日曜の昼下がり。広い校庭に、30~40代の大人たちが鈴なりになっている。
みんな嬉しそうだ。自分の名前を呼ばれたある男性は、人々をかきわけ、ある物を手にし、照れくさそうに掲げた。
30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた


地元の地名「豊四季(とよしき)」と書かれた習字紙を手にしているのは鈴木祐次さん。これは30年前の小学校5年生のときに自分が書いたものだという。今は習字とは縁遠いと語り、「意外と、字、上手かったんだな」と当時の自分を振り返っていた。
30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた
こちらの近藤大介さんは、元校長に「小学校の頃は習字の大家だったが暴れん坊だった」と言われて笑っていた


千葉県にある柏市立柏第二小学校。今年130周年を迎える歴史ある学び舎だ。ここで、さる11月26日に行われたのが、「タイムカプセル開扉(かいひ)式」 。あの日の自分に再会できる記念日だ。

開校100周年記念に埋めたタイムカプセル


30年前の1987年11月7日~8日に行われた100周年記念式典の際、全校生徒1,500人以上が思い出の品を入れ、タイムカプセルとして入れたという。それを今、開けるのだ。
 
タイムカプセルが埋まっているのは、校門にほど近い少年少女の銅像の下。それを支える台の黒いプレートの中だという。

30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた


午後2時過ぎ、開扉の作業が始まるころには、銅像の周りに人だかりが。
30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた


この日集まったのは、学校のホームページや回覧板、友達からの連絡などでこのイベントを知ったおよそ400人超。入れたものを覚えているか聞いてみると、「何を入れたのか覚えていない」「『30年後の夢』について書いた気がする」「『キン消し』出てくるといいなあ」など、一様に何が出てくるのか楽しみといった印象だった。


さて、「開扉」の作業を行うのは流山の建築会社に勤める2人の大工さん。「こんなことをするのは初めて」と少し緊張気味だ。
30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた


まずはバールで、大理石のフタをこじ開ける。
30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた

30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた


もともとこの扉の周囲はコンクリートで固められていたのだが、この日のために前もって取り除いておいたのだとか。
 
ものの10分で、大理石の重い扉が外された。そして…… 
30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた


青いアクリル製の大きな箱が出現。
30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた


ボックスを締めているナットを外していく。
30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた


保存状態もよく、あの日のまま


そしていよいよ開扉。
30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた


そこには、
・「児童数名の習字」
・「1年生から6年生まで当時の在校生1500人以上が書いた作文」
・「児童名簿」
・「PTAだより」
・「学校要覧」
・「100周年の記念式典の出欠を実際にとった返信ハガキ」
・「100周年のときに読んだ祝辞」
・「100周年のときに特別に作った下敷き」
・「朝日小学生新聞」
・「タイムカプセル用保存袋」と書かれた銀色のビニール袋に入っていた60分のVHSテープ


などが入っていた。作文のテーマは「100周年について」だったり「30年後の自分」だったり、学年によって違いはあった。
また、VHSテープのラベルには何のタイトルも書かれていなかった。20世紀の発明品として入れたのだろうか。
30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた


すべて保存状態も良く、封入したときのままの空気を放っている。30年の眠りから覚め、いきなり日の目を浴びた彼らは、なんだか照れくさそうだ。

夢の答え合わせ


こちらは埼玉から、娘さんと来た会社員の岩瀬岳(たかし)さん。30年前の100周年は2年生だったという。
30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた
4歳の娘さんと


この開扉式は友達から連絡を受けて知ったのだとか。作文は100周年について書かれており、その式典の時に風船を一番先頭の列で飛ばしてうれしかったというものだった。
30年前に埋めたタイムカプセルが開くところを見に行ってきた


かつての自分に対して「30年後の自分について書いてほしかった」と語る岩瀬さん。それでも今回、普段会えない人と会えたことがうれしかったという。「クラスメートと会ったのは、中学を卒業して以来。明日から頑張ろうと思える」。

今回遠方からも駆け付けた人も多く、中には現在住んでいる沖縄から朝イチの飛行機でやってきた女性も。
彼女は「30年後の夢」について「スチュワーデスになりたい」と作文で書いていたという。今はまったく別の仕事に就いているが、その頃の自分に何と言ってやりたいか聞くと「可愛いこと書いてるな」と話していた。

未来に向けて


今回のイベントについて柿澤久美子校長に尋ねると、「こういう機会がなければ、なかなかみんな顔を合わせることがなかったのでは」と語った。さらに、「今度は、20年後の150周年に向けて在校生の皆さんにタイムカプセルを再び入れてもらうことも考えています」と抱負を述べた。

中を開けたとき、あの日より笑っていられる自分でいたい。そんな約束を自らに誓う人は少ないかもしれないが、それでも時々、埋めたことを思い出しては、ささやかな、“生きる希望”になっていくのかもしれない。時を超え、自分が自分にする贈り物「タイムカプセル」。その素晴らしさを覗けた、素敵な1日だった。
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