《おっさん好きです! 男女ともに歳をとるとキャラに深みが増します。面白い人が多い! しかし現実的には歳をとると体力的に弱くなりがち。
それをバカにする様な、目上の人を尊敬できない若者が昔からキライだったんです。だから、おっさん、オバハン、じいさん、ばあさんがもし力を失わなかったらどれだけカッコイイだろう。というのがONE PIECEで描きたいファンタジーの1つなんです。キミもいつか歳をとります。こんなに強くあれたらいいね!》

今月発売された『ONE PIECE』第82巻。その中の名物コーナー、読者からのハガキに作者・尾田栄一郎が答える「SBS」のコーナーで、尾田はこんな「おっさん好き」コメントを残している。


なぜこのコメントを引用したかといえば、今夜9時からフジテレビ系で放送の劇場版第12作『ONE PIECE FILM Z』(以下『Z』)が、シリーズ屈指の「おっさん映画」だからだ。
今夜放映「ONE PIECE FILM Z」はシリーズ屈指のおっさん映画「GOLD」公開いよいよ
劇場版第12作『ONE PIECE FILM Z』(2012年12月公開)

ヒーローものは、まず、敵が強くなくちゃいけない


明日7月23日(土)、3年半ぶりの劇場最新作(第13作)『ONE PIECE FILM GOLD』が全国公開される。これを記念しての、今夜の『Z』。劇場版としては初の「新世界編」を舞台としたストーリーだ。

脚本が『ONE PIECE』ファンを公言する放送作家・鈴木おさむ。オープニング音楽は中田ヤスタカ。主題歌がアヴリル・ラヴィーン。
ゲスト声優が篠原涼子と香川照之……という具合に、演者・裏方含めて豪華メンバーが名を連ねたことでも公開時に大きな注目を集めた。その結果、最終興行収入はシリーズ最高となる68億7000万円。東映作品の興行収入としては過去最高記録だ。

そんな本作で、敵役……ともすると主人公のように描かれているのが、元海軍大将「黒腕のゼファー」こと、NEO海軍総帥ゼット。御歳74歳。おっさんを通り越してじいさんだ。
なのに、とにかくカッコイイ。この「敵役がおっさん」の狙いを、『Z』の監督を務めた長峯達也は次のようにコメントしている。

《僕、おっさんが好きなんですよ。正義でも悪でもどっちでもいいんですが、一本筋が通った大人が好き。ましてや『ONE PIECE』は海賊が主人公だから悪も正義も関係ないじゃないですか。だからデカい大人の背中をみせたい、と》(集英社ムック『ONE PIECE FILM Z オフィシャルムービーガイド』より。
以下、注釈がなければ同様の引用)

尾田と長峯の、見事なまでのシンクロニシティ。実際、ゼット(ゼファー)がみせる「大人の背中」は、原作における「白ひげ」並の佇まいをみせ、大きな存在感を放つ。そして、このおっさんがとにかく強い。さすがは元海軍大将。強さでは劇場版屈指。原作を見渡してもかなり上位に位置するのは間違いない。
再び、長峯のインタビューから。

《ヒーローものは、まず、敵が強くなくちゃいけない。強い敵が出て来て、主人公達をボロボロに叩き潰すだけの「理由」も必要ですし、打ち破るヒーロー側にも、想いの強さ以外の「理屈」が必要なんだと思います。「キセキでは敵を倒せない」のがヒーローものかなと。だからこの劇場版を成功させるには、いかにゼットの強さを表現するか、が肝になるかなと思いました》

「ゼットという敵をとにかく強くして欲しい」


この「ゼットの強さ」に悩まされたのが、脚本を務めた鈴木おさむだ。

《尾田さんからのオーダーで、「ゼットという敵をとにかく強くして欲しい」と言われたんです。「登場して10秒でこの敵ヤバいぞ、って思わないとダメだと思います」って。
確かにそうなんですよね》
《でも強くすればするほど、ルフィは勝てないわけじゃないですか。(中略)強くすればするほど、尾田さんが「良いキャラクターになってきましたね」って言ってくれるんだけど「で、どう勝ちますか?」って言われた時「どう勝つんだろう?」って自分でも思いました(笑)》

