子育ては毎日が悲しい…安藤裕子×大塚 愛が“働く母親”の立場から、アーティストとしての想いを語る

■安藤裕子×大塚 愛/New Album『頂き物』インタビュー

母になり芽生えた想いと音楽とのつながりとは?

これまで自ら作詞・作曲を行ってきた安藤裕子が、敢えて、他のアーティストからの提供曲を歌うというコンセプトのもとで制作されたアルバム『頂き物』。そこに、「Touch me when the world ends」という楽曲を提供した大塚 愛とは、ともにシンガーソングライターであることはもちろん、お互いに年齢の近い子供を持つ母としての共通点もあり、すぐに仲が深まったという。そこで今回は、音楽を離れ、アーティスト活動をしながら子育てもする“働く母親”として、二人が感じていることを語り合ってもらった。

私まだ、朝、化粧水つけられないからな(笑)

――現在、子育て中のお二人ですが、今、一番お子さんを愛おしいと感じるのはどんな瞬間ですか?

安藤裕子(以下、安藤):今、子供が本当に可愛い、ラストスパートみたいな感じ(笑)、ピークなんですよ。すっごいすました顔して日本語が間違ってたりするときとか。うちの子、背は大きいんですけどまだ水分量が結構多い感じで、とにかくお尻が可愛い(笑)。

大塚 愛(以下、大塚):お尻可愛い! なんでこんなに上がってるんだろう、いやむしろ上がってるのが普通だったんだと思うと、自分のお尻が可哀そうっていうか(笑)。

安藤:可哀そう! いつそこまで下がったんだ!?みたいな(笑)。

大塚:元々こうだったんだよ、位置はここだよって。

――(笑)。では、子育てをして行くなかで不安に思ってることはありますか?

大塚:私は毎日悲しい。子供が大きくなっちゃう切なさというか、「この大きさは今日でしかない、明日にはこの大きさではない」っていう悲しさ。毎日が「最後なんだ」って感じで、すごく悲しいしすごく不安だし。それから、子供に優しくない今の世の中が……なんかもう、いつ子供がさらわれてしまうんだろうとか、事件・事故だとか、もうそれが不安でしょうがない。

安藤:すぐそこのコンビニに一人でお使いをさせるのにも、そっと後ろから忍者みたいについて行ったり。

――確かに私たちが子供の頃のように一人でほうっておいても近所の誰かが見ててくれるとか、そういう状況ではないですものね。

安藤:ダメですよね、今は。

――そして、お二人は“働く母親”でもありますが、お二人ともお子さんを産んでからもアーティストとして精力的に活動されていますよね。お子さんが生まれる前と後で大きく変わったことはありますか?

大塚:すべてが変わり過ぎてもはやよくわからない(笑)。今、ようやく子供が少しだけ大きくなって、自分自身のことを構う時間がちょっと出来てきたかな?って思うくらいの状況で。

安藤:私はまだ構えない(笑)。大塚さんのところのお子さんの方がちょっとだけ上なので、やっぱり中身が大人なんですよね。私まだ、朝、化粧水つけられないからな(笑)。

大塚:確かに(笑)。お風呂上がりは乾燥するからすぐに化粧水つけなさいとか言うけど、そんなの一切出来なかったし。自分に優しくすることなんてまったく出来てなかった。今、やっとパック出来るぜ!みたいな、そんなレベル(笑)。

子育ては毎日が悲しい…安藤裕子×大塚 愛が“働く母親”の立場から、アーティストとしての想いを語る

子育ては毎日が悲しい…安藤裕子×大塚 愛が“働く母親”の立場から、アーティストとしての想いを語る

自分のために自分を見つめる時間が本当に減って、それで逆に、今回のようなアルバムを作れた

――そんな中でもアーティスト活動を続けているんですよね。

安藤:私の場合は出産したからって(アーティスト活動を)休まなかったんですよね。妊娠中も8ヶ月ぐらいまでレコーディングしていましたし、産んでからも3ヶ月も経たないうちにアルバムのジャケット撮影をしたり。変わらずに続けてしまっていたんですけど、それがあとで負担になってきて、正直、どうにもならないってなった時期もあったんです。でも、なんて言うか……どっちかと言うと、今の方がぽっかり穴が空いてしまったような感覚が来てるかも。子育てに手のかかるピークがもうすぐ終わってしまうんだろうなっていう、寂しさもあるからかも知れないんですけど。

――化粧水をつけてる暇もないっておっしゃってましたが、そんな中でいつ曲を作るんですか?

