2013年度から2年連続で連結純利益3,000億円を超え、国内総合商社の中で純利益額トップを誇る「伊藤忠商事」。その業績向上の裏側では、ダイバーシティ制度が着実に進められていました。特に女性の活躍支援には目を見張るものがあります。
今回は、伊藤忠商事の人事・総務部 採用・人材マネジメント室 池川朋子さんに支援制度の概要や具体的な事例などお話を伺いました。
人事に聞くダイバーシティへの本音  男性社会のイメージが強い総合商社「伊藤忠商事」の本気の取り組み
お話を伺った、伊藤忠商事の人事・総務部 採用・人材マネジメント室 池川朋子さん。

■伊藤忠商事も「総合商社=男性社会」の例外ではなかった

伊藤忠商事では、女性の社会進出に合わせて、よりよい支援策を模索し、支援制度の整備を行ってきました。そして現在では、法定を上回る水準で既に整備を完了しています。
とはいえ、もともとは我が社も「総合商社イコールTHE男性社会」という定説の例外ではありませんでした。しかしゼロから生み出すような状態だったからこそ、支援策、制度ともにより柔軟な発想で取り組むことができ、よりよく運営できている面も多々あります。

■2003年から具体的な取り組みを開始

具体的には男女雇用機会均等法が1986年に施行され、女性活用の機運が高まったところからスタートしました。各部署の状態を詳細に把握し、どのようなニーズがあるのか、またどのようなことをしなければならないのか、情報収集をじっくりとし、社会情勢も鑑みながら、2003年12月に「人材多様化推進計画」を策定し、経営会議において決定しました。その後、2期・10年間取り組んだ人材多様化の段階は、現在、個別支援という新たなフェーズを迎えています。

■初期は数の拡大に注力、現在は個に寄り添う対応を

第1期は、まず数の拡大を図りました。そして一定の成果を認めたところで、育児・介護支援制度の整備等、定着と活躍支援として第2期を開始し、人材多様化推進計画は一旦完了しました。現在は、充実した制度によってもどうしてもこぼれ落ちてしまう個別の事情をケアするために、頑張る女性を支援する「げん・こ・つ改革」を行なっています。

「げん・こ・つ改革」は、現場の「げん」。個別の「こ」。そして会社と常に繋がりを持つ意識を醸成するという意味での繋がりの「つ」。
女性のライフステージを考えたときに、全体施策も当然、必要なのですが、出産などのライフイベントやキャリア形成の方法は、個々により本当にさまざまです。ケースバイケースに、よりきめ細かく個々の社員に寄り添い、新しい女性のロールモデルを生み出すために、「げん・こ・つ改革」で柔軟に個別対応をしています。
人事に聞くダイバーシティへの本音  男性社会のイメージが強い総合商社「伊藤忠商事」の本気の取り組み
制度だけがあるのではなく、「げん・こ・つ改革」で柔軟に個別対応をし働きがいのある会社を目指しているという。

■「大丈夫、お子さんも連れていけますよ」

個別支援で行なった事例では、「子女のみ帯同」があります。総合商社である伊藤忠商事にとって、海外駐在は重要なキャリア形成のステップの一つです。ただ、我が社はそれまで単身子連れでの駐在を原則、認めていませんでした。これが女性のキャリア形成を阻害する大きな要因となっていたのです。
そこでこのルールを2013年に見直し、ニューヨークに駐在する女性社員に個別支援を行いました。単身子連れでの駐在を許可するとともに、育児補助を理由とした親の帯同(最初の2カ月間)も可能にしたのです。これを利用してその社員は2年間、ニューヨークに駐在いたしました。

■2020年までに女性総合職&管理職10%超えを目指す

今後、見据えている目標としては、2020年までに女性総合職比率10%超、女性管理職比率10%超達成です!
2013年には、大手商社初の女性執行役員が誕生し、翌年の2014年には、労働組合が女性の労働組合長を選出したこれまでの成果をもとに、より制度を実のあるものにしていくことが必要だと感じています。

■保育園落ちた、でも大丈夫!

伊藤忠商事には、妊娠休暇20日、流産後休暇5日、妊娠中の勤務時間短縮1日90分など「出産前」の支援もあり、出産後の育児制度では、ベビーシッター育児補助チケット、満2歳までの育児休業、小学校卒業まで子どもの看護休暇(子ども一人の場合5日、二人以上の場合年10日)など、実際のニーズにできるだけ沿った制度があります。
そのほかのサポートとして、産休前ガイダンス、産休育休中の社員向けSNS、復職前には本人、直属の上司、人事との三者面談をもうけています。
これらはどれも女性社員から概ね好評を得ているものですが、「安心して働ける」という声が一番多く寄せられているのは、0歳〜3歳まで利用できる託児所「I-Kids」の存在です。
人事に聞くダイバーシティへの本音  男性社会のイメージが強い総合商社「伊藤忠商事」の本気の取り組み
託児所「I-Kids」の設置は、ダイバーシティに取り組むという強烈なメッセージだろう。

出産後、育児休業を利用し「育休明け」をいつに設定するか? というのは、託児所を作る以前にも課題として挙がっていました。待機児童問題が社会で深刻化する中で、我が社でも避けて通れない課題として浮上してきていたのです。
お子さんを預ける先がなければ職場復帰は当然、難しい。育児休業からの計画的な復職が難しいとキャリア形成の見通しにも困難が生じてきます。そこで2010年1月、東京本社近隣に社員用託児所「I-Kids」を開設しました。I-Kidsを利用すれば、社員本人が望む時期に育児休業から復職でき、I-Kidsでの保育期間の3年の間に、就学前までの保育園探しができます。

■個別支援の重要性

ダイバーシティを掛け声で終わらせてしまうのではなく、実りのある現実に変えていくには「一律支援」と同時に「個別支援」の必要があります。制度を作っておしまいではなく、必要とされる制度を作ったら、その制度を活用してもらう。そして既存の制度では拾い上げ切れないのであれば、柔軟な「個別支援」でサポートしていく。

伊藤忠商事は、ダイバーシティの考えを持ち続けていくことはもちろん、全ての社員が長く、そしてより活躍できるよう、今後も制度を見直ししながら、柔軟に取り組んでいきます。
(取材協力:伊藤忠商事)
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