6月2日当サイト記事『芸能プロ社長、所属タレントの交際に激高し5000万円要求 執拗な威圧で裁判に』にて報じた通り、東京・渋谷の芸能プロダクション、バックアップ・プロモーション社長の八木康夫氏は、同社に所属していたグラビアタレント・山本早織に対し、交際中の男性と別れるか、違約金5000万円を支払うか、どちらかを選択するように迫った。
懊悩した結果、山本は「タレント契約を解消する」と伝えたところ、八木氏の態度が一変し、「君が必要だ」「山本早織を失うのは耐えられない」「別れられる男はいない」などの文面のメールを送り、恋愛感情を爆発させて引きとめようとした。
八木氏がそれらのメールを送信した翌日である2011年12月13日、二人は今後について話し合った。この時の会話の音源が、証拠として法廷に提出されている。
その中で八木氏は、
「一生償わなきゃいけないくらいの罪を犯しているんだよ、君は」
「この間、和泉(同社所属タレントの和泉ゆか)と話した時に、『八木さん、山本に対して恋愛感情ありますよね』って言われた。当然あるよ」
「付き合うっていう言い方おかしいかもしれないけど、なんかしらの関係を持っていくことがまったく嫌でなければ、ある程度の冷静な話し合いができると思う」
「松金(以前、同社に所属していたタレント・松金ようこ)だって、最初、殺してやろうと思ったけど、月2回とか3回とか、わからないけど、顔合わせたりとか飲み食いに行く関係が続けば、気持ちも和らいでくる」
などと、脅すような言葉を使いつつ、契約解消を思いとどまるよう持ちかけた。それを山本が拒絶すると、
「辞めたくても絶対辞められないから」
「ストーカーと思われるか、私は彼女じゃないよと思われるかわからない。気持ち悪いと思われても不思議じゃない。それは重々わかってメールを送っている。でも自分の気持ちにはウソはつけない」
と、契約を継続させたいとの意思を示した。
●度重なる脅迫により、不安障害を発症 この会話の1週間後、二人は再び話し合った。山本が、弁護士に違約金は発生しないことを確認したと伝えると、八木氏は激高し、脅迫とも取れる言葉を浴びせた。
「まじめに人生考えなきゃだめだよ。
「これだけプライド傷つけられたの、生まれて初めてだから。この期に及んで親とか弁護士とか出してきたら、君は完全に人生破滅すると思っていいよ」
「俺はあらゆる手段を使うよ。人生終わると思うよ。幸せはないよ」
山本は、たまらず「具合悪いんで、帰っていいですか」と告げ、帰ろうとしたが、八木氏は、
「死ぬ気でちゃんと対話しようよ。死んだらしょうがないじゃん」
「具合悪いとか精神的になんだとか、言っている場合じゃないんだよ。親も心配して、それで死んだら、しょうがないじゃん。それだけのことしちゃったんだから」
「ホームから飛び降りたら、しょうがないじゃん。そんだけ悪いことしたんだから」
と、死を示唆するような言葉を用いて脅しを強めた。
12年3月7日、再度話し合いの場を設け、山本は「契約を解除することに同意してください。解除に同意してもらえない場合、契約満期となる11月30日まで仕事をしますが、その後の更新はしません」と告げた。
それに対し八木氏は、「君の人生ぐちゃぐちゃになるよ」と再度脅した。
この面談後、山本は強い震えと嘔吐に襲われ、3日後、近所の精神科で受診したところ、医師に「事務所の社長の言動のせいで、『不安障害』になっています。これ以上、その社長と会うことは避け、仕事を休んで休養を取ることが必要です」と診断されたため、山本は八木氏に対し、今後は弁護士を通すよう伝え、直接の連絡を絶った。
●契約違反として提訴し、中傷ツイートを繰り返しこうして契約が切れた後の12年12月21日、八木氏は会社名義で、山本と保証人である山本の父親を相手取り、2000万円の賠償金の支払いを求め、東京地方裁判所に訴訟を起こした。
また、この提訴の後、八木氏は自身の会社のツイッターで、
「ツイッターを削除し、“証拠隠滅”を図る“山本早織”。彼女の数々の業界批判や“ビッグ”発言に関係各所から『あいつは何様だ』『いつまで勘違いしているんだ』『ああいう輩を野放しにするな』等お怒りの言葉が寄せられる。“育ちの悲哀”とはいえ、彼女の“成れの果て”には“哀れみ”を禁じえない」
