男の娘・大島薫が語る性と恋愛「理想を持ちすぎない方が良い」

現代の日本人は、性に対してかつてないほど消極的になったと言われています。
そこで今回は、男性でありながらAV女優として活躍した経験があり、「男の娘同士での交際」を公言するなど、「性」というテーマをさまざまな角度から見つめてきた、大島薫さんにお話を伺いました。


理想と恋愛するのではなく、目の前の相手との恋愛を


――セックスをしない若者が増えているそうです。相模ゴムが2013年に行った調査によると、20代の男性は約4割が童貞だというデータが出ています。一方で同アンケートでは、童貞だと回答した男性のうちの7割以上が「セックスをしたい」と回答しています。彼らがセックスをするためにはどうすればいいのでしょうか?

大島:単純に性体験を早く済ませたい、童貞を捨てたいのであれば、あまり純愛を目指すことはせずに早く捨ててしまうに越したことはないと思いますが、こと恋愛をしたいとなるとそうもいきませんよね。ただそれでも、あんまり変に理想を持ちすぎない方が良いなと思います。

――理想を持つことはなぜ良くないのでしょうか?

大島:「自分と恋愛する相手はこうでなければいけない」という理想が強すぎてしまうと、その理想と違った部分が少しでもあったら、もう「この人とは違うな」と思ってしまいますからね。それだとその先の段階になかなか発展しません。
自分の理想と恋愛するんじゃなくて、目の前の相手、ひとりの人間と恋愛するという感覚を持てれば良いんじゃないでしょうか。……そういうボク自身も、いま付き合っている恋人のことを、出会った当初は「この人すごい人だ」とある意味で神格化していた部分があったんですけどね。

――実際に付き合っていく中で印象は変わりましたか?

大島:そうですね。実際に付き合っていくと、抜けている部分もありましたし、性格だって「ここちょっと可愛くないな」と思ってしまうところも正直見えてきます。だけどその可愛くない部分や、自分の理想とは違った部分と上手く向き合って、受け入れていくことができたら、より恋愛上手になっていけるというか、恋愛を通して成長することができると思いますね。

男の娘・大島薫が語る性と恋愛「理想を持ちすぎない方が良い」

「AVがセックスの教科書」問題も、結局はコミュニケーション不足?


――いまはインターネットを通じて誰でも簡単にポルノにアクセスできます。一方で青少年に対して、学校や家庭での性教育は未だ十分に行われていません。
その結果、ポルノから得た性の知識しか持っていない男女が、実際のセックスでもポルノのまねをして傷ついてしまうという出来事が後を絶ちません。


大島:これも結局のところ、目の前の相手を見ることができていないから起こる問題ですね。例えばAVで手マンをすごくガチャガチャやっているのを見て「手マンってこんなに激しくやるものなんだ」という間違った知識を植え付けられたとしても、いざ自分がやってみた時に相手が明らかに痛そうな顔をしてたら「これは痛いんだな、嫌なんだな」と分かるのが人間じゃないですか。

――確かに。たとえ間違った先入観を持っていたとしても、自分が大切に思っている相手であればなおさら、表情を見ていれば気付けそうなものです。

大島:たとえ女性が痛みを我慢していたとしてもですよ。
それまで普通に生きてきたのなら「痛みを我慢する人間の顔」だって何百回と目にして知ってるはずだし、気付けるはずなんです。にもかかわらずセックスの時だけ気付けないというのは、女性を性器としか見てない、相手のことを見れていないという何よりの証拠ですよ。

――自分がやったことに対して、相手の感じ方をきちんと確認する。セックスに限らずコミュニケーションの基本的な部分ですね。

大島:相手の痛みに配慮できずにセックスしちゃうひとは、コミュニケーションがキャッチボールではなく壁当てになってしまっているんですよ。相手が痛いと言っていても、壁だと思っているから聞く耳を持てない。
確かに強引であったり、激しいプレイが好きな女性もいますが、それは「自分が本当に痛がった時、本当に痛みを感じた時にはちゃんと見抜いてくれる」という信頼関係ができているからこそ。そこまで深くコミュニケーションできる段階でそういう行為に及ぶからこそ成立するものですよ。

男の娘・大島薫が語る性と恋愛「理想を持ちすぎない方が良い」


我を通すばかりが自分らしい生き方ではない


――大島さんは過去に「ボクらしく。」というタイトルのフォトエッセイを出版していますが、大島さんのように、自分らしさを隠さずに生きていくためにはどうすればいいのでしょうか?

大島:伝え方を磨くしかないと思います。

――伝え方ですか。

大島:ドイツの哲学者のニーチェは超人思想というものを唱えていました。この社会にある法律や道徳観は、一部の権力者にとって都合の良いように作られた偽りの価値観なので、人間はそこから脱却して、自分のやりたいことをやるべきだという考え方ですね。

――実践するのは難しそうですね。


大島:そうですね。難しいんです。たとえばこれは極端なたとえですけど、現在も同性愛が法律で禁止されている国は世界に約70ヶ国以上あって、中には同性愛者だというだけで死刑になる国もあります。もしもいまのボクがそれらの国に行って「自分らしく」振る舞ったとしたら、すぐに警察に捕まって死んでしまいますよね。

――逃げ延びるのも難しいでしょうし、逃げ隠れしなければいけない状況で「自分らしさ」も何もありませんからね。

大島:だけどそこで自分らしく生き延びるための唯一の方法は「同性愛禁止なんておかしい」と相手にうまく伝えて、納得させることだと思うんですよ。
自分の主義主張・思想が、誰にも抑圧されないように生きていくためには、そういった説得力、伝える力、相手を納得させる力がきっと必要なんです。中には権力や世間に真っ向から喧嘩を売って我を通そうとする人たちもいますが、そのやり方だと大抵、自分より強い力に負けて潰されてます。そうではなく、相手を説得して、懐柔していくことで、自分らしく生きやすくなるんじゃないかな。

――「自分らしい生き方」というと、「誰にどう思われようと俺はこうだ」という姿勢をイメージしがちですが、そうではなく、相手を納得させることで自分らしさを貫いていくんですね。

大島:そうですね。だからボクだって、時には自分よりも優秀じゃないだろうけど権力は持っている相手に、腹の中では「いまにお前はボクより下になるんだからな」と思いながらペコペコしたりしますよ。自分らしい生き方というのは、かならずしも我を通すことではないと思っています。

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(辺川 銀)