
学生時代に佐々木倫子の漫画『動物のお医者さん』を読んで、北海道に「犬ぞり」というものが存在していることを知った。

昨年はこの犬ぞりを、アウトドアに詳しい知人にほぼアテンドしていただくという幸運を得た。
3月にチミケップ犬ぞりエクスペリエンス&ナイトクルージング、クリスマスにはアウトライダー 1 Dayアドベンチャーを体験した。
「チミケップ」のほうも「アウトライダー」の犬たちが担当している。
「チミケップ」のコースは凍った湖面を一周するツアー、昼もいいが夜は日本ではなかなか味わえないキンキンの星空を見ることができる。
「1 Dayアドベンチャー」は一転して、アップダウンのある雪の山道を2時間半くらいかけて回る。
暖冬だというけれど
道東は冬は摂氏零下20度になることもある。
この冬は暖冬だけど、大丈夫かな……。

ぜんぜん大丈夫でした。
現地の人「今年はホントあったかいですよ! 最高気温が零下2度もあるんですから」
そうですか……。
送迎の車を降りて施設に近づくと、

みなさん、スタンバイしてます。ばうばう吠えてます。びゅんびゅん尻尾振ってます。かわいい。
街で見る愛玩用のシベリアンハスキーより骨格がひと回り小さく見える。締まっている。
そして、みなさんケモノの匂いがすごい。なにしろ彼らはこの時期、鹿肉を喰っているのだ。
こんな人もいる。

死んでるのか? いや、寝てるのです。
近づいても寝てる。

無防備。この状態でモフっても大丈夫。いい子だー。
彼ら彼女らは、この時期が絶好調で、摂氏0度を超えるとけっこうバテバテになってしまうらしい。
「マッシャー」になるための手ほどき
まずブレーキの踏みかたとか、犬に橇だけ持ってかれないようにストッパー(熊手みたいな金具)を雪上・氷上に打ちこむ方法など、操縦法の手ほどきを受ける。
橇はこんな感じ。

後ろからスキーのボーゲンのように両足を平行に乗せて立ち、左右で緩やかに弧を描く取手の、上部のまっすぐな部分を両手でしっかり握る。
ハンドルはない。犬が進むがままに進む。
乗る人のことをマッシャーと言う(『動物のお医者さん』読んで知ってた単語が出てきて嬉しい)。
マッシャーが高く「Hike!(ハイク!)」と叫ぶと犬がスタートする。
低い声で「ウォーーー」と宥めながら中央足もとのブレーキを踏むと、雪面にガリガリとブレーキが食いこみ、犬も減速して止まってくれる、という。
講習のときには、犬は橇につないでない。人が曳いて試す。
人っていうが、僕も曳いた。
僕ら当日の参加者は6名。
かわるがわるだれかひとりが乗り、他の参加者5名のうち4名が、4頭だてのリード部分をかわるがわる曳いて、操縦法をシミュレーションする。
貼る懐炉を全身におふだのように貼った上からレンタルウェアでガッチガチに防寒しているので、講習が終わったらもう軽く汗かいている。
おれはやるぜ!
そのあと施設内でカレー(北海道にはただでさえおいしいものがいっぱいあるのにカレーまでおいしいなんてずるい)をいただいたのちに、お手洗いへ。極寒でトイレが近くなるが、途中にトイレなどいっさいない。
全員で犬たちにハーネスを着せ、橇とリードでつなぐ。
まずストッパーを打ちこんどかないと、マッシャーの乗ってない橇だけ出ていってしまう。
なにしろ、みなさんやる気がもう溢れている。
早く行こうぜ!という意思表示がすごい。
『動物のお医者さん』で、犬が〈おれはやるぜ おれはやるぜ〉と逸っていたのはほんとうだったのだ。
僕の橇の4頭は、リーダーが「リー」、サブリーダーが「オラ」、うしろ2頭が「アトム」と「サンジー」。
ん? アトム?
アトムって3月の湖面一周のときもお世話になったアイツか?
アウトライダーにはたくさんの犬がいるが、アトムだけハスキーではなく狼犬なのだ。デカい!

