彼らがここに立つのは2007年11月25日の10周年記念ライブ『MUCC 10th Anniversary Memorial Live“家路”』以来、実に10年ぶりであった。当時は、オープニングに「残酷な天使のテーゼ」を用い、『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジ役である緒方恵美氏の影アナで意表を付くなど、何かとサプライズを仕掛ける彼ららしい演出はあったものの、子供の頃から在った憧れの地元大ホールでのライブということもあり、等身大の自分たちで向き合った純粋な凱旋公演だった。
そこからさらに10年。オーディエンスを楽しませる技量が増した彼らは、確実に“この日、この場所でしかできないライブ”を残したと言えるだろう。
10分押しで始まったライブは、会場備え付けの開演ブザーを合図に、緞帳がゆっくりと上がるというクラッシックなオープニングからスタートした。頭から暴れる覚悟で構えていたオーディエンスにとっては、少し拍子抜けな始まり方であったことだろう。しかし、緞帳の向こうに見えて来たのは、ナント、教卓と4つ並んだパイプ椅子と、天井から吊り下げられた「MUCC成人おめでとう」と書かれた看板だった。彼らはこの日のライブを成人式に見立てていたのである。
メンバーの思惑を察したオーディエンスは、その光景に“おめでとう”の言葉と拍手を贈った。影アナによって呼び込まれた紋付羽織袴姿の逹瑯(Vo)、YUKKE(Ba)、SATOち(Dr)は静粛にステージに並ぶも、ミヤ(Gt)はド派手な羽織袴姿で場内から遅れてプロレス入場し、あげくステージによじ登るという、昔ヤンチャだった頃そのままを再現した演出でオーディエンスを楽しませた。この成人式には、水戸市マスコットキャラクター「みとちゃん」から納豆の贈呈や、“MUCC村の村長”としてムック(ひらけ!ポンキッキ)から祝辞が述べられた。
成人式を終え、いよいよライブの本編がスタートした。
とにかくオープニングから遊び心満載でオーディエンスを楽しませたMUCCだったが、この日は過去曲だけを中心に届けていくというノスタルジックなものでもなく、最新楽曲と、普段のライブではあまりやることのない旧曲たちを実に上手く構成したセットリストで“現在のMUCC”を見せつけてくれた。
この日、特別な演出で魅せたのは「砂の城」。ゲストキーボーディストの吉田とおるのピアノ伴奏と、ミヤのアコースティックギターに乗せて届けられたこの曲は、激しくディープな音を放つパブリックイメージからはかけ離れた、実にフォーキーな雰囲気で唄い上げられたものだったが、これぞ彼らが原点、サウンドと同じく重んじる歌詞に用いた言葉の運びの美しさが、しっかりと聴き手に届いた時間であったと言える。そして、彼らは何よりも、この日、この場所に響かせたかった楽曲であったに違いない「家路」へと音を繋げたのである。
何もかもが自由で、手放しでそのすべてを楽しむことができた古里の中の自分を思い返しながら、都会や社会に揉まれ、いつしか“その頃”のように笑えなくなった自分へと問いかける、誰もが重ねることができる、戻ることのできないかけがえのない時間と現在の自分との間にできた距離が歌われたこの曲は、彼らが21歳の頃に作った楽曲である。さらにそこから歳を重ね、“無くしたくないものがある”時代から、また一層距離ができたことで、説得力が増していた気がしてならなかった。また、水戸という場所で聴けたことも、より情景を鮮明に浮かび上がらせたのだろうと思う。
ここから繋がれたMCでは、5月1日に『石岡市ふるさと大使』と、『水戸大使』へのダブル就任したことを改めて報告し、石岡市と水戸市を全力で盛り上げていくことを誓った。
そしてアンコール。彼らのサプライズはまだまだ終ってはいなかった。アンコールではSATOちがヴォーカル、YUKKEがギター、逹瑯がベース、ミヤがドラムというパートチェンジで「世界の終わり」と「蘭鋳」を届け、その後に、MOON CHILDの「ESCAPE」、LUNA SEAの「Dejavu」、16歳の頃に作ったという「NO!?」が届けられた。「ESCAPE」前に流れたSEも、カバー曲の選曲も、顔に“神”のペイントを描いた逹瑯の出で立ちも、20年前の島村楽器 水戸マイム店 Aスタジオ(通称 マイチカ)でやった初ライブの完全再現であったというから、そのこだわりたるや脱帽である。
そして彼らはこの日のラストを、最新アルバム曲の1曲目「脈拍」で締めくくった。この曲を飾った今作のヴィジュアルドロップが、誇らしげに4人を見守る中、ミヤのつま弾くギターの音に、逹瑯は“今日まで関わってくれたすべての人達に心から、心から感謝を――。ありがとう”という言葉を乗せた。
この日の「脈拍」は、いつも以上に艶やかな鼓動であった。最近のライブでは1曲目に置かれていることが多いこの曲をラストに持ってきていた意味。すべてがこの地から始まったことを意味していたように感じたのは、私だけではないはず。そして再び、この日彼らはこの地から未来へと羽ばたいたのである。
6月20日21日に日本武道館で行われる、『MUCC 20TH-21ST ANNIVERSARY 飛翔への脈拍 ~そして伝説へ~」と題された20周年集大成ライブでは、いったいどんな未来を魅せてくれることになるのだろう?
(取材・文/武市尚子)
≪ライブ情報≫
【MUCC 20TH-21ST ANNIVERSARY 飛翔への脈拍 ~そして伝説へ~】
第I章 97-06 哀ア痛葬是朽鵬6
2017年6月20日(火)日本武道館
第II章 06-17 極志球業シ終T
2017年6月21日(水)日本武道館
【哀愁とアンティークと痛みも葬るツアー】
2017年6月30日(金)水戸ライトハウス
2017年7月1日(土)水戸ライトハウス
2017年7月4日(火)新潟GOLDEN PIGS RED
2017年7月5日(水)新潟GOLDEN PIGS RED
2017年7月8日(土)札幌DUCE
2017年7月9日(日)札幌DUCE
2017年7月12日(水)仙台MACANA
2017年7月13日(木)仙台MACANA
2017年7月15日(土)青森Quarter
2017年7月16日(日)青森Quarter
2017年7月19日(水)ESAKA MUSE
2017年7月20日(木)ESAKA MUSE
2017年7月22日(土)福岡DRUM Be-1
2017年7月23日(日)福岡DRUM Be-1
2017年7月25日(火)広島SECOND CRUTCH
2017年7月26日(水)広島SECOND CRUTCH
2017年7月29日(土)名古屋ボトムライン
2017年7月30日(日)名古屋ボトムライン
2017年8月1日(火)神戸太陽と虎
2017年8月2日(水)神戸太陽と虎
2017年8月5日(土)目黒鹿鳴館
2017年8月6日(日)目黒鹿鳴館
【THE BACK HORN「KYO-MEI対バンライブ in KAWASAKI Vol.3」】
2017年5月31日(水)川崎CLUB CITTA'
【DEAD POP FESTiVAL 2017】
2017年7月2日(日)川崎市東扇島東公園特設会場
【ART POP ENTERTAINMENT PRESENTS CRUSH OF MODE-PREMIUM HOT SUMMER'17-】
2017年8月27日(日)心斎橋BIGCAT
■MUCC オフィシャルサイト
■『MUCC 20TH ANNIVERSARY 97-17 “飛翔”』特設サイト