同人誌でありながらテレビアニメ化もされた声優あるある漫画『それが声優!』
完結記念対談の後編では、声優で原作者のあさのますみ(浅野真澄)と、作画を担当した人気漫画家の畑健二郎が、コミケ92最終日に頒布された最終巻『それが声優!2017 Final 君に届くように』の内容にも触れながら、作品に込めた思いなどを振り返っていく。

(前編はこちら
完結『それが声優!』原作者対談「声優は特別な存在ではない」
『それが声優!』の完結後は、同人活動を続ける予定は今のところ無いというあさのますみと畑健二郎。しかし、二人が生みだした作品から生まれたユニット・イヤホンズは、活動を継続中

この実験は成功だったと胸を張って言える


 僕が同人活動を始めた最初の動機は、出版社の力を借りないで、どこまでのことができるのか実験したかったからなんです。最終巻のあとがきにも書きましたが、その実験は成功だったと胸を張って言える結果になりました。(商業で)漫画を描いているだけでは分からなかった、書店流通や電子書籍などの仕組みや、アニメを作るときのことにも以前より詳しくなれて、業界全体を俯瞰で見られるようになったと思います。作品の出来についても、僕自身はあまり言うこともないくらい、よくできたなと思っています。『ハヤテのごとく!』の最終回を描いた後にも言ったんですけど、これで満足ができないと言われてしまったら、「ごめんね、次は頑張る」と言うしかありません(笑)。
あさの 私は、この作品を描きはじめた動機の一つとして、声優というものをもっと多面的に捉えて欲しいという気持ちがあったんですね。すごく人気がある時はみんなから騒がれるけど、ちょっと出なくなると「最近見ないね」ってオワコン扱いをされたりとか(笑)。
声優を応援している人や、声優になりたいという人でさえ、すごくぶ厚いフィルターの向こうから、声優を見ているような感じがあったんです。だから、そうじゃない実際の声優の姿を描きたいと思っていました。なかなか人気が出なくてあがいている双葉も、すごく人気があるけど体調を壊して辞めてしまうヒナタも、自分が描きたかった声優の姿。声優ならではの悩みや苦しみもありますが、全然、特別な存在ではなくて。みんなと同じようなことも考えているんです。それに、もし声優としての仕事を辞めても、その選択は間違いでも失敗でもなく、人生は続いていく。
そういうところまで描けたことも満足しています。

シビアさを曲げずに描けたことも大満足


あさの 実は、『それが声優!』がアニメになる時には、内容がシビアすぎるという指摘をもらったりもしたんですね。でも、私は、そのシビアさがこの作品の特徴だと思っているので。最後まで、そのシビアさを曲げずに描けたことも、自分としては大満足。みなさんが満足してくれているかは分からないですけど……。
 シビアですよね〜。
あさの でも、最後に双葉が「プリキュア」みたいな人気アニメ(「メロキュア」)のヒロインになるという展開も、自分が「プリキュア」に出ると決まった時(「Go!プリンセスプリキュア」の海藤みなみ/キュアマーメイド役)から決めていました。
それも思った通りに描けて良かったです。
 当時から言ってましたよね。でも、現実の方が先行したという。
あさの そうなんですよ! 双葉役のりえりー(高橋李依)が私の次の年のプリキュア(「魔法つかいプリキュア!」の朝日奈みらい/キュアミラクル役)に決まったのは、すっごい嬉しかったんですけど。今までずっと、双葉が全然売れない、全然ダメだっていうのを描いてきたのは、最後にプリキュアみたいな人気アニメの役に決まって、それを昇華させるためだったんですね。でも、現実が追い抜いちゃったから、りえりー、もうちょっと待ってよ〜って(笑)。
まあ、それは冗談で。本当に喜ばしいことですし、読者の方は、現実とシンクロさせながら読んでくれるかなと思っています。
完結『それが声優!』原作者対談「声優は特別な存在ではない」
通常版『それが声優!2017 Final 君に届くように』の表紙。コミケで買えなかった人は、一部書店の店舗や通販サイトで入手可能。詳細はサークル「はじめまして。」の公式サイトで確認できる

