いま、男性が育児休業を経験した後、会社に戻っても昇進できない、干される、左遷される、家計が苦しくなるという声が挙がっている。育児のために休暇や時短勤務を希望する男性へと嫌がらせをするパタニティ・ハラスメントだ。
男性の育休は上司・同僚から冷たい風当たり(2014年時点)
男性の育児休業について、社内では必ずしも全員が賛成とは限らない。反感を覚えている人が1割いるという調査結果がある。
それは日本法規情報出版が2014年に行った「男性の育児休暇に関する意識調査」だ。「男性の育児休暇に賛成」は91%にも上ったが、否定的な考えを持つ人が9%いた。
育休の取得が進まないのはなぜかというアンケートに対しては、「職場で変わってくれる同僚がいない」25%、「出世に響く」20%、「職場の上司が許してくれない」15%となった。
また、同僚の男性が育児休暇を取得する場合、「正直言えば迷惑だと感じるが、仕方なくサポートする」が約8割を占めており、「迷惑なので、育児休暇をとらないで欲しい」が9%、「育児休暇をとるなら辞めて欲しい」が6%となった。あまりにも否定的な意見が多い。
上司も同僚も育休取得男性に対して冷たいのが2014年時点の様相。3年経った現在では少しは風向きが変わっただろうか。
育休後に左遷される人も
ブログなどでは今でも、育休を取得した経験者から「収入が減ったことで家計が苦しくなった」「元の部署に戻れなくなった」など育休前と同じ仕事ができなくなる、左遷されるなどの声が見受けられる。
こうした状況になることは、上司であれば事前に予測できるケースもある。会社によっては、部下から「育休を取得したい」と言われたとき、育休後に路頭に迷うのを見通して止める上司もいるかもしれない。
悪意のある嫌がらせは別だが、会社に十分な制度が整っていない場合、こうしたケースもあるだろう。これについて、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事、NPOコヂカラ・ニッポン代表理事を務めるイクボス代表の川島高之さんに意見を聞いてみると、次の答えが返ってきた。
「上司が部下を止めるのは、状況次第ではよいのではないかと思います。ただ、部下を止める前に、上司自身が、自分の上司や経営者に対し『男性の育休制度などを整えるべき』と提言すべきではないかとも思います」
権利主張型のイクメンが増えていることも問題
川島さんによると、パタハラや育休後の左遷の問題などと同時に、権利主張型のイクメンが増えていることも目立つという。
「『男性であっても、育休を取得する権利がある』と育児を重要視するイクメンが増えているのは頼もしいことです。しかし、権利ばかり主張して職責を果たさないのは考えものです」
社内からの冷たい風当たりが、より一層、権利を主張したい気分にさせるのかもしれない。しかし、職責を果たさない、つまりただの無責任な社員になり下がるのはイクメンとしても心外だろう。
川島さんは、この「権利主張型のイクメン」にならないためには、例えば次のことが必要になると教えてくれた。
・休暇を取る前に、かなり前もって段取りをして準備をする、そして周囲の理解を得る努力をすること。
・仕事については「部長、どうしましょうか?」など他律的ではなく、「部長、こうしましょう、私がやり遂げますので」など自律型になること。
・「休んで当然」という態度はとらないこと。
・やるべきことをやり遂げる姿勢を保つこと。
「権利主張の前に、職責を果たそうという心構えが大切です。ワークライフバランスは『緩い』ものではなく『厳しい』ものというのが正しい認識です」
(石原亜香利)
取材協力
川島 高之さん
NPO法人ファザーリング・ジャパン 理事/NPO法人コヂカラ・ニッポン 代表
1987年慶応大卒、三井物産入社。