
首都圏を代表する通勤路線の京王線。同じく新宿と八王子市を結ぶ路線であるJR中央線に比べると地味な印象が否めないが、今年は沿線に大型商業施設が相次いで開業し、その印象を大きく変えようとしている。
今回は、京王線沿線の3つのエリアに誕生する要注目のショッピングスポットをピックアップ。その全容を徹底解剖するとともに、各エリアの集客力や地域にどれほどの好影響をもたらすのかを探る。

【高尾駅】八王子最大級のショッピングセンター「イーアス高尾」
東京都の市としては最大の人口・約58万人を誇る八王子市。そんなマンモスタウンの南西部・高尾駅エリアで6月22日に開業したのが、大和ハウス工業の商業施設「イーアス高尾」だ。
高尾山や多摩御陵(武蔵陵墓地)にも近く、緑に囲まれた住宅街といった印象が強い高尾だが、イーアス高尾に着くと驚かされるのが施設の植栽の多さだ。樹木はまだまだ小さいが、これらが成長すると将来的には「山に囲まれた森のなかのショッピングセンター」というイメージになるだろう。

館内には食品スーパー「三和」や玩具・ベビー用品の「トイザらス・ベビーザらス」などを核に120の専門店が軒を並べるが、最も注目すべきは個性的な飲食・食物販店の数々だ。
例えば、本州初出店の寿司店「すしえもん」は、プロ野球・ヤクルトなどでプレーし今年9月に現役引退した岩村明憲氏の兄で、岩村敬士氏(元近鉄バファローズ)がオーナーを務める回転寿司店。本拠地である愛媛・宇和島から仕入れた「宇和島ぶり」や「伊達真鯛」といったこだわりの寿司ネタはもちろんのこと、蛇口から出るみかんジュースが積み上げられたワイングラスへと降り注ぐ「みかんジュースタワー」や、オーナーと親交のある一流プロ野球選手のサイン入りユニフォームの展示など、見た目にも美味しい・楽しい仕掛けが満載だ。
また、高尾名物の「とろろそば」が味わえる「自然薯とそばの店 高尾の桜」や、多摩地域で採れた旬の野菜を惣菜にして提供する「EN TABLE」、農産物直売所「わくわく広場」など、これまでのショッピングセンターでは疎かになりがちな“地元ならではの食材”をウリにした店も存在感を示す。
このほか、飲食以外の目玉として挙げられるのが、イオンモール幕張新都心などに出店し話題を集めていた“動物カフェ”「Moff animal cafe」の東京初となる店舗だ。店内には猫やウサギと言ったお馴染みの動物から、フクロウやインコ、パンダマウス、モルモットなどの小動物に至るまで様々なアニマルが大集結。動物に癒されたい人にとってはまさに「天国」のような場所となっている。

「高尾山だけ」のイメージから脱却へ
これまで八王子市内の大型商業施設はJR八王子駅ビル「セレオ」(旧そごう)や「東急スクエア」のある市中心部エリア、あるいはアウトレットで有名な南大沢駅などの多摩ニュータウンエリアに比較的集中していたのに対し、高尾エリアでは狭間駅前の総合スーパー「イトーヨーカドー」以外にこれといった大型施設がなく、格落ち感は否めなかった。
しかし、ここに来て市内最大級の大型店「イーアス高尾」の誕生により形勢逆転。ショッピング目的で市内各地から高尾を訪れる買い物客が生まれたことで、市中心部や南大沢にも勝るとも劣らない「商業求心力」を身につけることとなり、これまで「高尾山だけ」というイメージから脱却し、エリア全体の底上げにもつながることは間違いない。
【府中駅】こけら落としは小室哲哉! ショッピング+文化施設と充実の「ル・シーニュ」
続いての舞台は、武蔵国の総社・大国魂神社の最寄りでもある府中駅。南口を出てすぐ右手に現れるのが、7月14日開業の「ル・シーニュ(Le SIGNE)」だ。

フランス語で「きざし・予感」を意味するル・シーニュは、商業機能を核に公共機能、クリニック、住宅などを複合する再開発ビルで、地下1階~地上4階を占めるショッピングゾーンには約90の専門店が入居する。
そのうち、5階、6階を占める公共施設ゾーンには、市民活動で利用できるフリースペースや収容人数284名の「バルトホール」を設置。バルトホールでは府中市出身の音楽プロデューサー・小室哲哉氏監修によるこけら落とし公演も行われるなど話題となった。

ル・シーニュには、商業テナントとしては食品スーパー「京王ストア」、高級スーパー「成城石井」、お菓子専門店「おかしのまちおか」などが出店。「今日は出来合いの手軽な惣菜で済ませたい」「今日は高級ワインで贅沢を」といった、目的や用途に応じた食品の“買い分け”を施設内で済ますことができるのも嬉しい。
また、駅直結ということもあり、電車の待ち時間の“ちょっとひと息”を満たすカフェもバリエーションに富む。ル・シーニュ館内には複数のカフェが同居するが、要注目は国内20店舗目となる無印良品のカフェ業態「Cafe & Meal MUJI」だ。
無印ならではの素材にこだわったデリやスイーツに定評がある同店だが、ル・シーニュの店舗では大手旅行代理店のH.I.Sとコラボ。店内にH.I.Sの旅行カウンターが併設されているほか、「旅」や「食」をテーマにした約500冊の書籍も並んでおり、飲食の合間にちょっとした旅気分を味わうことができる。