安藤:私の場合、やっぱり作る曲の数が一気に減りましたね。子供を寝かせていると一緒に寝ちゃったりするし。昔は仕事から帰ってきて夜中の3時とか4時までの時間が自分の時間だったんですよ。音楽業界の仕事は大体昼くらいからだから、起きるのも遅かったし(笑)。そういう時間の使い方をしていたから、子供を産んでからはいつが自分の時間なのかもわかんなくなっちゃって。だから、自分のために自分を見つめる時間が本当に減って、それで逆に、今回のようなアルバム(『頂き物』/提供曲を歌うというコンセプトで作られた)を作れたっていうのもあります。

――とは言え、お子さんが産まれたことで、他の方の楽曲を歌うという、これまでに無かった新たな視点が生まれたんですよね。

安藤:それはそうですね。あと、出てくる曲も童謡みたいなものが多くなるというか。子供を保育園に送っていくときの曲とか。私は結構長くそういう傾向がありますね。

大塚:私は一回結構大きくグッバイして(笑)。そのとき(活動を休止したとき)、表に出てる“大塚 愛”っていうものから離れたことで、それまで私は自分っていうものを出してきたシンガーソングライターのつもりだったのに、全然出せてなかったなっていうふうに思ったんですよね。だからこんなに曲ごとで歌い方も声も違うバラバラの人が“大塚 愛”なんだって感じたんです。自分で「私、大塚 愛やってたんです」って恥ずかしくて人に言えないみたいな。

安藤:「昔、大塚 愛やってたんですよ」って(笑)。

大塚:「元、大塚 愛なんですよ」みたいな(笑)。そんな感じになってしまったので、ちゃんとシンガーソングライターなんだからシンガーソングライターらしくやってみようっていうのでもう一回始めて。自分らしく、自分の歌らしく、自分の声らしくっていうので曲作りをしようっていうのは、その見つめ直す時間を持てたことが大きいですね。

――曲作りと子育てやプライベートとのペース配分は上手く行きましたか?

大塚:やり始めて、改めて「私、不器用な人間なんだな」っていうことに気付いて(笑)。一個のことに集中してしまうところがあるので、どちらかが疎かになると言ったら、絶対に子供を優先してしまうので……。それで、子供に時間を費やしながらも音楽を続けるためには環境を変えるしかないって思って、自宅にスタジオを作って移動時間を削除しようとか、そういったことをしていきました。

子育ては毎日が悲しい…安藤裕子×大塚 愛が“働く母親”の立場から、アーティストとしての想いを語る

子育ては毎日が悲しい…安藤裕子×大塚 愛が“働く母親”の立場から、アーティストとしての想いを語る

子供への愛を知ったことで、恋愛の“好き”も深みが全然違ったんだなっていうことに気付いた

――お子さんが出来たことによって作る環境や、感じることも変わったと思いますが、創作する中で何が一番変わったと思いますか?

安藤:私はたぶんまだ母親ホルモンが強いんだと思うんです。だから、恋の歌にすごく違和感がある。まだ異様なぐらい自分の子が可愛いんです(笑)。ずーっと赤ちゃんでいて欲しいみたいな。ほんとにしゃぶりたい、というかしゃぶってますけどね(笑)。あと今の世の中っていうものが関連してるのかなと思うんですけど、私、ノストラダムスの子供たち(『ノストラダムスの大予言』というのがあり、そこでは1999年で世界が終わるとされていた)というか、世の中が続くと思ってなかったから、「将来の夢は?」って聞かれると「お母さんです」って答えていました。でも結果的に、とても平和な時代を生きて、1999年も越えて、本当にお母さんになった途端に、今度は本当に先行きの見えない時代に入ってしまった。それは政治もそうだし戦争もそうだし災害もそうだし。もうこんなに可愛くて仕方ないこの子が、成人しておばあちゃんになれるのかなって? うちの子は雪が降るとすごく喜ぶんですけど、「スキー行く?」って言ったら「え~まだ早いよ、8歳になったら行く」って言うんです。だけど私はこの子が8歳になったときに、まだ雪山でスキー出来る世の中なのかどうかが自信がないと思って。

――「絶対大丈夫」って言えないところが辛いですよね。

安藤:そうなんですよね。そのせいなのか、自分の中の本当の自分の声を聞くと、どうしても死生観が拭えないというのが強くって。でも同時にいつまでもそこばっかりを見てたくないなというのもあって。それで今回、アルバム(『頂き物』)で丸一年、人から頂いた曲を歌い続けて、最後に自分の曲(『頂き物』収録曲「アメリカンリバー」)をレコーディングしたんですけど、相変わらず暗くはあるんですが、もうちょっと等身大の曲というか。生きるとか死ぬとかを叫ぶんじゃなくて、“寂しいな”とか“自分って何だろうな”みたいなところにようやく帰ってこれたというか。以前の歌の世界がほんとに天変地異の神々に近くなってたのが、今は埼京線くらいまで降りてこれたっていうか。そういう感じがすごくします。

――大塚さんはどんな変化を感じられていますか?

