サビ残しない若者は「思いやり欠けている」 60代女性の意見への見解を弁護士に聞いた

先日の読売新聞に、サービス残業に対する60代女性の意見が掲載され、Twitter上で話題になった。「若い方はお金にシビア。『サービス残業はやらない』なんてとても寂しい。思いやりに欠けている」といった内容だった。




「サービス残業」は確かに一昔前、高度経済成長期の時代には珍しくなかった。しかし、今となっては残業代未払い問題もあり、「思いやりに欠けている」などというのは問題発言である。

「サービス残業はやらないなんて思いやりに欠けている」に対する弁護士の意見


そこで残業代未払いなどの対策に励む、弁護士の南谷泰史さんに、本件に対する意見やサービス残業を無くすための対策などを聞いた。

「考え方は人それぞれだと思いますが、これは不思議な考え方だと思います。『サービス残業』とは、『残業したのに、残業代という対価をもらっていない』ということです。法律的には、残業代は役務提供への契約上の対価なのですから、サービス残業は『商品を販売したのに、代金をもらっていない』のと変わりません。
例えば、『“お客さんに商品を無料で提供しない”なんて思いやりに欠けている」というのは、とても不思議な考えですよね。また、『思いやり』とは、辞書的には『他人の境遇に配慮・同情する』という意味です。少なくとも、会社に利益が出ている場合に、残業をする勤労者が会社の『境遇に配慮・同情』するべきというのは妙ではないでしょうか。
そもそも、残業代を払わないことは労働基準法に反する犯罪ですから、『思いやり』の話ではないと思います」

サービス残業はどうすればなくなるのか


しかしながら、このサービス残業は、いまだに残っているのが現実だ。

「サービス残業をさせることは、すでに労働基準法で禁止されているので、重要なのは実効性です。実効性を上げるには、行政の取り締まりと労働者・退職者による残業代請求の増加が重要だと思います」

●サービス残業をなくすために必要なこと
1.労基署などの行政の取締まりの強化
「ただ、労基署は人手不足で、現在は手が回っていませんし、労基署の調査のタイミングでは、サービス残業の証拠がないという可能性もあります」

2.サービス残業をした労働者・退職者による残業代請求の増加
「サービス残業をさせる会社は、基本的に、お金が惜しくて残業代を払わないわけです。
そこで多くの方が、あらかじめ証拠を残しておいて、在籍中や退職後に残業代を請求するようになれば、会社は、結局、未払いの残業代(場合によっては、付加金を加えて、その倍額)を支払うことになります。後で多額の支払いが生じると思えば、会社も、法的・社会的なリスクがあり、非効率な場合が多いサービス残業をさせる理由がなくなります」

「働き方改革」でサービス残業が増加する可能性も


「現在、残業時間に上限を設けるなどする『働き方改革』が進んでいますが、サービス残業を行わせている会社は、そもそも適法な労働時間の管理をしていません。他の方法でサービス残業に歯止めをかけなければ、今後、サービス残業問題が解消されるどころか、むしろ対外的な残業を減らすために、サービス残業が増える可能性があります」

サービス残業は思いやりなどと言っている場合ではない時代に来ていることは明らかだ。しかしこのような考えがいまだに残っていることも否定できない。
まだ問題が山積みのサービス残業は、もう少し重く受け止める必要がありそうだ。
(石原亜香利)

取材協力
弁護士 南谷 泰史さん
東大法学部卒業後、都内法律事務所で弁護士として勤務。2015年、(株)日本リーガルネットワークを設立。同社は、自動で未払い残業代の証拠の確保と残業代の金額の推計ができるスマホアプリ「残業証拠レコーダー」(https://zanreko.com/)を提供中。
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