジェクションマッピング、そして光の演出……。アジカンがこのツアーで表現しようとしてきた“架空の街の物語”が、全国津々浦々でオーディエンスを圧倒し、深い感銘を与えてきた30公演に及ぶこのツアーもいよいよ最終盤。
序盤の横浜アリーナ以上に近い距離感でその演出を体感できるとあって、未見の人も再び訪れた人も終始良い緊張感の中でライブを堪能していた印象が残った。

アジカン アルバム『Wonder Future』とツアーで見せた、今/ライブレポート
撮影/TEPPEI

アジカン アルバム『Wonder Future』とツアーで見せた、今/ライブレポート
撮影/TEPPEI

雑踏のSEと効果音が混ざるSEに乗せて登場したメンバーに贈られる熱狂的な歓声をその何倍ものパワーで迎えるようにオープニングはアルバム『Wonder Future』通り「Easter/復活祭」。そのソリッドな音塊とモノクロームな街のドローイングが、早くも“どこにも存在しない、けれどあなたや私の意識の中にある街の物語”を駆動させる。立て続けにアルバムの重要なメッセージを担う「Little Lennon/小さなレノン」、「Winner and Loser/勝者と敗者」が繰り出される。演出が細心の注意を払って構築されているだけじゃない。1曲1曲の演奏の完成度を追求する姿勢もまたストイックなものだ。しかし、それが今年のアジカンが体現する“ライブとは何か”という問いかけそのものであることは序盤で誰もが理解しただろう。ラウドロックかもっと言えばメタルに近いぐらいのリフやソロを喜多建介(G&Cho)が引く「N2」の激しさ、そして序盤にして早くもハイライトと言えそうな下村亮介(Key)を含む5人のソロまわしも登場した「リライト」だったが、盛り上がるオーディエンスよりどんどん先に走って行くように、立て続けにハードな「Planet of The Apes/猿の惑星」を重戦車並みのアンサンブルで叩き出していく。立方体に映しだされた中世の石造りの塔が、エンディングで瓦解する演出が、今よりさらにカオスな未来を予見するようでもあった。

アジカン アルバム『Wonder Future』とツアーで見せた、今/ライブレポート
撮影/TEPPEI

「国際フォーラムは音が良くて気持ちいですね。大好きなミュージシャンであるノエル・ギャラガーも日本で一番好きなホールだと言ってたらしいし」と、後藤正文(Vo&G)が好調ぶりを感じさるMCをすると、歓喜に満ちた拍手が贈られる。

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タイトルコールに歓声が上がった「ナイトダイビング」に「Eternal Sunshine/永遠の陽光」をつなげるなど、今回のセットリストは『Wonder Future』を軸にしながらも、“叙景”というべき連綿と繋がる後藤の詞世界が時間軸を越えていることを証明してもいるのだ。
続く「或る街の群青」では、セットの背景に巨大な月が投影され、さらに架空の街にいる感覚に没入することができた。

アジカン アルバム『Wonder Future』とツアーで見せた、今/ライブレポート
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このツアーで新たに意義を見出した過去曲と言えば、山田貴洋(B)のベースラインと下村のシンセで始まった「深呼吸」の披露。瀟洒なミニマルファンクテイストを発見して、今まさにしっくりくることに驚いた。深海から水面を見上げるような映像も見事にリンク。喜多がボーカルをとった「嘘とワンダーランド」と「シーサイドスリーピング」以降は、“架空の街の物語”をグッとオーディエンスの心情としてリアルなものへ束ねていくように「新世紀のラブソング」が放たれる。心電図のようにも音の波形のようにも取れる映像もクールな分だけより刺さった。

アジカン アルバム『Wonder Future』とツアーで見せた、今/ライブレポート
撮影/TEPPEI

また、本編最終盤に演奏された「スタンダード」は下村もギターを弾き、3本のギターが作る厚いコード感に前進する力強さを見た。大歓声が一旦静まると、後藤のギターチェンジ時にシールドをギターに刺すノイズが聴こえるほど、息を詰めてステージに集中するオーディエンス。そう。ライブ開始時よりむしろ1曲1曲を一人ひとりが自分のペースで楽しんでいるのだ。後藤が軽く「ア~ア~」と歌い始め、イントロがかぶってくると本編ラストの「Wonder Future/ワンダーフューチャー」が、再びモノクロの街の映像とともに進んでいく。まさにどんな未来が待っているのかわからない、その先へ淡々と。
<太陽が照らし出す 振り向いて大げさに手を振った>のところで背景に鳥が群れをなして飛んで行く様には、何か背筋が伸びる思いがした。堂々の本編23曲。バンドアンサンブルの確かさや完成度にことさら驚かないほど、つまりこのツアーは“Wonder Futureという肉体”になったんだと思う。

アジカン アルバム『Wonder Future』とツアーで見せた、今/ライブレポート
撮影/TEPPEI

アンコールは撮影OKだったが、ほとんどのファンが必要最低限撮影した後は演奏を堪能していたのも、いかにもアジカンとアジカンのファン。おなじみの楽曲や心の名曲を惜しみなく披露し、締めくくりにはタフなサウンドをものにした『Wonder Future』の中でも、痺れるような喜多のギターリフや伊地知潔の安定感抜群のリズムが、迸るように何度も押し寄せる「Opera Glasses/オペラグラス」。<乾ききった大地に音を立てるラジオ>というフレーズも相まって、今年彼らが提示したサウンドと意志の大きさに、しばらく何も言えない、そんなエンディングを見せてくれたのだった。
(取材・文/石角友香)

≪セットリスト≫
1. Easter/復活祭
2. Little Lennon/小さなレノン
3. Winner and Loser/勝者と敗者
4. Caterpiller/芋虫
5. N2
6. センスレス
7. リライト
8. Planet of The Apes/猿の惑星
9. ナイトダイビング
10. Eternal Sunshine/永遠の陽光
11. 或る街の群青
12. 青空と黒い猫
13. Prisoner in a Frame/額の中の囚人
14. 深呼吸
15. 今を生きて
16. 嘘とワンダーランド
17. シーサイドスリーピング
18. Signal on the Street/街頭のシグナル
19. 新世紀のラブソング
20. ネオテニー
21. トラベログ
22. スタンダード
23. Wonder Future/ワンダーフューチャー
<アンコール>
1. 君の街まで
2. Re:Re:
3. 遥か彼方
4. 転がる岩、君に朝が降る
5. Opera Glasses/オペラグラス

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