■Ko Shibasaki Live Tour 2015「こううたう」
2015.10.17(SAT) at 東京国際フォーラム ホールA
(※画像6点)

夜に輝くかぐや姫が描く壮大な音楽絵巻

今年6月にリリースしたキャリア初のカバーアルバム『こううたう』を提げた柴咲コウの約2年ぶりの全国ツアーの最終公演。本ツアーのセットリストには、当然ながらカバー曲も盛り込まれてはいたが、それ以上に、シンガーとしての13年間という“これまで”を集大成し、女優としての17年間を振り返り、ひとりの女性としての34年間を紐解くような、壮大なスケールの音楽絵巻となっていた。
柴咲コウという人間をよりよく知るためのライブであり、ひとり芝居によるミュージカルであり、コンテンポラリーダンスやインスタレーションでもあった。

開演前には、スタンダードナンバー「Fly me to the moon」の様々なバージョンがBGMとして流されていた。暗転とともに雨が(映像と音で)降り始め、落雷によって激しさを増していく。一瞬の静寂のあと、バンドによるインダストリアルロックが鳴り響き、2人の女性ダンサーがステージ上で舞を見せる。やがて、ステージ上部から吊り下げれた巨大な短冊のようなスクリーンに言の葉が落ちはじめ、白銀のロングヘアーに着物の羽織をまとった柴咲が登壇。映像は竹林と月を映し出している。

映画『黄泉がえり』の主題歌として、劇中の役名RUIで歌い、大ヒットしたシングル「月のしずく」からはじまる第一幕のモチーフは、「竹取物語」のかぐや姫であり、“月”だろう。涙で月が滲む「泪月-oboro」からCoccoのカバー「Raining」、「またうまれるころには」「影」と、遠く離れた場所へと旅立ってしまった愛する人へに向けたラブバラードが続く。

彼女にとっての“月“とは、たとえ離れても絶えず見守ってくれている存在なのかもしれない。永遠の別れを感じさせるバラード群ではあったが、頬を撫でる風を感じながら、しっかりと大地に足をつけ、前を見据えて生きていく力強さも感じた。

第2幕では真っ白いワンピースに花かんむりをつけて登場した。月から地上に舞い降りたかぐや姫が少女時代を振り返ってるような印象。
70’Sフュージョン風にアレンジされた「ただ泣きたくなるの」や福山雅治がプロデュースした「最愛」とカバー曲「桜坂」のマッシュアップ、歌詞がスクリーンに映し出された「私生活」など、カバー曲が中心。日替わりで歌っていた「素直」が裏テーマで、椅子に座ってアコギの伴奏のみで歌い始めた「きみはぼくのともだち」やピアノとウッドベースを基調にした「アイ」は非常に自然体でリラックスした歌唱で、ヴォーカリストとしてのピュアな資質を存分に感じられた。

第2幕が10代の女の子だとしたら、第3幕は自我が芽生え、強烈なアインデンティティーが前面に出てきた20代……特に第2次反抗期を感じさせるステージング。一時期、ハウスやエレクトロにはまっていた彼女の個人的思考が垣間見えた。柴咲は黒のレザーのショーパンにヘソ出しルックで歌い、踊った全編英語詞のEDMナンバー「Intoxicated」に続き、4曲分をノンストップでミックス。観客は総立ちで手をあげ、クラップし、ジャンプで応戦。「無形スピリット」を歌い終わった彼女が首を傾けで満面の笑顔を見せると、客席からは大きな歓声が湧いた。

そのままステージをあとにすると、場内は一気に海の底に沈んだようなムードへ。海底から水面に光る陽光を見上げ、徐々に海面へと上昇していく。スクリーンに映し出されていた海は潮の満ち引きを表現していたのかもしれない。月は満ちている。

ジャズワルツにアレンジされた「EUPHORIA」を始めたとした第4幕は30代の完全な発育……成熟がテーマだろう。
新たなアレンジが施されたラストナンバー「フィロソフィア」ではスクリーンにかぐや姫姿の柴咲コウが現れた。ステージ上の柴咲がスクリーンに正対し、かぐや姫の柴咲と向き合って歌い、やがて両者は手を伸ばす。ふたりが手を結んだ途端にいくつもの星が煌き、本編の幕は閉じた。かぐや姫はまた月に還ってしまったのだろうか。

アンコールでは、「2008年の初の全国ツアーで紹介した<幸/和/月>というずっと大好きな3文字を体現できるものがないかなと思って、夜に輝くお姫様……かぐや姫を落とし込んで作りました」と本ツアーのコンセプトを解説した。和をテーマにした舞台で月をモチーフにした曲を歌い、みんなを幸せな気持ちにするというテーマは達成していた。

また、ファイナルだけのスペシャルな演出として、椎名林檎プロデュースによる新曲「野性の同盟」をストリングス隊を従えて初披露。さらに、<歌い足りない/だからまだ帰らない>と歌う「invitation」(2007年の1stライブのタイトルでもある)に続き、「このツアーは今日でオーラスなので、そんな自分の思いを込めたメッセージソングを聞いてください」と語り、kiroroの「未来へ」をエモーショナルに歌い上げた。<未来へ向かってゆっくり歩んでいこう>というフレーズが、彼女からのメッセージなのだろう。成熟した彼女がどんな音楽活動を見せてくれるのか。彼女の“これから”も楽しみでならない。
(取材・文/永堀アツオ)

≪セットリスト≫
OPENING
1. 月のしずく
2. 泪月-oboro-
3. Raining
4. また、うまれるころには
5. 影
6. ただ泣きたくなるの
7. きみはぼくのともだち
8. 最愛〜桜坂
9. アイ
10. 私生活
11. Intoxicated
12. ANOTHER:WORLD
13. アドラスティアの抵抗
14. パラレルワールド・リーディング
15. 無形スピリット
16. かたちあるもの
17. EUPHORIA
18. 蒼い星
19. フィロソフィア(New Arrange)
<アンコール>
1. KISSして
2. 野性の同盟
3. ラバソー ~lover soul~
4. invitation
5. 未来へ

≪リリース情報≫
New Single
『野性の同盟』 
2015.11.25リリース

【初回限定盤】CD+DVD
VIZL-879 / ¥1,700(税抜)
【通常盤】CD
VICL-37105 / ¥1,200(税抜)

[収録曲]
1. 野性の同盟
2. メメントダイアリー
3. 愛とスマイル愛とスマイル
4. 「野性の同盟」Instrumental
5. 「メメントダイアリー」Instrumental
6. 「愛とスマイル愛とスマイル」Instrumental

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