Twitterフォロワー20万人超のラブホスタッフ上野さんによる「空想恋愛読本」。本連載では、マンガ・ドラマ・アニメ等の登場人物が現実にいたらモテるのか分析。
そこから女性にモテるためのアドバイスを導き出します。
『天元突破グレンラガン』カミナがいる限りシモンはモテない【ラブホの上野さんの空想恋愛読本】
画像出典:Amazon.co.jp「天元突破グレンラガン1 (通常版)

「お前のドリルで天を衝け!」でお馴染みの『天元突破グレンラガン』。
今回はそのグレンラガンの主人公であるシモンとカミナの2人が現実にいたら、どちらの方がモテるかということについてお話しさせて頂きたく思います。


そもそもカミナはなぜ人気なのか


グレンラガンのメインキャラの1人であるカミナは未だに根強い人気が御座います。
しかし、一方で「カミナが嫌い」というような考えをお持ちの方がいらっしゃるのも事実。そういう方の意見を伺うと、カミナのことが嫌いな理由は大きく2つに分かれます。

1つ目は根性論者であるということ。
何でもかんでも気合いで解決する姿勢が嫌い。
2つ目は叫んでるだけだから、ということ。具体的な仕事は他の人に任せているのが嫌い。
確かにグレンラガンにおいてカミナが行った具体的な仕事を考えると、せいぜい敵のガンメンを奪う、という作戦を立案し実行したくらいのもの。戦力として獣人とも戦っていますが、それは登場人物ほぼ全員が行なっていることなので、傑出したものとは言い難いでしょう。物語から早めに退場しているとは言え、シモンやヨーコ、ロシウと比較して実務面で考えると、そこまで大した仕事をしていないのは間違いありません。


そもそも、地下にあるジーハ村から飛び出て地上に出たいと言っていたのはカミナなのに、なんでシモンに穴掘りをさせてるんだよ、と思った方もいるのではないでしょうか。
『天元突破グレンラガン』カミナがいる限りシモンはモテない【ラブホの上野さんの空想恋愛読本】
画像出典:Amazon.co.jp「天元突破グレンラガン 3


「方法を知るものが職を得て、彼の働く理由を知るものが雇い主になる」


「方法を知るものが職を得て、彼の働く理由を知るものが雇い主になる」

これは『狼と香辛料』という小説の中で、主人公のクラフト・ロレンスが言った言葉で御座います。
元々はエマーソンというアメリカの哲学者の言葉のようですが、今回はアニメの考察ということで、アニメ化もされた『狼と香辛料』から引用させて頂きました。

この言葉をグレンラガンに当てはめると、穴の掘り方という「方法」を知っているシモンが「穴掘り」という職を得て、そのシモンが働く理由を知っているカミナがシモンの雇い主になるということ。

この働く理由というのは、かっこいい言葉を使うと「インセンティブ」と言います。
現代を生きる我々にとって、インセンティブ(働く理由)は正直なところ「給料」でしょう。もっと明確に言ってしまえばお金。


先ほどお伝えした「方法を知るものが職を得て、彼の働く理由を知るものが雇い主になる」という言葉は、インセンティブを「提供できる人間」が雇い主になるということなのです。この世界にいる人間のほとんどがお金をインセンティブにしていることは誰でも知っていますが、それを「提供できる人間」となると、これは非常に少数になってしまいます。ですので雇用主になれるのは一部の方だけ。

ところで、このインセンティブですが、それは必ずしも「お金」とは限りません。

わかりやすいものですと「権力」もインセンティブになり得ます。
例えば最近話題のドナルド・トランプ氏ですが、不動産王として37億ドル(約4200億円、※1ドル=113円として計算)の資産を持つ彼が、お金目的で大統領という仕事をするとも思えません。
給料以外にも色々と収入の道はあるでしょうが、大統領の給料というのは40万ドル(約4500万円)に過ぎないのです。1年間働いて貰えるのは、資産の900分の1以下。そんな端金のために大統領なんていうとんでもなく大変な仕事をするとは思えません。恐らくは「権力」や「理念」などのインセンティブがあったことでしょう。実際、インタビューで大統領の給料について「年1ドルだけ受け取る」と答えています。

