
ある日突然、朝起きたら身体が動かなくなっていた。
これは経験者の語る、典型的なうつ病の発症例です。
もちろん、うつ病は突発的に生じる疾患ではありません。基本的にはじわじわと進行し心と身体を蝕んでいく病気です。それではなぜ、うつ病経験者は「ある日突然」発症したように感じたのでしょうか。
それは、うつの渦中にいる人ほど、自分の精神の摩耗になかなか気が付けない…という事情に依っています。特に真面目な性格で、仕事に熱心なひとほど、心の病を「ちょっと疲れているだけ」などと言ってごまかしてしまいがちなのです。
しかし、どんなに自分をだましていても、うつ病が進行していく病気である以上、心身の限界はいつか訪れます。そして、その「限界」に達したときの典型的なパターンが、上の「ある日突然、朝起きたら身体が動かなくなっていた。」というようなシチュエーションなのです。
ではこんな時、我々は一体どうすれば良いのでしょう。
本稿では「ある日突然、心の調子がおかしくなったらどうするべきか」というテーマで、基本的な対処法などを考えていきます。
素人には書籍やネットの情報で判断できない
まず、兎にも角にも最初にやらなければいけないのが病院に行くことです。
「家庭の医学」などの一般向け書籍をめくってみたり、ネットの「うつ病チェック」のような無料診断をやってみても、本当のところは素人には判断できません。
「最近、なんか変だな?」と違和感を持った時点でまず専門家に相談する。早めに診断を受け早期発見・早期治療を開始することは健康維持のために極めて重要です。
特に精神疾患の場合は、ある程度症状が進行してから治療を開始すると、治療期間が長期化する傾向にあります。上のような「朝起きたら身体が動かなくなっていた」というパターンはかなり進行したときの症状ですが、この場合の治療期間は年単位にも及ぶことがあります。
早期に職場に復帰しまた元気に働くためにも、早めに診断を受け早期の治療を志すことがメンタルヘルス領域においては極めて重要です。
とにかくまずは病院に行き、専門家の判断を仰ぎましょう。
地域(特に都市部)によっては、メンタルクリニックが大盛況でなかなか予約が取れないこともあるかと思います。そういった場合は、まず近所の個人クリニック(内科など)で相談するのも有効です。軽い薬なら処方してくれますし、症状を見て専門医を紹介してくれることもあります。
「予約が取れない→放置」となってしまうのはメンヘラあるあるパターンのひとつですので、まずは内科でもなんでもよいので、とりあえず近所の医者に駆け込みましょう。
ちなみにこれは別に裏技でもなんでもなく、地域医療の正しい使い方です。専門医と地域医療の機能分化・連携は厚労省も推奨しています。「なんか最近、調子悪い…」の ファーストチョイスとして町医者は決して間違いではありません。
とにかく早く病院に行く。
これを心がけましょう。
仕事はどうする?それも医師に相談しよう
メンタル不調について医師に相談。その結果、なんらかの精神疾患と診断された。
そんなとき、職場にはどのようにお話すれば良いのでしょうか。
おすすめなのは、自分で悩む前にまず医師に相談することです。現在の労働環境などについて率直に話し、「治療中の仕事はどうするべきか」というところまできっちり相談しましょう。
その結果「いまは絶対休んだ方がいい」という話になるか「治療を続けながら、無理のない程度に仕事も続けましょう」という話になるか、それは病状次第ですが、大事なのはとにかく医師(専門家)に相談するということです。
「なぜそんなことまで医者に相談すべきなの?」
と疑問に思う方もいるかもしれません。しかしこれは重要なことです。というのは、メンタル不調に陥っているひとは、自分の心身の状態を客観的に判断できないという特徴があるからです。
いま自分は働ける状態なのか、働くべきなのか、休むべきなのか。このような事柄について、心を病んでいるひとは適切な判断を下すことができません。だからこそ、治療中のワークスタイルについても自分だけで判断を下さず、医師のアドバイスを取り入れることが重要なのです。
職場へは打ち明ける?隠す?
メンタルの不調については、クローズ(職場に隠す)よりもオープン(職場に正直に相談する)の方がその後の配慮などを期待できるため、健康の観点から言うと正直に打ち明けた方が良いと思います。
おすすめの打ち明け方ですが、「自分の意見」ではなく「医師のアドバイス」をそのまま管理者に伝える方法です。
「病院に行ったらうつ病と診断されて、しばらく休みたいんですが…」
↑これだと「しばらく休みたい」があたかも自分の意見のように聞こえてあまり心証がよくありません。
そこで
「病院に行ったらうつ病と診断されて、しばらく休むようにと医師に言われたのですが…」
あくまで医者にこう言われたのであって僕はやる気あるんですよというスタンスで行くことで、めんどくさいアレコレを全て病気と医者のせいにできます。
このように、メンタルが不調な時期においては、できるだけ自分の心の負担を軽くするようなムーヴを心がけましょう。医師や社会福祉などさまざまな公的サポートもありますが、あなたの心を守れるのは最終的にはあなたです。
野生の獣は傷ついたとき、兎にも角にも逃げて巣に帰り傷を癒やすと言います。傷ついているのに狩りを続けるのは人間だけです。メンタルに傷を負ったときは、そんな野生動物の姿を思い浮かべてみてください。まずは巣穴で傷を癒やす。狩りへは元気になってから行けば良いのです。
(小山晃弘)