大塚:まだ数年なので、そこまでこれだ!っていうふうにはわかってないですけど。曲を見てると、とりあえず男性に対して媚びが一切無くなったなっていうのは感じました。若干、生物の悲しい定めみたいなのもありつつ、卵を育てるためにカマキリが旦那を食べるのは何となくわかるみたいな感じで(笑)。いわゆる自分が今まで男性に対して思ってた愛が“愛”だった?みたいな。子供への愛を知ったことで、恋愛の“好き”も深みが全然違ったんだなっていうことに気付いたりとか。

――それは安藤さんがおっしゃっていた、恋愛ソングに違和感があるっていうのと一緒かもしれないですね。

大塚:こんなふうになれたらいいなっていう願望もあったかもしれないですけど、どっかこう好きになってもらおうみたいな感じで書いてた部分があったなと。だから、「私こうだしこうだしこうだし。でもいいじゃん、好き同士になろうよ」みたいな、そういう媚びないで「ついて来いよ!」みたいな感じが、子供ができてからは多くなってきたような気がします。

安藤:でも確かに、子供が産まれるまでは自分では媚びてるつもりは無かったんですけど、どこかで私も誰かにとにかく自分を認めて欲しい、それは男性なのかもしれないし、音楽を聴いてくださる人々なのかもしれませんが、絶対的な証を欲しいって常に思っていました。それが手に入らないからもう悲しくて悲しくてみたいなのはあったんですけど、自分の血と肉を分けた子供が産まれると、それを守らなきゃなっていう思いが出てくる。ホルモンバランスのせいなのか、未だに悲しくて夜中に一人で号泣したりすることも結構あるんですけど、それにあんまり浸ってられなかったり構ってられなかったりするという現実もあって。次の日には起きて、お弁当作らなくちゃいけないし、日々そんなにカッコよくいられないんですよね。ヒロインでいられないというか、浸ってられないですよ。だって、化粧水つけられないレベルですからね(笑)、憂いの“う”の字もないですよ。でも世の中にいるお母さんたちもめちゃくちゃ心は弱くて、本当は自分のために悲しいときもたくさんあると思うんです。それでもやんなきゃいけないことがとにかく目の前にあるから、やんなきゃしょうがないじゃない!って言ってやってるんじゃないですかね。そう思いますけどね。

子育ては毎日が悲しい…安藤裕子×大塚 愛が“働く母親”の立場から、アーティストとしての想いを語る
Touch me when the world ends




≪リリース情報≫
New Album
『頂き物』
2016.03.02リリース
子育ては毎日が悲しい…安藤裕子×大塚 愛が“働く母親”の立場から、アーティストとしての想いを語る
頂き物

【CD+DVD盤】
CTCR-14894/B / ¥4,500(税抜)

【CD盤】
CTCR-14895 / ¥3,000(税抜)

[収録曲]
1. Silk Road
(小谷美紗子 楽曲提供)
2. 骨
(峯田和伸 楽曲提供)
3. 霜降り紅白歌合戦
(DJみそしるとMCごはん 楽曲提供)
4. 360°(ルビ:ぜんほうい)サラウンド
(スキマスイッチ 楽曲提供)
5. 夢告げで人
(堀込泰行 楽曲提供)
6. やさしいだけじゃ聴こえない
(Chara 楽曲提供)
7. 溢れているよ
(sebuhiroko 楽曲提供)
8. Touch me when the world ends
(大塚 愛 楽曲提供)
9. Last Eye
(TK from 凛として時雨 楽曲提供)
10. アメリカンリバー
(安藤裕子 新曲)
<DVD> ※CD+DVD盤のみ収録
●LIVE
・安藤裕子 LIVE 2015「あなたが寝てる間に」追加公演 6.16(火) 東京・LIQUIDROOM
1. 森のくまさん
2. 大人計画
3. RARA-RO
4. Live And Let Die
5. うしろゆびさされ組 (うしろゆびさされ組 カバー)
6. ロマンチック
7. 360°(ぜんほうい)サラウンド
8. 飛翔
9. レガート
10. 73%の恋人
11. 海原の月
12. 世界をかえるつもりはない
13. 聖者の行進
14. 鬼
15. 都会の空を烏が舞う
●Music Video
1. 360°(ぜんほうい)サラウンド
2. 骨

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