AKB48グループの総監督・高橋みなみが横浜アリーナで吠えた。
9月16日に開催された「第6回AKB48グループ ソロシングル争奪じゃんけん大会in横浜アリーナ~こんなところで、運なんか使っちゃうのかと思うかもしれないが、とりあえず、勝たなきゃしょうがないだろ」のラストでの発言だ(しかし長いタイトルだ)。
2010年の第1回では“非選抜メンバー”の内田眞由美(今年8月にグループ卒業を発表)が優勝したとはいえ、翌年の第2回以降の優勝者は篠田麻里子(2013年に卒業)、島崎遥香、松井珠理奈(SKE48と兼任)、そして昨年の渡辺美優紀(NMB48と兼任)と、いずれもシングル曲を歌う選抜メンバーの常連だったことから、じゃんけん大会は八百長ではないかと噂も絶えなかった。
しかしそんな噂も、今大会の結果で吹き飛ばされた。今回決勝に残ったのは、AKB48のチームKの藤田奈那とチームAの中西智代梨。中西は昨年AKB48に移籍する前、HKT48在籍中にシングル選抜に入った経験はあるものの、藤田ともどもAKBのシングルでは選抜メンバー入りの経験はない。
決勝前の風景もいままでにないものとなった。対戦をひかえた2人は、ステージ上で闘志を燃やすというよりは、藤田はずっと頬を両手で押さえ、中西は丸椅子を抱えるという具合に、あきらかに戸惑っていた。これというのも、優勝すれば特典としてソロシングルのリリースが決まるからだ。藤田が「どっちが勝ってもやばいです」と口にすると、中西も「私たちじゃないよね」と応じる。
それでも「智代梨には勝てるかもしれない」と藤田がやっと闘志を示すと、中西も「最後は勝って終わりたい」と希望をのぞかせた。
こうしていざ決勝戦が始まったのだが、勝負が決まるまであいこが続く。4回目のあいこのあと、中西は「早く終わらせましょう」と言い、藤田も「もう帰りたい」と漏らした。
(c)AKS
しかしなおもあいことなり、結局今回の大会最多の6回、それもグーばかりが続くという展開に。
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小嶋真子×小嶋陽菜 負けたほうは“小嶋禁止”!
決勝戦にかぎらず、今回の大会ではあいこになった場合、最後にどちらか一方がその直前に出したのと同じ手を出すことがやけに目についた。
たとえばAブロックの第1試合、佐藤妃星(AKB48チーム4)と山本彩(NMB48チームN・AKB48チームK兼任)の対戦では、チョキ、グー、チョキの順であいこが続き、最後は山本がチョキを出して負けた。NMB48のリーダー格の山本だが、対戦後、「引くぐらいあいこが続いて、めげてしまった」と意外にも気弱なコメントを残した。
ちなみにこの日の山本は、艶やかな着物に番傘という出で立ちで出場。番傘には、今月末に始まるNHKの朝ドラ「あさが来た」のタイトルが大きく書かれていた。これは、このドラマの主題歌に山本がセンターを務めるAKB48の楽曲「365日の紙飛行機」が使われるため。
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山本は同じ手を続けて出して負けたケースだが、逆にそれで勝ち抜いた例も一方では目立った。たとえば小嶋菜月。
彼女は自分の試合を前に、Aブロックでの小嶋真子(愛称はこじまこ。AKB48チーム4)と小嶋陽菜(同こじはる。AKB48チームA)による“小嶋対決”でこじまこ側のセコンドについた。対決はこじはるの勝利に終わり、負けたらこじまこと一緒に今後1週間「小嶋」を名乗ってはいけないとの事前の約束に従い、その後の対戦には「なつき」の名で出場した(結果的にベスト16入りを果たしている)。
他方、同じ手を出し続け勝ち進んでいったメンバーもいる。木崎ゆりあ(AKB48チームB。崎の大は正しくは立)はその一人。彼女は「ゆりあピース」というキャッチフレーズからなのか、チョキを出し続けてベスト4まで残った。準決勝では相手の中西智代梨がそれに気づいたのかどうか、あいこのあとグーを出されて敗れている。
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チャンスへの思いが彼女に最後の最後でパーを出させた
今回の優勝者・藤田奈那もグーを出し続けて決勝まで進んだ。終演後のインタビューでは、「1回戦目をやるときにパッとグーで行こうと思って。で、勝って、その次も勝ったので、きょうはこのグーで行けるんじゃないかと思って最後までずっとグーで行きました」と語っている。
しかし決勝では相手の中西智代梨もグーを出し続け、先に書いたとおりじつに6回もあいこになった。ここまでグーが続いたら、次にパーを出したほうが勝者になる……おそらく多くの観客がそう思ったことだろう。
均衡を破ったのは藤田だった。
「パーを出そうって決めた瞬間に『勝つな』と思いました(笑)。相手の中西智代梨ちゃんが絶対に変えない感じがあったので、ここでパーを出したら『勝つな』って思いました」
「何回もあいこが続いていくうちに、ソロデビューなんてチャンスはもう二度と来ないかもしれないから、どうせここまで来たんだったらつかみたいなと思って、パーに変えることに決めました」
(いずれも終演後のインタビューでの発言)
最後の最後で、チャンスをつかみに行こうと思ったのが勝利につながった。ほんの少しの思いの差が勝敗を分けたということだろう。一方で、あくまでグーで勝ち抜けようとした中西に心の強さも感じる。
毎年、この時期にじゃんけん大会を観戦するたびに感じていたことだが、今回の決勝を見てあらためてじゃんけんという競技の奥深さに思いいたった。
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ちなみに私がじゃんけん大会を観始めたのは2011年の第2回からだ。第2回と昨年の第5回は地元・名古屋の映画館でのライブビューイングで、第3回と第4回はテレビ中継でそれぞれ観戦している。それが今回初めて現地で観ることができた。
今回は今回で、会場の横浜アリーナに向かう途中、付近で安保関連法案反対のデモが行われているところに遭遇した。これは同日に、新横浜駅近くのホテルで参院特別委員会の地方公聴会が行なわれていたためだが、時代の記録として、ここにつけ加えておきたい。
(近藤正高)