それでは、カミナは一体どんなインセンティブをシモンに与えていたのでしょうか。


私は「承認」「憧れ」「保護」の3つであったと思います。
そもそもシモンは「穴掘りシモン」と村ではバカにされ、卑屈なところがある少年でした。そんな人間が何よりも求めるのは、まず「承認」。

つまり「自分は正しい」「自分は人から求められている」と思いたいのです。

また、シモンに限らず自信がない方というのは決まって、誰かに憧れ、その人の近くにいたいという欲望が御座います。
そして自信がない方が憧れるのはいつだって「自信がある人」。


もちろんグレンラガンのストーリーを考えればカミナがシモンを捨てるなんていうことはあり得ないのですが、それは我々が第三者だからわかる話。当事者であるシモンからすれば「自分が憧れの人(カミナ)に貢献すれば、きっとそばにいることを許してくれるはずだ」と感じることでしょう。つまり「憧れの人の近くにいてもいい権利」こそがインセンティブになり得るのです。

そして、最後に保護。
これは「シモンがイジメられないようにカミナが守る」という意味も少なからずあるのですが、それよりもずっと大きな話として、失敗した時の責任についてという側面の方が大きいでしょう。

そもそも、グレンラガンにおいて「地上」とは禁忌なのです。偶然上手くいったからいいようなものですが、もし仮にシモンとカミナが地上に出ることに失敗したり、地上に出て痛い目を見たら、これまでの努力はなんだったのか、と思うことでしょう。
そんなとき、シモンの立場であれば「カミナがやれと言ったから!」と責任転嫁ができるのです。もちろんシモンの性格を考えればそんなことを言わなかったでしょうが、それでも「人から命令される」というのは極めて「楽」な立場であることは間違いございません。

思考を、責任を放棄できるのです。
人はみんな責任を放棄し逃れようとする生き物で御座います。誰かに責任を押し付けたい、それが悪いことだとは思いませんし、極めて一般的な発想であると言えるでしょう。
だから、人は皆、少なからず誰かに命令されたい生き物なのです。

命令されていれば、人に責任を押し付けることができる。自分はただ従っただけ、と相手にも自分にも言いわけができる。
逆に言えばカミナの立ち位置では「シモンの代わりに自分が責任の矢面に立つ」ことで「保護」というインセンティブをシモンに与えることが出来るのです。
『天元突破グレンラガン』カミナがいる限りシモンはモテない【ラブホの上野さんの空想恋愛読本】
画像出典:Amazon.co.jp「天元突破グレンラガン1


「意地が張れないなら、男はやめるこった」


ところで先ほどから私は「カミナは自信がある」と言っておりますが、実はカミナ自身に、自信なんていうものは少しも無かったでしょう。

これはアニメ11話のヨーコの台詞からも伺えます。

カミナは自分に自信などなく、ただ強がっていただけ、と。

この世界には、よほどぶっ飛んだ人を除いて、誰一人として自分に自信など無いのです。
世界中にいる、テレビの向こう側に、ニュースのその先に、会社に、学校に、そして、あなたの隣にいるかもしれない「自信のある人」もまた、恐らくは別に自分に自信があるわけでは御座いません。

毎日、不安に押しつぶされそうで、自分にそこまで大きな価値が無いことを客観的に理解して、死んでしまいたいと思う夜だってあることでしょう。

それでは、自分に自信があるように見える人は一体どんな人なのかと言えば、「自信があるように振る舞わないといけない、と理解している」人に過ぎません。

強がり、意地を張り、誇り、戦う。

例え自分に少しも自信がなくとも、それでも周囲には「自信がある人」と思わせなくてはいけないと分かれば、強がり、意地を張り、誇りを持ち、そして戦って、自分に自信があるように見せる。

私はよく「自分に自信を持つためにはどうしたらいいですか?」というご質問を頂きますが、これまで私の記憶の限りでは「自分に自信があるように"見せる"ためにはどうしたらいいですか?」というご質問を頂いたことは御座いません。

どちらが正しいというわけでは御座いませんが、この2つの質問には大きな違いがあると言えるでしょう。

「自分に自信を持ちたい」というのは、自己完結の悩みで御座います。
しかし「自分に自信があるように"見せる"ためにはどうしたらいいか」という悩みは、自分以外の誰かへの悩みであることが非常に多いのです。
何も「俺は人から自信のある人間に思われたい!」なんていう自己満足・自己陶酔の問題ではなく、「自分が人から“自信がある”と思われなくては、自分の周りにいる人は困ってしまう。だから自分に自信がなくとも、自分に自身があるように振る舞わなくてはならない」と。