なりはデカいが、まだ子犬気質の抜けないやんちゃな若犬だ。
3月のときは、走りながら隣のサンジーにちょっかい出し、左右が入れ替わってリードがからみあった。そのたびに橇を止めて、アトムの巨体を持ち上げては左に置きなおすので汗だくだった。
これはまた暑いクルーズになりそうだぜ……。
出発! じきに心臓破りの坂が……
いよいよ出発。アウトライダーのガイドさんが先頭をスノーモービルで先導し、そのあとを僕らが6台の橇を連ねる。

おお! 快適!
しかし登りになると急減速。
〈おれはやるぜ おれはやるぜ〉と逸っていた犬が、走り出してみたら意外にテンション下がったり、なんてことも『動物のお医者さん』に書いてあったような気がする。
こういうときは取手をしっかり握ったまま足を下ろして走る!
見た目は宅配業者がカートを押しているような感じだが、じっさいには橇が先に行ってしまわないように懸命に追って走っている。
しかもマッシャーが降りた橇はぐんと軽くなるので、降りたとたん犬はスピードアップしてしまう。
そこでそっと乗るとまたぐんと減速。登りはハードだ。
下りはクラッシュ続出
ときどき、休みを入れては犬たちを1頭1頭褒めに行く。

犬の褒めかたはTVで見たムツゴロウさんの方式を真似てみた。
一息つくと再出発。こんな景色もあった。

僕のiPhoneは寒さのあまり心配停止状態だったので、同行者が撮った動画がこちら。
なにしろ分厚い防寒手袋をしているので、撮影もままならない。これでもよく長く撮れたものだと思います。
もっと短い動画。
走行中にもしiPhoneを雪のなかに落としでもしたら、4月まで出てこないだろう。
下り坂では速度が上がり、カーヴの体重移動がうまくいかずにクラッシュしてしまう橇も続出。
橇がひっくり返るとさすがに犬は止まるが、ここでストッパーを雪に打ちこまないまま橇を立ててしまうと、マッシャーを置いて橇だけで行ってしまうので注意が必要だ。
クルーズを終えて帰ってくると、犬たちをムツゴロウMAXで褒めたたえねぎらったのちに、リードとハーネスをはずして、犬たちを戻す。

雪の風景がどこ向いても未体験な感じで、宇宙人ジョーンズのように
「この惑星の雪は美しい……」
という感慨を抱いてしまう。
また、動物との意思疎通ができるのもものすごく楽しい。お勧めします。
北海道旅行券のおそるべきお得具合
今回の北海道滞在には、「旅をしよう!! 北海道旅行券」を利用した。これもアウトドアに詳しい知人に教えていただいたのだからありがたいです。
これはプレミアム商品券の一種で、国の「地域住民生活等緊急支援のための交付金(地域消費喚起・生活支援型)」が活用されている。
昨年7月31から12万セット限定発売。
1セット10,000円(額面価格)を40%割引きの6,000円で購入することができる、お得な旅行券だ。
最大10セット(100,000円分)まで購入することができる。
取扱施設として登録されている、北海道内の宿泊施設ならびに観光・体験施設、950施設以上で利用可能。
(取扱施設一覧こちら)
購入の条件はふたつ。
・北海道外在住者であること
・新千歳空港以外の空港を利用すること(片道でも可)
ローソンチケットのWebサイトまたは「道内指定の販売所(新千歳空港を除く空港ほか)」で購入することができる。
道内指定の販売所のうち、旭川、帯広、女満別、中標津、紋別空港では完売、他の販売所でも売り切れ間近とのことなので、「ローチケ.com」で購入がいいだろう。というか「ローチケ.com」でも売り切れ間近なので、急いだほうがいい。
詳しい購入条件、購入方法は公式サイトで。
なお、北海道在住者向けには「どさんこ旅行券」、外国人旅行客向けには「Hokkaido Premium Ticket」が販売されたが、こちらは完売。
今回はこの券を50,000円ぶん購入。犬ぞりの支払いに19,000円(端数は現金)、その翌日の雪上乗馬に23,000円、残り8,000円は宿泊代金の一部に充てた。
30,000円で50,000円分楽しめたということになる。
道産品の展示即売アンテナショップどさんこプラザ(札幌駅・仙台・さいたま新都心・池袋・有楽町・名古屋駅)でも、5,000円で7,000円ぶん買い物ができるプレミアムどさんこ商品券というものがあることを、旅行中に知った。北海道本気出してきてます。
(千野帽子)