アリオラジャパン
昨日公開のその1
「家族愛」の歌だもんね
───しかし、「微笑みがえし」のように、、閣下や聖飢魔IIの詩のフレーズを使うのは大変でした。強い単語が多いんです。
閣下 なるほど。
───「ノアの方舟」のモチーフで、人や生物を乗せていこうという歌詞ですけど、では、閣下のこれまでの楽曲に出てきた「誰」を乗せるか。これがもう、非力な河童からアンドロイドまで実にバラエティに富んでいるし、「敗れざる者」みたいに熱い「者」も魅力的で。歌詞全体もだんだん大風呂敷を広げたような、壮大な歌詞になっていった。方舟というモチーフは閣下の詩世界とは別に考えたんですが、僕自身の筋肉だけでは到底できない雄大な世界観を描けたのが嬉しかったです。
閣下 へええ。
───貴家さんの作詞も羽田さんの歌詞もね、「自由に」って同文コピペで言われたんだとしても、やはりお二人とも「悪魔に歌ってもらうんだ」ということを意識した気がします。
閣下 そうだね(深く頷いて)、明らかにそうですね。
───貴家さんの作詞「地球へ道づれ!」は、僕とはまた別のアプローチで、閣下の歴代の曲のムードを咀嚼して、その上でさらにこんなこと歌わせたら面白いぞっていう…
閣下 「家族愛」の歌だもんね。
───うん、すごい意表を突かれたし、でも悪魔が歌う意味がある。
閣下 そう!
───面白かったですねー。羽田さんの作詞した「Stolen Face」は、また律儀にね−−彼、真面目な人だから、彼なりに考えた−−悪魔的批評眼が出てますね。三者三様に、ただ漫然と作詞を頼まれたのではない。「お前そんな筋肉あったのか?」みたいなね、ところを引き出してもらったみたいな感じがしますね。
閣下 うまいことね、みんなの視点がうまいことばらけてよかったなあと、思ってます。
───あと「Stolen Face」は羽田君が(物書きの後輩だから、急に「君」づけで)、自分の小説「盗まれた顔」を自分でタイアップしたんだなって。
閣下 自分でタイアップ(笑)。内容は(小説と歌詞とで)違うんだよね。
───でも、彼の中にね、常にあるモチーフなんだなって思いましたね。「盗まれた顔」WOWOWでドラマになるって言ってましたね。
閣下 一人タイアップ。(笑) 自分で主題歌書いてるっておかしいね。
───そう、手前味噌も甚だしい。
閣下 羽田羽田しい?
「しゃぶしゃぶ」の歌も、「なめこ」の歌も
───ハハハ、僕の方舟モチーフの歌詞の場合、初期の歌詞はかなりコミカルだったんですよね、それでご苦労されたんじゃないでしょうか?
閣下 いやまあ、そうでもないけど。
───そうですか。2番の「俺は何でも歌ってやった」というところでね、「黄金郷」や「北極星」を歌ったというのはそれっぽいけども、最初は歌詞に「しゃぶしゃぶ」とか入れていたでしょう。
閣下 「しゃぶしゃぶ」の歌も、「なめこ」の歌も歌ってる。(我輩は本当に)「何でも歌って」るよね。(笑) よく考えると「砂漠のとかげ」まで。
(注・しゃぶしゃぶは『しゃぶしゃぶレンジャーの歌』魔暦えーと4年つまり2002年リリース。「おさかな天国」のようにスーパーの精肉売り場でかかっていた曲。ミヒャエル・シャブシャブスキー氏の歌唱ということになっている。なめこはスマホアプリ「おさわり探偵 なめこ栽培キット」から派生した『なめこのうた』をアレンジした『地獄のなめこのうた』魔暦14年だから2012年。『砂漠のとかげのうた』はEテレの番組「0655」の挿入歌。魔暦19年すなわち今年!も不定期で放送中)
───閣下の歌の世界は本当に題材が幅広いです。
閣下 あの段階ではそれほどでもなかったけどね。年を越すあたりがね、
───越すあたりで急に僕「やっぱりこっちの言葉で!」とね。
閣下 そうそうそう。(笑) ちょうどもう仮歌から本歌に変わりつつあってアンダースももう、スウェーデンでバック・ヴォーカルを入れてる段階になっちゃってて、そのコーラス入れちゃったところが変わることになったんで。
───アンダースに「sorry」と言っといて下さい。
閣下 ハッハッハッハッハッ! (笑)
───とにかく、閣下から仮歌が来てやりとりをする度に、これもっとかっこよくできる! という欲がこっちにもつい出てしまって。
閣下 まあ、そういうもんだと思いますよ。
───ご迷惑をおかけしまして。そういえば昨年末、31日までやりとりしたんだけど、あのときメールに「良いお年を」って書くかどうか迷って。
閣下 でも「悪いお年を」って書いてくる信者は結構いるよ?