「意地が張れないなら、男はやめるこった」というセリフは、『凍牌』という漫画の柳という男が言った言葉ですが、この言葉に私は少なからず賛同するところが御座います。

さすがに「男をやめろ」とまでは言いませんが、自分に意地を張り、そしてありもしない「自信」をあるように自分を騙し、人を騙す。自信なんて誰もが持っていないものを、それではいけないからせめて自分は自信を持っているように見せるという意地を張る。男女差別的なことを言いますが、これが男であり、男の仕事なのだと思います。

自信がある人は何故モテるのか


カミナのように「自信があるように振る舞う人」は、男性のみならず、女性であってもモテますが、これは相手に「自信」を与えているからであると言えるでしょう。

皆、誰もが自分に自信など持ってはいないのです。そんなときに「自信が欲しい」と言い続けるのが、自信が無い方。そんなときに「自分以外の人間もきっと自信が無いのだから、自分が自信のあるふりをして、人に自信を与えよう」と思うのが、一見すると自信がある方で御座います。

これは商売でも言えることですが「誰もが持っていないもの」を持っていると、その商品の価値は上がり、値段が高騰するのは間違いございません。例えば、数が極めて限定された商品がオークションサイトやフリマアプリでとんでもない値段で販売されているのを見かけたことは御座いませんか?
あれが「数が少ないので価値が高騰した商品」の典型で御座います。
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画像出典:Amazon.co.jp「天元突破グレンラガン BEST SOUND

さて、繰り返しになりますが、この世にはよほどぶっ飛んだ人を除けば「自分に自信がある」なんて断言できる方はおりません。
しかし、この世界にいるほとんどの方は「自分に自信を持ちたい」と思っているのです。ということは「自信」という商品を作ることができれば、これはとんでもなく価値が高騰するということは間違いありません。

それをやっているのが「カミナ」で御座います。

カミナは作中でも分かるように、自分に自信なんて持ってはいませんでした。つまり我々が感じていた「自信のあるカミナ」という人間像は端的に言って「偽物」なのです。

しかし、これが不思議なもので、「偽物」の自信であっても、その自信を誰かが受け取ったとき、その自信は本物になります。

シモンとカミナの例で言えば、

・カミナは自分に自信があるわけでは無い→カミナの自信は偽物(ただし誰にも依存していないので壊れにくい)

・シモンはそんなカミナを見て「自分に自信がある兄貴に必要とされている」と自信を持つ→このシモンの自信は本物(ただしカミナに依存しているので壊れやすい)

シモンは、性格的にも身体的にも、十分にモテる素質を持っているのは間違いございません。
恐らくはカミナのように自分自身で「強がって」自信があるように振る舞うことができる素質もあることでしょう。
しかし、すぐ近くにカミナという「自信を与えてくれる存在」がいるばっかりに、その才能を開花させることが出来ないでいる。シモンがモテるためにはどうしても「カミナ」から離れるという手順が必要になってくるのです。


シモンとカミナが現実にいたらモテる?



それではこの2人が現実にいたらどうなるでしょうか?

まずカミナがモテるのは間違いありません。カミナはある意味で「自信製造機」のようなところがあって、彼の近くにいると誰もが「自分も自信を持っていいんだ!」と自信を持つことができるようになります。これはカミナが「(周囲の人のために)自信がある振り」をしているからなのですが、真実はともかく彼の近くにいたいと誰もが願うことでしょう。当然それは「モテる」ということとほぼ同義で御座います。

一方でシモンは「技術者」としては非常に優秀であることは間違いございません。
そもそもグレンラガンの世界では「穴掘りが上手」というのは、ほぼそのまま「仕事ができる」ということと同義なのです。ということはシモンは間違いなく「村で一番仕事ができる男」であるということ。

通常であれば「仕事が一番できる男」というのはモテます。しかし、これは「仕事が一番できるという成果を元に、自信を持っていれば」という条件がつくことでしょう。仕事ができれば、通常は「俺ってすごいだろ」と自信を持つものなのですが、シモンの場合はそうならなかった。仕事ができるというのに「俺なんて」といつまでたっても自分に自信を持つことが出来ない男だったのです。