苦節43年 府中駅前の再開発ビルが「全て完成」に
単独施設としても申し分ない規模のル・シーニュだが、歩道橋を通じて大型再開発ビル「フォーリス・伊勢丹府中店」、「くるる」と隣接しており、3施設を跨いだ一体的なショッピングが楽しめるのも特徴だ。
3つの施設を俯瞰すると、百貨店らしくハイブランド店の多い「フォーリス・伊勢丹」、TOHOシネマズやトイザらスなど娯楽性の高いテナントが中心の「くるる」、そして食品スーパーやドラッグストアが入居し普段使いに適した「ル・シーニュ」と、それぞれ棲み分けがなされていることに気づく。

実は、もともと府中駅南口の再開発計画が発表されたのは1974年のこと。それから43年。段階的な発展を遂げてきたが、今回のル・シーニュ開業により府中駅南口再開発の“ラストピース”が無事埋まった形だ。
再開発が計画された1970年代当時の府中駅はまだ高架化されておらず、駅前には商店街と「西友ストア」「緑屋」(のちの府中プライム)など規模の小さな商業ビルがあるだけだった。難産の末に生まれたこれらの巨大施設が、まさに「三位一体」となって家族連れや主婦層、高齢層といった多様な客層を受け入れることで、今後、府中駅エリアが郊外の大型モールにも匹敵する大きな集客力を発揮することは間違いない。
【調布駅】地下化で駅前も刷新 3館の個性が集まった「トリエ京王調布」
そして最後に紹介するのは、9月29日にグランドオープンを迎えた京王グループ主導の大型ショッピングセンター「トリエ京王調布」だ。

トリエ京王調布が開業するのは、2012年8月の地下化工事完了から5年が経過した調布駅の地上駅跡地。トリエはA棟、B棟、C棟の3館で構成され、それぞれが地上駅時代の線路をなぞるように配置される。これまでの調布駅前にはなかった店舗が数多く集結するということもあり、開業前から市民の期待を集めているところだが、早速各棟の注目テナントをチェックしていこう。
トリエの“メインエントランス”となるA棟には63の専門店が集結。1階には関東最大級の売場面積を誇る「成城石井」(同店初のイートインスペース併設)や、京王線沿線で初出店となる洋菓子店「アトリエうかい」、福岡県産のあまおう苺を使ったドリンクが楽しめる本州初出店の「伊勢きんぐ」など多彩な食物販店が出店する。
また、A棟には大型のレストラン街も設けられ、「牛たん炭焼利久」や「とんかつまい泉」といった肉料理店、寿司の「もりもり寿し」、中華の「雲龍一包軒」、自然食バイキングの「はーべすと」など様々なジャンルのレストランが軒を連ねることになる。

B棟には多摩地区5店舗目、調布市では初となる家電量販店「ビックカメラ」の大型店が出店。駅北口の調布パルコに入居する「ノジマ」とは競争関係になるが、店舗の選択肢が広がるのは消費者にとって嬉しいことだ。
そして、3館のなかでもとくに注目されるのがC棟の核となる巨大シネマコンプレックス「イオンシネマ シアタス調布」。シアタスには最新の体感型上映シアター「4DX」の導入はもちろんのこと、都内のシネコンとしては最大級となる約530席の劇場も設置。かつて映画産業が盛んだったことから「東洋のハリウッド」とまで謳われた調布だが、今回のシネコン誕生で映画の街の再興に期待がかかる。
このほか、C棟には調布市出身の大塚朝之氏がオーナーを務める「猿田彦珈琲」が出店。こちらも珈琲焙煎工場「ロースタリー」を併設する大型店となっており、東京を代表するスペシャリティコーヒー店が満を辞しての“地元凱旋”となる。

ビックカメラは地元「FC東京」のスポンサーに
調布市内では早くもいくつかの「変化」が現れている。
例えば、調布市商工会では、イオンシネマの鑑賞券の半券を調布市内の各店舗で提示することで、さまざまな特典が受けられる企画を実施中。先述したとおり、調布は「映画の街」をアイデンティティとしており、市外からシネコンを訪れる利用者へ向けて映画の街の魅力を発信するとともに、その集客力を地域経済の活性化に繋げたい考えだ。

また、トリエB館に出店するビックカメラは、調布市内の「味の素スタジアム」を本拠地とするJリーグ・FC東京の新たな公式スポンサーとして契約を締結。FC東京はJリーグ屈指の「地域密着クラブ」として地元向けのファンサービスを積極的に行ってきただけに、今後はビックカメラ調布駅前店、ひいてはトリエ全館を舞台としたファン向けのイベントや、応援キャンペーンの実施も期待される。

多くの“調布初”出店となる店舗が軒を並べる一方で、随所に“調布らしさ”の追求も見られるトリエ京王調布。京王本線と相模原線が合流する調布駅前に立地するだけあって、個性的な3棟の施設は人々が繋がる“合流地点”としての役割を担っていくことになる。
なお、トリエ調布では、かつて線路上だった場所に一部の線路が復元されるなど、「地上駅時代」の面影が残される。かつての駅の姿に思いを馳せながら、線路跡に生まれた新たな街めぐりをしてみるのも面白いだろう。
「イーアス高尾」、「ル・シーニュ」、「京王トリエ調布」と、それぞれカラーの違った大型商業施設が誕生することで商業求心力や地域経済に大きな変化がもたらされた京王線沿線。
ちょっとしたお出かけに最適なこの季節、もし遊びに行く場所に迷ったのなら京王線に乗ってこれらの新施設へと小旅行に出かけてみてはどうだろうか。
(都市商業研究所)