「業界を追われ訴えられた“山本早織”(略)彼女を憐れむ“お仲間”は三流芸人と売れなかった着エロタレントくらい」
「被告となった山本早織は(略)規範を守れない愚かな脱落者」
「業界の落ちこぼれ」
などと、山本を中傷する投稿を繰り返した。
これらを受けて、山本は反訴した。反訴の請求内容は、不安障害に陥るに至った八木氏の不法行為による精神的苦痛、未払い報酬、弁護士費用、中傷ツイートによる名誉棄損などの代価として、計720万4582円を支払えというもの。
審議が進み、13年12月18日、一審判決が下った。裁判所は、山本がタレント活動を続けられなくなった原因は、八木氏の言動によって精神的に追い詰められ、不安障害を罹患したことにあると認定し、未払い賃金120万円、慰謝料30万円などを含め、約200万円の支払いをバックアップ・プロモーションに命じた(東京地裁民事第49部の:飯淵健司裁判長)。
●控訴審も社長の不法行為を認定その後、八木氏は控訴したが、山本は控訴しなかった。
二審で八木氏は新たな証拠を提出した。それは山本の「友人閲覧用非公開ツイッター」で、姉妹や従姉妹、女友達など計15人のみ閲覧ツイートができるというもの。期間は八木氏が違約金を求める恫喝を始めた頃から裁判が始まる頃までで、A4用紙に全45ページにわたるツイートが印刷してある。どのようにしてプライベートなツイッターの内容を入手したのかは不明だ。
そのツイートには、病院から不安障害の診断書を受け取った時期に、山本が婚約者と飲んで話し合っていたり、友達と忘年会をしたりしている文面があった。また、12年1月1日時点で、「仕事をもう辞める」と宣言したり、診断書を受け取る3日前に、「仕事はしたくないから、行かなくても済むように精神科で診断書をもらうことになった」という趣旨のツイートをしたりしていたことから、八木氏側は、「診断書は信用できない」「山本は仮病を使っており、契約違反なので2000万円支払え」という主張をした。
二審判決は14年5月7日に下った。判決では、ツイートの内容から山本は12年1月にはタレント活動を辞めることを決意していることが認められるとして、診断書はタレント業務を行わなくて済むようにするために取得したものと認められる、と判断。
山本は、友人たちに過度の心配をかけないよう、冗談めかした言葉や強気に見せかけたと主張したが、そうだとしても、友人たちに診断書を取得することを明らかにしつつ、その目的を偽る必要性があったとは認めることができない、とした。
さらに、八木氏の言動に対して、山本が強い不快感を持っていることが認められるが、このことによってタレント活動の遂行が不可能であったとまでは認められないし、八木氏以外のマネージャーの下でタレント活動をする余地もあったこともうかがえる。
そうすると、山本の上記の主張を考慮しても、山本が不安障害により業務を遂行することが不可能となっていたと認めることはできない、というべきであるとし、タレント活動を行わなかったことは契約違反、と断じた。
その一方、前述のように八木氏の計2000万円の請求については、「損害を被ったと認めるに足りる証拠はない」として却下した。
そして、八木氏が山本に対し、「君が必要だ」「山本を失うのは耐えられない」「別れられる男はいない」「人生ぐちゃぐちゃになるよ」などとメールや直接口頭で精神的に苦しめたことについては、原審を踏襲し「不適切であり違法」と断定し、慰謝料25万円など33万円の支払いを命じた(東京高裁第1民事部:福田剛久裁判長)。
このように事件の肝の部分は変わらない判断となった。
さらに八木氏は最高裁判所に上告し、現在係属中である。
●佐々木奎一(ささき・けいいち)
「My News Japan」を中心に、「別冊宝島」や「SAPIO」「週刊ポスト」などで執筆するジャーナリスト。企業のパワハラや不当解雇などの労働問題を中心に、政治家の利権や原発問題に絡むメディアの問題なども取材をする。これまでに、「キユーピー」のパワハラ問題の追及や大企業の障害者雇用に関する問題提起、バンダイナムコの社員うつ病問題などを追及して話題となっている。
※なお、本事件の詳細については、ニュースサイト「My News Japan」の14年4月11日付記事『芸能プロ社長が所属タレントにストーカー行為、婚約者と別れるか違約金5千万円払えと迫り敗訴』をご参照ください。