
直接の会話はもちろん、不特定多数の人の目に触れるかもしれないSNSに投稿するときも、誰かしらを傷つけてしまうかもしれないと思うと、話のネタに困ってしまうことがあります。

テレビ番組の企画を考える放送作家さんは、特に倫理的視点が厳しい昨今、普段から「誰も不快にさせない」ことを意識して企画を考えているのではないでしょうか。
「誰も不快にさせない話し方や話のネタを教えてください」
あえてハズす会話術
職業柄、いろんなことを知っている放送作家さん。日常会話では、このような気遣いをしているそうです。

基本的には「正解のリアクション」をとることを意識しています。
知っていることに関する話だと、オチが予想できるので、こういう話だろうなというのを予想してリアクションします。
例えば、「○○っていう店がすごい」という話を聞いたとして、そのお店のインテリアがすごいという情報を元々こちらが知っていた場合、わざと「メニューが多いとか?」など、ハズしたリアクションをします。そうすることで、相手も話しやすい、自分もリアクションをとりやすくなります。
「あのお店がすごいんだよ」「あぁインテリアがでしょ?知ってる」…つまらないですよね。
相手の反応が嬉しそうだと、こちらも楽しくなって会話が盛り上がります。つい知っていることを「知ってるよー」と言いたくなってしまうのが人間かと思いますが、それを我慢することで人が楽しそうにするのならば、喜んで我慢できる気がします。
また、自分から話を振るときはこんな一言を加えると良いそうです。

自分から話を振るときは、「聞いた話なんだけど」と最初につけることが多い気がします。そうすることで、もし知っていたら相手を立てられるし、知らない話だとしても「自分もたまたま聞いたんだけどね」とつけられるので。
「案の定」をお城だと思っていた筆者は知識が豊富な人を尊敬します。しかし、いつもそちらの知っていることばかりを話されていたら、ちょっと疲れてしまいます。「またかぁ」と思われないためにも、ときどき「人から聞いた話」に変身させるのも素敵な気遣いですね。
「不謹慎」などのクレームが来ないような工夫は?

バラエティ番組だと特に、のほほん、ほっこりではなく、ハラハラドキドキのような企画が求められると思います。
視聴者Aさんにとって「面白い」と感じたものが、視聴者Bさんにとっては「不謹慎」と感じられることもあるかもしれません。Bさんのような人をなくすためにしている工夫ってありますか?
事件や事故などの被害者がいるものに関することや、亡くなった人がでたことは扱いません。そういったこと以外に工夫は特にしていません。

これまでに、「不謹慎かも」と思ったものは特にありません。でも逆のようなことがありました。
「借金がある人が漁船に乗って一括返済を目指す」企画を出したときに、借金を返せるという正義があるのでいけるかなと思ったのですが、プロデューサーさんに「できるわけないだろ」と怒られました。
借金返済と漁船。筆者では思いつかない組み合わせにさすが!と思いましたが、プロデューサーさんからのGOサインはでなかったとのこと。「借金がある人を馬鹿にしている感じがしたからだと思う」と話す放送作家さん。
会話でもSNSの投稿でも、「これ良い」と思ったらとびつかずに一度、他の面はどのような性質を持っているのか考えてみることが、人を不快にさせないポイントのひとつと言えそうです。
「仕事モード」で荒療治!?
少しでも面白いと思ったら提案するのが放送作家なので、テレビの企画段階では、人を不快にさせないかどうかまで考えていません。それを止めるのがプロデューサーだったりするので

そのお話を聞いて思ったのが、仕事だと、わりかし強気になれること。
筆者も執筆のときなどに、考え方によっては人を不快にさせる内容かもしれない…と不安に思うこともありますが、そのまま提出しているときがあります。「NGなものだったら、編集さんがそう言ってくれるから大丈夫」と思いながら。
日常会話では、プロデューサーさんや編集さんのようにストップをかけてくれる存在はいませんが、一見平和な猫の話ですら、死んでしまった猫を思い出して悲しむ人がいるかもしれません。前述のとおり、物事には多面性があり、人もこれだけ多くいる世の中で万人を不快にさせないことなど無理な気がします。みんなを傷つけない気持ちも大事ですが、傷つけてしまうことに怯えて自分の気持ちを出せなくなってしまうことは悲しいこと。自分のことも大事に、心を「仕事モード」にして強気に出るのもアリでしょう。
(武井怜)