
首都圏屈指の通勤路線を抱える京王電鉄の沿線には「住みたい街」としても注目を浴びるエリアが数多くある。
「2017年住みたい街ランキング」(SUUMO調査)では、1位の吉祥寺(武蔵野市)を筆頭に、10位の渋谷(渋谷区)、12位の新宿(新宿区)など、沿線9駅がベスト100入りを果たしたが、これから“伸びる”駅は一体どこか。

「再開発完成」で調布・府中は来年にもランクアップ? ランク外・高尾にも注目
来年にでも順位を上げそうなのが、39位の調布(調布市)と54位の府中(府中市)だ。
京王線と相模原線が分岐する調布は、両路線の全列車種別が停車することもあって同社では第4位の乗降客数を誇る人気駅。
駅北側には蕎麦が名物のパワースポット「深大寺」やバラの名所として知られる「神代植物公園」があり、週末になると多くの人でにぎわいを見せる。
これまで市外の人にとっては「田園じゃない方」とも言われるほど比較的地味な印象だった。しかし調布駅周辺は、2012年の京王線地下化以降一気に再開発が進み、これまであったパルコや西友、東急ストアに加えて、この9月29日に成城石井やビックカメラ、イオンシネマなどが出店する大型商業施設「トリエ京王調布」が開業。これまでわざわざ新宿などへと足を運んでいたあらゆることがこれからは調布駅前でおおよそ事足りることになり、さらに注目が高まるエリアとなることは間違いない。

2012年に駅が地下化され、新たな駅前広場と商業施設「トリエ京王調布」が誕生。周辺は大きく生まれ変わった
府中といえばユーミンこと松任谷由美の名曲『中央フリーウェイ』の歌詞で出てくる「競馬場」や「ビール工場(サントリー)」がある街という印象が強いが、ここ最近は市内に拠点を構える東芝の話題で持ちきりで、“企業城下町”としての将来を危惧する声も聞こえてくるようだ。
しかし、そんな暗雲立ち込める「城主」の噂はよそに、7月14日には京王ストアや市民ホール「バルトホール」などを備える商住一体型の再開発ビル「ル・シーニュ(Le SIGNE)」が府中駅南口に誕生。この完成により、43年前から実施されていた府中駅南口の再開発はようやく完成を迎えることとなった。
府中駅前には、このほかにハイブランドを取り扱う百貨店「伊勢丹府中店・フォーリス」、娯楽テナントが中心の商業ビル「くるる」が立地しているが、新たに開業したル・シーニュにはスーパーやドラッグストアといった普段使いのテナントやカフェが多く出店しており、新旧3つの再開発ビルによるバランスの取れた駅前ショッピングが出来るようになったことで、幅広い層にウケのいいエリアとしての地位を確立しそうだ。

また、現在ランク外となっている高尾(八王子市)も、来年からはランクインする可能性がある。
中央線快速の始発、京王高尾線の2駅目である高尾は、「着席通勤」が出来る駅として高いポテンシャルを持っていたが、地形的制約から宅地開発があまり進まなかった。
しかし、駅近くの半導体工場跡地に建設された大和ハウスの大型マンション「プレミスト高尾サクラシティ」(全416戸)が全戸即日完売となったことが話題になると状況は一転。
「高尾山のまち」から「住んで暮らすまち」へと大きくイメージを変えつつある高尾エリア。「住みたい街」100傑入りにも期待がかかっている。

大型再開発を目指す下北沢
調布、府中、高尾といった駅は来年にもランクアップが見込まれる一方で、今後5~10年以内に大きく伸びてきそうなのが、26位の下北沢(世田谷区)と95位の橋本(相模原市)だ。
井の頭線と小田急線が交わる下北沢は、駅周辺に古着屋、ライブハウス、小劇場などが集う、言わずと知れた「若者文化の発信地」だ。
刺激の強さでは他の追随を許さないシモキタエリアだが、駅周辺には食品スーパーが複数あり、生活利便性に特段の問題はない。

