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松本潤・石原さとみ『失恋ショコラティエ』 最終回を検証 サエコ、こわい、サエコ、魔物
失恋ショコラティエ/ポニーキャニオン

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新型コロナ感染拡大の影響で、各テレビ局では過去の番組の再放送や再編集版、傑作選などが多く放送されている。

フジテレビ系列で2014年1月〜3月にオンエアされた「失恋ショコラティエ」が再放送され、最終回を迎えた。
今作は、“リアル”で“切ない”片想いと、チョコっと“過激な妄想”ラブストーリー。エキレビ!で本放送時に掲載した、木俣冬氏によるレビューを再掲する(日付などは当時のまま掲載)。

サエコ、こわい、サエコ、魔物


主人公・爽太(松本潤)は、11年思い続けたミューズ・サエコ(石原さとみ)を夫から奪ってしまうのか? それとも、気も体の相性も合う、えれな(水原希子)とやり直すのか? やきもきした月9ドラマ「失恋ショコラティエ」がついに最終回を迎えました。15分、放送時間を拡大して描かれた爽太の選択はーー爽太だけにとっても爽やかなものでありましたー。

サエコがリクエストした、ストレスを感じた時、バックバック食べることのできるチョコバーを試作している爽太のところへ、長らく放置されていたえれながやって来ます。「やっぱりこのまま諦めたくない、そう思ったから会いに来たの」といつになく真剣な表情のえれな。自分が出演するファッションショーのチケットを爽太に渡します。
「もし爽太くんも同じ気持ちなら観に来てほしい」と。

その様子を、サエコが黙って見ていました。うわ、こわ。直接対決してないけど、余計にこわい。

ここで爽太、また得意の妄想が炸裂。えれなに刺される妄想をします。
妄想明けに、「火の用心」の声がかぶるのですが、この演出は謎(演出は第1話と第5話を担当した松山博昭)。恋の火の用心ってことなのか? と悩みながら見ていると、えれなの話を聞く、おネエのショコラティエ六道(佐藤隆太)の、コミカルなターンに突入。このおもしろシーンに行くための、ストロークだったのでしょうか。

それから、薫子が、サエコ先生の恋愛アドバイスを聞いて、関谷(加藤シゲアキ)を再びゴハンに誘います。ここでまたもサエコの恋愛論。たとえ、関谷とうまくいかないにしても、

「何万人も何千何万人も世の中に恋人候補がいる」
「すべての恋人候補のためにしてる努力と思えば楽しめる」

すごいなあ、サエコ、恋愛至上主義! その一方で、結婚論も。


「相手の悪いところを受けとめたり、その人の吐く毒を受けとめたりすることなのかなと今、思いますね」

なんだ、サエコのこの、なんでもわかった感じは! 結局、夫の子供を妊娠していて、夫の元に戻ることになるのです。

「爽太くんが好きだったのは、ほんとの私じゃなくて、ただの幻想だったんだよね」
「私たち帰らなきゃ、いつまでも幻想の中では生きられないよ」

と、最もらしいことを言って、爽太のもとを離れます。これでは、サエコ、結局、母親になる前に、恋も楽しみたかっただけなのでは? とうがった見方をしてしまいますよ。

でも、爽太は、サエコのことを恨みもせず、「あの時(ホワイトデーの時)、サエコさんを手に入れたんじゃない、失ったんだ」とひとりでナットクしてしまうのです。今までだったら、ここで薫子がサエコに対して毒舌をたたくところですが、サエコの恋愛指南によって、薫子はすっかり牙を抜かれてしまっています。

サエコに去られ、ショコラのインスピレーションがまったく沸いてこないで、店まで休んでしまうほど落ち込む爽太に、薫子は「サエコを奪いに行け」とまで言う始末。


「爽太くんにはショコラティエでいてほしい。
だからサエコさんのこともあきらめないでほしい」
「爽太くんにはサエコが必要なんだ」

と完全に洗脳状態です。

松本潤・石原さとみ『失恋ショコラティエ』 最終回を検証 サエコ、こわい、サエコ、魔物

やっぱ、サエコ、魔物ですよ。
自分のやりたいことをやれるように、周囲にも魔法をかけているとしか思えません。

薫子に励まされた爽太は、チョコバーを作り出します。

さあ、ここで松潤の眼の演技、炸裂です。
覚醒の瞬間を眼の開き方で表現。松潤、どれだけ、眼のパターンをもっているのでしょうか!