ゼットとルフィはなぜ戦うのか? そしてその強い敵をいかにしてルフィが倒すのか? が本作のひとつのテーマ。そしてその戦闘シーンは、尾田自身が「こんなアクションは見た事ない!と、一番最初に監督に伝えました」と絶賛する出来栄え。今夜の放送でも見どころのひとつだ。

『Z』におけるおっさん論。ゼット(ゼファー)とともに欠かせないキャラクターが、鈴木おさむのたっての願いで原作よりも先(※公開当時)に登場した、もうひとりの元海軍大将「青雉」(49)だ。

《青雉は、読者がビックリするような状況になっているんです。でもそれを、先に映画の中でバラしてもいいのかっていう…ファンとしても悩みどころですよね(笑)。でもやっぱり原作と連動させたかったので、提案させてもらったんです》

『Z』公開から既に3年半。それでも、青雉の描写は原作でもまだほとんど描かれていない。青雉ファン(がいるとすれば)は、ぜひとも『Z』でその勇姿を確かめておきたい。

ヒット“させられてしまう!”恐怖


『ONE PIECE FILM Z』。もうひとつの大きなトピックスとして、原作者である尾田栄一郎が初めて、「総合プロデューサー」の肩書きで映画に参画したことがある。

ちなみに、劇場版第10作『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』(以下、『SW』)での尾田の肩書きは「製作総指揮」。この2つの肩書き、何が違うのかといえば、『SW』が主にストーリーづくりでの参画だったのに対して、『Z』では「監督の絵コンテに口を出せる大きい肩書きが欲しい」というのが発端だ。そのいきさつを、尾田はインタビューでこう答えている。

《映画はいやだって、ずっと言っていたんですよ。連載だけに打ち込ませてくれというスタンスは、今でも本当に変わらないので。ところが昨今の異常な盛り上がりもあって、ヒット“させられてしまう!”恐怖を感じてたんです》

ここでいう、「昨今の異常な盛り上がり」とは、2011年末頃からのコミックス初版部数400万部超え(最高が2012年8月発売の67巻:405万部)をはじめとした空前の『ONE PIECE』人気のこと。当時、各種メディアでは今以上に『ONE PIECE』連動企画が目白押しだった。

だからこそ、原作者である尾田はこう危惧していたという。

《どんな映画ができたとしても、たくさんのお客さんが映画館にやって来る。そんな状況になると判断したんですよね。でも万が一ファンの期待を裏切るような映画が完成してしまった場合、『ONE PIECE』という作品の今後に大きく関わってしまう。じゃあ自分が手を出してでも、いいものにしなければいけないな、と》

結果、監督にモノを言ってもいい大きな肩書きを求め、気がついたときには総合プロデューサーになっていたという。

そして、明日23日から公開の最新作『ONE PIECE FILM GOLD』でも、尾田の肩書きは「総合プロデューサー」だ。先月末、日刊スポーツが発行した『大ONE PIECE新聞』で、尾田はこんなコメントを残している。

《まず、僕の「肩書会議」を開いた。(映画には)なるべく関わらないように、関わったフリをする肩書きをと…(苦笑い)でも、不可能。ああしたい、こうしたいが出てくるから、踏み込まざるを得ないんです。多分、次回も、そうやるんでしょうね。(中略)このループからは、逃れられないと思いますよ》

『GOLD』公開を前にして、早くも次回作以降の総合プロデューサー就任も宣言した尾田。その栄えあるプロデューサー第一作として、今夜放送の『ONE PIECE FILM Z』も見逃せない。
(オグマナオト)