───「来年も、悪いお年を」 (笑)。もう一つ、僕の歌詞の源泉になったのは、千代の富士関が亡くなった時に閣下がご自身のブログを更新されて、哀悼の意を表明されたんだけども、それがとても人間っぽい言葉だったんですよ。「昭和も遠くなりにけり」という見出しで…
閣下 はいはいはいはい(言いたいことは分かったぞ、と察した表情で)「10万年も生きてるのに、昭和のことを気にすんのか」っていうことね、(笑)
───そうそうそうですよ!(笑) 10万年生きているお方が、「昭和も遠くなりに…」いやいやいや!(笑) まず、そう思ったよ(←興奮して、敬語でなくなってしまっている) (笑)
閣下 ハッハッハッハッハッハ! (笑)
───それこそね、10万年生きてる悪魔って言ったってね。「メイクでしょ_」「ヒトでしょ?」とかって、言う人はいるでしょ?
閣下 フッフッフッ(面白そうに頷く)
───そういう人に格好の、隙を与えるような言葉のように思えたんですよ。でも、最初はそう思ったんだけども、「それでもなお、その言葉を言いたかったんだ!」と続いて思ったし、もっと考えていくとですね。僕は10万年生きたことがないから、わかんないんですけど、10万年生きている存在が文明を見てても、何十年間を「すごく短い」って思うかもしれない、とふと思ったんです。「10万年生きたから短いスパンのことはどうでもいい」とはならないんじゃないか。で、閣下は今、10万50何才ということなんですけども、閣下自身は、もうあと10万年生きると思ってないなあって…
閣下 ハッハッハッハ、 ほう。
───うん。そうであればこその「昭和は遠くなりにけり」だなと思って、グッと来たんですよ。だから、10万年生きてる閣下自身もしみじみ言えないようなことを、詩に込めようと。
閣下 全然(即答)。
───普通に哀悼の意でよいと。
閣下 はい。
───そうかー。えー、そうなの?!(敬語がまた崩れている)
閣下 ハハハハハハハ 、いや、別に、何にも考えてないですね。
丁寧に喋って何がいけないんだろう
───だんだん「そういうこと(つっこみをされても)どうでもいいや」と吹っ切れたようなところもあるんですか?
閣下 あるでしょうね。まあ、いいんじゃないのかな、と。特に、相撲のことはね。NHKの大相撲中継のゲストに出た時は、敬語で通してるのね? あれなんか相当、新鮮だったらしくて、世の中的に。「丁寧にしゃべってる」っていう。(笑)
(注・好角家で知られる閣下だが、当初、日本相撲協会から「悪魔の格好での国技館出入り禁止」をお願いされ、閣下もそれを守っていた。だが魔暦…でいう必要はこの場合はないか、2006年1月にはNHKのテレビ放送のゲストとして招かれている)
───そのときは「ツッコミ」は?
