今回の演目
戦時下の話ということもあり、今回口演された落語はいずれも断片的なものだった。最初に菊比古が稽古しているのが「子ほめ」(前回参照)、寄席で菊比古と初太郎が聴くのが「黄金餅」、寝物語のようにして初太郎が語るのが「あくび指南」である。
その他はいずれも断片的だった。菊比古が「四方(よも)の山々雪溶けて水かさ勝る大川の上げ潮みなみ、岸辺をさらう波の音がだぶりだぶりと」と稽古をしている前々回も紹介した「野ざらし」、その後でお座敷に呼ばれて語っているのが「包丁」と(ナレーションとかぶっていて聴き取りにくいがたぶん)「釜泥」である。このうち「包丁」は六代目三遊亭圓生の十八番で、自分の独演会でネタおろししようとした立川談志が噺の中に出てくる端唄の八重一重が巧く唄えず、圓生に代演を頼んだという逸話が残っている。後に談志は、その部分を木更津甚句に差し替えて演じた。「釜泥」は、釜茹でで処刑された石川五右衛門の追善供養のために、江戸中の泥棒たちが釜を盗んでまわるというナンセンスな設定がいい噺だ。ちなみに「包丁」と「釜泥」は原作には出てこない。
「黄金餅」は五代名古今亭志ん生の十八番である。大金を飲み込んで死んだ男を焼いて、腹の中からそれを取り出そうとする噺で、情景そのものはグロテスクだし、倫理も法規も完全に無視しているのだが、それでも暗くならないのがいかにも落語だ。