しかし、長年にわたって住みたい街ベスト10の常連だった下北沢は、ここ5年間は全てベスト20圏外。一時代を築いたかつての熱狂は影を潜めている。
その要因の一つと考えられるのが、小劇場・ライブハウスにおける「トレンドスポットの変化」だ。「小劇場ブーム」といわれ活況に沸いていた1980年代と比較すると、近年の小劇場やライブハウスにおける演劇公演は、より利便性の高いJR山手線・JR中央線の沿線や、近年開発が進む湾岸部において開催されることが多くなってきており、かつての下北沢で見られた「様々な劇場で様々な公演が入り乱れるようなにぎわい」というものは過去のものとなりつつある。
そもそも、古着はフリマサイトで購入し、動画サイトで演劇を見るという現在の若者にとっては、古着屋を巡り、小劇場に入り浸るという「シモキタのスタイル」は昔ほど魅力的には映らないのかもしれない。

そんな正念場の下北沢にとって復権の呼び水となりそうなのが、2013年の地下化工事により空き地となった小田急線跡(地上部分)の再開発だろう。
旧線跡は「シモキタショッピングゾーン」と称し、商業施設を併設した新駅舎が建設されるほか、今後整備される駅前広場との連続性も確保。
とはいえ、わい雑で前時代的な街並みこそが下北沢の象徴という面もあったことから、おしゃれで回遊性に優れた空間への大転換によってシモキタエリアのイメージがどう変わるのかも注目される。
リニア駅開業の橋本は「今後に期待」
一方、相模原線の末端駅・橋本はJR横浜線、相模線との乗り換え駅であり、相模原市では小田急線・相模大野と並ぶ一大中心地だ。
新宿へは特急でも最短約40分だが、始発駅のため「着席通勤」が可能なことも大きな優位点となっている。

橋本駅周辺には総合スーパー「イオン橋本店」(旧マイカル橋本サティ)、ユニクロや無印良品などの専門店と図書館が入居する「ミウィ橋本」、ドン・キホーテや映画館が入った「SING橋本」、2010年開業の「アリオ橋本」など魅力的な大型店が集積。日常の買い物には特段困ることがないうえ、図書館や映画館といった文化・娯楽面が充実しているのも、橋本を「住みたい街」たらしめている大きな要因といえる。

そんな橋本の未来を語る上で欠かせないのが、2027年に設置される予定のリニア中央新幹線(品川~名古屋間)の中間駅(駅名未定)の存在だ。
リニア開業後は、現在1時間以上かかる橋本~品川間が10分程度で結ばれる予定で、橋本から都心に向けての「リニア通勤」も夢ではない。
さらに、リニア駅の設置により駅周辺の開発が進展すれば、10年後の橋本エリアは現状の「住みたい街95位」という立ち位置からは想像もつかないほどのブランドイメージを獲得している可能性も考えられるだろう。
「座席指定列車」導入が郊外駅の地位向上を後押し!
ここまで「これから伸びる京王線住みたい街」として5駅を挙げたものの、下北沢を除く4駅は全て東京23区外に立地する、いわゆる「郊外駅」。郊外駅では生活環境が魅力的であっても都心に近い駅と比べると「通勤時間・環境」が評価のネックとなりがちだが、そんな京王の郊外駅の地位向上を後押しするのが、2018年春から京王線で運行が開始される「座席指定通勤列車」だ。

新宿~京王八王子と新宿〜橋本を運行区間とする京王線の座席指定列車には、新型車両「5000系」が投入される。座り心地にこだわったクロスシートには電源コンセントが備え付けられているほか、車内には無料Wi-Fiや空気清浄機も完備。
なお、来春の運行開始時点での走行時間帯は平日・土休日の夜間帰宅時間帯に限られているものの、東武の「TJライナー」や西武の「S-TRAIN」など首都圏の私鉄他社では朝夕に座席指定列車を運行していることから、京王線でも将来的には朝ラッシュにおいても座席指定列車が運行されることになるだろう。

座席指定列車の導入による通勤環境の改善は、都心回帰という逆風にさらされている郊外駅にとって大きな追い風となりうる。
とはいえ住みたい街は、やはり街の魅力があってこそ。
今回紹介しきれなかったエリア以外にも、まだまだ「住みたい」と思えるような魅力的な街が眠っているが、それはまたの機会に取り上げたい。
(都市商業研究所)
参考資料:山本健太・久木元美琴(2013年)「東京における小劇場演劇の空間構成」都市地理学、8、pp.27-39