ですが、この眼に、少し憂いがあったことは、後にわかります。爽太は出来上がったチョコバーをサエコに渡しますが、それは平凡な出来であることを、サエコも爽太自身もわかってしまうのです。恋の終わりです。

「これが今の俺だよ。サエコさんを失って空っぽになっちゃったから」

これが今のおれの実力、と潔く受けとめるなんて、爽太、攻めの羽生結弦だと思っていたら、高橋大輔でしたね。


冗談はさておき、恋の終わりって、振っても振られても、脱力してしまいますよね。熱が高ければ高いほど。でも、空っぽにならない恋は逆に寂しい。空っぽになるくらい、相手を好きになったことはかけがえのない時間になります。爽太の場合、サエコを好きになって、ショコラティエになって、人を魅了するショコラをたくさん生み出したのですから。

でも、それももう終わり。もうサエコとの恋ではこれ以上のショコラの高見には登れない。爽太は、ついに、サエコに「もう2度と会わない」と宣言します。

まあ、妊娠して、家庭生活を歩んでいこうと決心してるサエコをこれ以上追ってもしょうがないですよね。ついに、サエコの呪縛から、爽太は解放されたと言いたいとこですが、結局、魔物サエコが爽太を手放した、と解釈したほうが良さそう。

その証拠に、別れの日、サエコのスカートとハイソックスの間の生足の分量は少ないのです。それに、旦那さんと買い物している場面のブリブリっぷり。サエコ、期待を裏切りません。徹底的にこわいです……。

ドラマ後半戦から、サエコの妄想が広がらない表現として、テレビ画面がザザッと乱れるのですが、そこはかとなく貞子感あるのが可笑しくて。サエコとサダコ、微妙に語感も似てるし。

原作漫画はまだ完結していないので、ドラマ版に限って言うと、かわいい悪い妖精サエコに翻弄されて、捨てられた爽太が、どう立ち直るか、というお話でした。爽太は、えれなの元に戻ることもありません。これで、えれなと付き合ったら、ブーイングでしょう、賢明な選択です。

たったひとりパリに旅立つ爽太の姿に、最初にサエコに手痛く振られた時と同じじゃん!と思ったのですが、違うのは、あの時は、すごいショコラティエになって見返してやるという思いで旅立ったけれど、今回は、サエコのことは完全に吹っ切っているってこと。

「おれは振り返らずに前を向いて歩いていきくよ」と爽やかに微笑む爽太の顔に、もう一回、歩き始めるためには、やっぱりちゃんと失恋することが大事だという教訓を得ました。

これでようやくタイトルどおり「失恋」になったのです。おめでとう! と祝福しながら、よくない妄想がもくもくと浮かんできてしまうのを止められません。旅立つ爽太の背中に、「男はつらいよ」の寅さんを想像してしまったのです。

「失恋ショコラティエ」という通り名で、マドンナに恋しては失恋を続けながら、そのたび、出会ったマドンナに触発されて、ショコラを作り続けるショコラティエの話が見てみたい。
(木俣冬)



番組情報


フジテレビ
「失恋ショコラティエ」
出演:松本潤、石原さとみ
水川あさみ、水原希子、溝端淳平、有村架純、加藤シゲアキ(NEWS)
佐藤隆太、竹中直人
原作:「失恋ショコラティエ」(水城せとな/小学館月刊フラワーズ連載)
脚本:安達奈緒子
音楽:Ken Arai