「あさのますみワールド」を僕の最大限の力で形に


あさの 6年前に同人活動を始めた時は、印刷会社や、グッズを作る会社とのやりとりは、私がやるつもりだったんです。畑先生はものすごくお忙しいので。でも、実際にやってみると、データの容量とかイラストの専門的な話をされても私には分からなくて。結局、全部、畑先生がやることに……。すごく大変だったと思います。
それに、私がネームを描くと自分が声優な分、熱が入り過ぎちゃって、とてもシビアな話になるんですけど、畑先生の可愛らしい絵がそれを緩和してくれるというか。もし劇画調の絵だったりしたら、こんなに多くの人に楽しんでもらえなかったはず。そこも絶妙のバランスだったので、畑先生と一緒に同人誌を描こうと思った自分は偉いなって思います。あと、私が絵や締切りのことを分からなくて無茶なお願いをしても、却下せずに意見を聞いてくれるんです。一瞬、無言にはなるけど(笑)。そういうところにもすごく感謝をしていますし、相手が畑先生じゃないと上手くいかなかったと思っています。

 大変でした〜(笑)。
あさの あはは。
 例えば、僕だったら、ここでギャグを入れるのにと思うところでも、基本、原作のまま描いてます。原作者はあさのさんなので、自分の漫画にするわけにはいかないですし。「あさのますみワールド」みたいなものを、僕の最大限の力で形にする方法を考えてきたので、それまでとは違う筋肉を使って描いた感覚。そういう意味では、週刊連載でマラソンしながら、水泳もやってたみたいな。まんべんなく疲れましたね〜。
あさの もっと、良いことも言って下さいよ〜。
 ああ(笑)。だから、今まで使ってないところが鍛えられたってことなんですよ。あさのさんの描く物語は、もちろん面白かったし新鮮でした。週刊少年誌の漫画って、漫画の中でも特殊なジャンルだと思っていて。激辛だったり、激甘だったり、とんがってないとやれないジャンル。でも、それとは違う形だったのがすごく面白かった。僕は基本、ファンタジー要素の無い漫画は描かないので、ノーファンタジーなのも新鮮でした。

すべてのきっかけになったのは読者の人たち


あさの 幸せなことに『それが声優!』はアニメにもなりましたが、コミケの会場に足を運んで、私たちの同人誌を手に取ってくれた人たちがいなかったら、それは絶対に実現しませんでした。会場に行くと私はバックヤードで「ひーひー」言ってるし、畑先生は最後尾札を持って「ひーひー」言っていると思うんですけど。本当は、一人一人に「お世話になりました! ありがとうございました!」と言いたいくらい、ものすごく感謝をしています。『それが声優!』を通して、いろんな人と出会ったんですけど、すべてのきっかけになったのは読者の人たち。今後、コミケに出ることは絶対に無いと断言はできないですけど、当面考えてはいないので、しばらく皆さんに会える機会は無いと思うんです。だから、この場を借りて、感謝の気持ちを伝えたいですね。
 『それが声優!』って、直接的に支えてくれる読者の人がいなかったら何にもなってない作品だったと思うんですよ。6年やれたのも、支えてくれた人たちがコミケに来てくれたことが大きくて。そういう人たちがこんなにもいたことがありがたかったし、嬉しかったです。こうやって支えてくれた人たちがいっぱいいたことで、この作品はアニメになり、イヤホンズも誕生してくれたので、本当に感謝をしています。今後、コミケとどう関わっていくのかと聞かれたら難しいところで。寂しくはなるけれど、行く機会は少なくなると思うんですよね。「はじめまして。」も、これで解散という感じになりますし。
あさの ホームページとかは残す予定なので、一応、無期限の活動休止ですかね。
 そうなりますかね。
あさの 皆さん、ありがとうございました!
(丸本大輔)