脚本:渡辺千穂 演出:梛川善郎

108話はこんな話
二郎(林遣都)が東京行きをやめ、五月(久保田紗友)と共に神戸で生きていくことを決意する。
「運命から逃げずに立ち向かうためにはどうしたらいいのかちゃんと考えてください」
さくら(井頭愛海)が豹変。
「泣いても笑ってもこの子には五月さんしかおらんのよ。
「愚痴を言うてどうするの。どんなでもいから ちゃんと答を出してください。
運命から逃げずに立ち向かうためにはどうしたらいいのかちゃんと考えてください」
突如としてしっかり者になって、↑こんな台詞で、惑う五月や二郎を励ます。「どんなでもいいから」っていうのがツボ。
赤ちゃんのお人形を抱いているときや赤ちゃんの漫画を描いたときのさくらの笑顔が良くて、もうすっかり生きる楽しさを見出した様子で、観ているほうも笑顔に。
とはいえ、あんなに大騒ぎしたのに、と釈然としない人の気持ちもわかる。
二郎の決断
いよいよ東京へ、という日に、弟(耕四郎)がやってきて「父ちゃんがおらんようになった。助けてや。東京なんかに行かんとって」とすがりつく。
「くっそ・・なんでこうなるんや・・・」と悔しい気持ちになりながらも、さくらに発破をかけられて、
「東京に行くのはやめた」
「わしは自分を必要としてくれる場所で愛する人と生きたい」
「音楽なんてどこででもできる。そやけど五月は神戸にしかおらん」
「これからはわしがいる。おまえの隣にずっと」
「五月、うちといっしょに生きてくれ」
などと情熱的な台詞の連打で(さすがドラマー)、ハッピーエンドに。
でも五月が二郎と結婚したら、二郎の家族の面倒も見ないといけなくなるかと思うと、必ずしも幸せとは限らないだろう。
耕四郎役の三輪虎太郎は2002年9月生まれの14歳。なかなか迫真の演技をしていた。たぶん、ヨーソローのセットの遠くから走って中に入るように指導されていると思う。
女たちのがんばり
ひとりで子供を生んで育てることが心細くなった五月に、すみれや良子(百田夏菜子)、君枝(土村芳)、明美(谷村美月)たちが口々に励ますシーンは、「べっぴんさん」の真骨頂だ。
「私たちが子供を生んだときは戦時中でみんなひとりやったもん」「旦那さんがいなかった。それこそ不安で不安で毎日泣いてたわ」という良子。
そう、キアリスの面々は、頼れる男たちがいない間に必死で女たちだけで子供とともに生きてきた。かつてほんとうにそんな時代があったことを忘れちゃいけないと思う。
そうやって生き残ってきた女たちが若い孤独な母親に力を貸そうとする場面は、いまを生きるシングルマザーたちのいいエールにもなったのではないか。そう思うと、このまま五月がシングルマザーとして生きるストーリーでもよかった気もしないでないが(しつこいようだが二郎の家族の世話も漏れなくついてくるのだから)、ともあれハッピーエンドで良かった。
久保田紗友、いい芝居してる。これからもっと活躍しそう。
ストライク!
キアリスの外では少年たちがキャッチボールをしている。
すみれ「ストライク!」
少年「ボールや」
すみれ「ちがうねえ ごめんね〜」
元気に勘違いしがちなおばちゃん感がよく出ていた。すごいぞ、芳根京子。これでまだ19歳だもの。
戦後は、子供がひとりぼっちで所在なさげにボールをもっていた。
だんだん子供が増えていって、いまでは通りが狭いくらいに。
「小さな新しい命がほんのすこしずつこの世界を変えています」(はな/菅野美穂)
というナレーションのように、子供が未来をつくることがさりげなく描かれていて、少子化に歯止めがかかり日本の未来に希望の灯りがともることを祈りたくなる。
(木俣冬)