
祝福者と呼ばれる能力者、“氷の魔女”により世界は雪と飢餓と狂気に覆われていた。唯一の肉親である妹のルナを、ベヘムドルグ兵ドマの“朽ちるまで消えない炎”で焼き尽くされた主人公アグニ。自身が持つ再生能力とその炎により、常に燃えさかる炎人間になってしまう。8年かけて炎のコントロールを覚えたアグニは、ドマを倒す復讐の旅に出る。
今週のアグニはクビだけ
前話で死んだはずの妹ルナにそっくりの正体不明の女ユダにクビを狩られてしまったアグニ。今週ももちろんクビだけで話はスタートする。
クビだけになったアグニは、ユダ率いるべヘムドルグ兵に厳重に耐火布で包まれ、箱に入れられ運ばれてしまう。場面はべヘムドルグに切り替わる。この国は今まで物語に登場した村や廃墟に比べると、圧倒的に都会のようだ。そして人々は寒そうにしているものの、なぜか建物に雪が積もっていない。これは近代科学やなんらかの祝福者達の力によってなるものだろうか?
場面はクビだけのアグニに戻る。ベヘムドルグについたユダは、地面にアグニを置き、身体が再生しないよう兵士たちに銃で一定間隔で撃たせ続けていた。そして検証の為にアグニの宿敵ドマをこれから連れてくるという。
顔が燃えているので判断しづらいが、アグニはかすかに唇を噛み締めルナは死んだと結論をだす。単純に死んだはずのルナがいるはずないと判断したのか、それともあの純粋で可愛いルナがこんなに嫌な奴なわけがないと希望的観測から導き出したものなのかはわからないが、アグニの眼は敵意に満ちているように見える。
その頃、アグニに懐いている少年サンは、見知らぬ少女ネネトと見知らぬ犬と、ある部屋に閉じ込められてしまっていた。そして兵士にこの部屋が二人の仕事場であり、出たら殺すと脅される。ネネトは性奴隷にされる事を悟り、サンと一緒に脱走を企てる。そこに現れたのは、これまた見知らぬ男とさらに犬二匹だった。
主人公なのに、いつまでアグニはクビだけなのだろう
なんで犬なのだろうか?しかも三匹も。そして物語初の優しい雰囲気の男。部屋から出ずに犬三匹とどんな仕事をさせるのか、まるで見当も付かない。次話からサンの脱出&アグニ救出編が始まるのかと思ったが、どうも一筋縄ではいかなそうだ。
そして問題なのは未だにクビだけのアグニだ。これから一悶着ありそうなサンのストーリーを置いておいて、次の7話で急に復活して身体が生えてくる可能性は低い。
風呂敷を広げに広げまくっている
この漫画は、次々と大きな謎と問題点を残してどんどんストーリーが進んでいく。死んだはずの妹にそっくりな奴が出てきて、主人公がクビだけになって、最大の宿敵ドマがもう再登場しそうになって、おまけにサンは謎の犬三匹と幽閉されている。もちろん、諸悪の根源である氷の女王の事はまだ何もわからない。ドマに復讐を果たした後のアグニの炎がどうなるのかも全くわからない。第6話の時点で謎がこんなにもあるのだ。この物語の作者は今、風呂敷を広げに広げまくっているのだ。
藤本タツキ先生は若くして奇才と呼ばれ始めている。それは過度な暴力描写や性描写が多いためだろう。しかし、本当にこの人が奇才の片鱗を見せているのは、物語の広げ方の部分にある様に思う。
予想の斜め上を行く展開はこの先どうなんの?ってかどうすんの?と心配にさえなってしまう程だ。
普通の少年マンガは、ある程度予想が出来るから面白かったり、予想させて置いてそこから裏切ったりするから面白い。これは映画や音楽などにも当てはまるだろう。ところがこのマンガは、簡単には予想出来ない部分を作って惹き込ませる力がある。
広げまくった風呂敷をこれからどう回収していくのか?もしくはまだまだ広げるつもりなのか?なんで犬なのか?気になる次回は5月30日配信予定だ。
(沢野奈津夫)