これは良くも悪くもカミナのせいであることは否めません。カミナが無尽蔵にシモンに「自信」を与え続けてしまったせいで、シモンは自分で自信をつける、ということを放棄してしまったのでしょう。

もちろんカミナがシモンに自信を与えなければ、シモンが村一番の穴掘り上手になることもなかったかもしれませんが、それでも村一番の穴掘り上手になった段階で「(精神的に)カミナ離れ」をしなければ、シモンは永遠にモテることが無いのです。いつまでたっても「カミナの腰巾着」としか言われません。そして例え優秀な職人であろうとも、優秀な技術者であろうとも腰巾着がモテることは決して無いでしょう。

現実でもこれは同じで御座います。
シモンは仕事も出来ますし、資質という意味ではそれなりにモテる要素も持っています。
ですが、カミナがいる限り、彼は現実世界において永遠にモテることは無いでしょう。

シモンがモテるためには


しかし、ネタバレになるので明言は避けますが、シモンは物語の中盤くらいから覚醒し、カミナに依存しない「自信」を持つようになってきます。

シモンが現実でもこれと同じように「自分に自信を持つ」ということを出来るようになれば「仕事ができる+自分に自信がある」ということでモテることは間違い無いでしょう。

彼が覚醒した原因を考えると2つの原因があることが分かります。

1つ目は「カミナ離れ」をしたこと。
つまり(事情はともかく)シモンは、カミナという「自信製造機」から距離を取ったのです。通常これは自ら出来ることでは御座いません。自分の自信を全否定する行為なのですから、誰かが強制的に距離を取らせなければ一生距離を取ることはないでしょう。

シモンの場合“そういう意味では”幸運でした。カミナと距離を取ることになったあの出来事を幸運というのはどうかとも思いますが、シモンが自分の力で“自信を持つ”という意味では幸運であったことでしょう。

2つ目は「リーダー」になったということ。
グレン団のリーダー的ポジションであったカミナがいなくなったことにより、事実上シモンがリーダーポジションを継ぐことになりますが、これが非常に重要なポイントで御座います。

というのも人間は、特に男という生き物は“地位”によって変わると言っても過言では御座いません。

どんなダメダメな男でも、試しにリーダーにしてみればそれなりに仕事をするもの。逆に優秀な男を最下層のポジションにしてみると一気に腐るということも少なくありません。

通常、我々は「いい男だからリーダーになる」と考えますが「リーダーになったからいい男になった」というのもまた事実なのです。「鶏が先か卵が先か」みたいな話になってしまいますが、身の回りに"ダメな男"がいたら試しにリーダーにしてみるのも良いでしょう。それまでとは打って変わってとんでもなく優秀な男になることも少なくありません。
『天元突破グレンラガン』カミナがいる限りシモンはモテない【ラブホの上野さんの空想恋愛読本】
画像出典:Amazon.co.jp「劇場版グレンラガン 紅蓮篇

さて、カミナとシモンの2人が「現実にいたらモテるか」という今回のコラムですが、どう考えてもモテるカミナは良いとして、シモンがモテるかどうかというのはかなり厳しいと言わざるを得ません。

というのもシモンがモテるためには、アニメの中で起こった「カミナと距離をとる」「リーダーになる」という2つの偶然がどうしても必要になってくるのです。この2つの偶然が起これば、シモンも間違いなくモテる男になるのですが、現実では偶然が重なることはなかなか無いでしょう。

特に「リーダーになる」というのが問題で、カミナと距離を取った瞬間、これまでの何倍もポンコツになってしまったシモンを「リーダーにしよう!」なんて、現実ではおそらく誰も口にしないはずです。順当にキタンあたりがグレン団のリーダーになっていた可能性が極めて高いと言わざるを得ません。
キタンもカミナほどではないにしても「自信があるふり」が出来る男です。そんなキタンを差し置いて隅っこでグズグズしているシモンをリーダーにするでしょうか? 恐らくはそんなことは現実では起こり得ません。

ですので、シモンが現実いた場合、恐らくは高確率で「カミナの腰巾着」として生涯を終えてしまうのではないかと思います。
(上野)