閣下 やっぱり「相撲のことになると丁寧になるんだね」みたいな (笑)。
───そうですね。
閣下 昭和がどうしたとか平成がどうしたって話は、相撲の話だったからっていうのもあるんじゃないかな。
───その、振る舞いを自由にやっていうこうという姿勢が今度のソロアルバムにも反映されてるか、わかんないですけども…
閣下 反映されてるんじゃないかな、特に今回のなんかは。
───はい。ニューアルバム『EXISTENCE』は「かつてなくポップなアルバム」とプレス向け資料にも書いてましたが、本当にそう思いました。
閣下 (深く頷き)えぇ、えぇ、うん、そうだと思うなー。自分でもそう思いますよ。
───貴家さんや僕や羽田くんなりの悪魔の歌詞がある一方で、閣下が手がけた歌詞は、昨年のインタビューで僕が熱弁を振るった「生きるということを肯定する」感じが、よりストレートに出てるような気がします。
閣下 あぁ、そんな話しましたね、去年ね。
───アルバム内の個々の曲でいうと「ゴールはみえた」もそうですし、「Just Being -ここにいる そこにいる-」などはシンプルな「君がいる、それだけでいい」の繰り返しです。ラブソングとも取れるし、人間や生命への賛歌にも聞こえます。人間を俯瞰して肯定しているという以上に、ある個人をただ肯定している詩になっている、新境地…
閣下 うん。新境地だよね。(笑) こういう詩を書いたことないし、歌ったこともないけど、思い浮かんだんだよね。
───フレーズもすごくミニマムです。これまでの閣下の詩作は、変な語彙が出てくるところを僕は面白いと思ってたんです。井上陽水がかつて「氷の世界」でやったナンセンスの詩の、閣下は後継者だと僕は思っていて。
閣下 ほう。
───そういう方面を「Jポップ」というか流行歌でさらに掘り下げたミュージシャンは案外いなくて。「変な歌」ってすべてコミックソングみたいになっちゃうから。不条理とかヘンテコなボキャブラリーで、変な気持ちにさせるような方向の詩が閣下にはあります。また、「死ね」とか「殺せ」と歌う激しい曲でも、不意に意表を突く語彙が出てくる。どちらも大体言葉数が多かったり、強くて派手なフレーズが多いのと比べた時に(先の「Just Being」は)、禅の境地に立ったじゃないけれども…
閣下 ハハハハハ
───一瞬、相田みつをみたいだとも思ったんですが、あれみたいに説教がましくなく、ただ素朴に言葉を置いたみたいな。これはメロディも美しくて。
閣下 これ、元々はアンダースの作曲なんだけど。メロディが物凄くシンプルで、しかも単に繰り返しが多かったので、これ難しいなー、どんな歌にしようかと思ってる時に、パッとひらめいちゃったのね。一番最初の「僕はここにいる」を。「これ全部ハマるじゃん」と思って。さっき、でもブルボンさんは、特定の誰かを対象としてるようにということをおっしゃいましたが、実はここは、そうではなくて、(歌詞の中に)一人称も二人称も複数あるでしょ?
───あ、なるほどなるほど。
閣下 これは日本語の面白いところで、いろんな立場の人が同じことを言っているということも一つそこにはあって。誰かと誰かって特定は、実はしてないのよ。
───「わたし」「僕」から「お前」「あなた」「君」なるほど。そうするとやっぱり俯瞰している曲でもあるわけですね?
閣下 そうね。
───うんうんうん、なんかね、これはたしかに新機軸でした。
閣下 なんかすごいの出来ちゃったと思ったもん、出てきた時。
───あ、やっぱり。すごいといえば「深山幻想記」これもすごい曲です。
閣下 ハハハ! ね!
あれケルトの角笛
───純邦楽とコラボするのは閣下の得意技と言っていいのかな。特にこれは、針を振り切った気がします。
閣下 そうだね、振り切ってるね(笑)。全部が入ってるよね。
───はい。閣下の語呂や韻の合わせ方とかナンセンスだとか、あるいは英語と日本語の融合だったり、さらに故事か何かからの引用が全部。ただこれは真面目に「この歌詞はどういう意味なんですか?」って聞いていくのが野暮ですよね。
閣下 そうだね。
───これは、作詞作曲に、あの…いっそさん?
閣下 「いっそう」なんだけどね。一噌幸弘。
───一噌さんと共作なんですね?
閣下 結果としてそうなってるってことだね。もともとはインストゥルメンタルの曲。一噌氏が、自分が笛を演奏する、または他の楽器とコラボレーションする際、ソロを回したりする時に使っていた曲で、お皿(ディスク)にもまだなってなくて。で、我輩は昨年、一噌氏の主催するイベントにゲストで出演して。その際に「せっかく出演してるんだったら、歌を歌いましょうよ」となって、元々は歌詞がなかったものに、一噌氏と我輩が書いた部分が合体していって…分量的には我輩が書いたところが圧倒的に多いんだけれども。
───この曲は世界がどんどん進行していくグルーヴ感がありました。和楽器のはずなのにケルト音楽みたいですよね。
閣下 そう。最初に出てくる笛の音はケルト楽器だから。途中に出てくる笛は全て日本の笛なんだけど、一番最初のちょっとバロックぽいところは、あれケルトの角笛。だからケルトっぽく聞こえて当たり前。
(ブルボン小林)
その3(全3回)に続く