
「働き方改革」を多くの企業が模索しているなか、「テレワーク」や「フリーアドレス」を導入している企業が増えている。製菓業界の大手・森永製菓も今年4月に一部工場やカスタマーサポート部署を除いた全社員にテレワークを、本社と研究所でフリーアドレスを導入したところ、社員からは好評の声が上がり、同業他社からも見学に来ているなど先進的な取組みを実施している。
目的としては、会社の効率と生産性をあげ、社員が生き生きと働ける環境整備、さらには企業価値をより高めることにあると言う。
今回は、森永製菓人事総務部の藤井大右副部長兼総務グループマネージャー、人事グループ人事企画担当の茅野優子氏、総務グループ総務担当の坪井俊介氏、そしてテレワークを実践しているコーポレートコミュニケーション部広報グループの寺内理恵氏に話をうかがった。

取材対応で外出→帰宅してテレワークも
――まず御社がテレワークを導入した理由とその制度設計についてうかがいます。
茅野優子(以下、茅野) 世間一般的に見ても、労働人口の減少、ワークライフバランス、ダイバーシティの推進、パンデミック時の事業継続などが背景にあります。弊社の経営のテーマとして、2S(整理・整頓)の推進を実施し、ペーパーレス化を進めました。ペーパーレス化が進んだことにより、オフィスがより機能的になりました。
さらに、パソコンに通信機器をつけて会社の外でも同じ通信環境を整備し、どこでも自由に仕事ができる環境が整ったことで、今年4月からテレワークの実施に踏み切りました。
――成果のほどはいかがですか。
茅野 弊社は4月に導入したばかりですが、先日、社員向けにアンケートを実施しましたところ、「集中して業務を行える」「通勤時間が自由になり、家族との時間が持てるようになった」、そして育児との関係で短時間勤務を余儀なくされた方からは、「短時間勤務を解消できた」との意見がありました。
生産性向上にも十分つながっていると感じていますが、ただ、導入から間もないのでこれからだと思います。
特に、お子さんの育児や親御さんの介護を抱える方にとっては良い制度ではないかと考えています。
具体的な事例として、保育園へお子さんの送り迎えが終わった後、どうしても行っておきたかった業務やメールチェックなども、家で行うことができますので、ワークライフバランスの向上につながっていると思います。
また、業務の内容によりますが、会社ですと頻繁に電話がかかってきたり、あるいは社員から声をかけられたりする場面もありますが、家では集中して作業も行えますので、生産性が上がるという声もあります。
――テレワークに伴う生産性向上について詳しく教えてください。
茅野 テレワークの導入により、出張先や出先でも、会社で業務を行う時と同じ環境で行うことができますので、空き時間や移動時間の有効活用により、生産性の向上につながっていると実感しています。
――今回、取材連絡で寺内様がテレワークを実践されたと聞いて驚きました。広報業務ではテレワークは無理だと経験上、思い込んでいました。
寺内理恵(以下、寺内) 仕事柄、テレワークができない部署があり、各メディアお問い合せ窓口である広報もそのうちのひとつだと考えていました。実は、連絡をいただいた時も、取材立会いで千葉の工場にいましたが、本社に帰らず、帰宅して作業し、原稿確認や取材日程の調整などを行いました。
これにはコミュニケーションが不可欠で、お互いの部署同士で連絡を取り、「本日は工場に行くので午後からテレワークに入ります」と伝えればスムーズに進みます。
また、逆に別の方がテレワークに入ることになれば、私が会社の電話を受け取ることになります。それはお互い様の協力ですね。そうしたやりとりがあれば広報でもテレワークが可能だと実感しました。

フリーアドレスにして座席を7割まで減らす
――続いてフリーアドレスの制度設計について
坪井俊介(以下 坪井) 弊社のフリーアドレス制度はグループアドレス分けにしております。今までは固定席で作業をしていましたが、フリーアドレス制度導入で今までよりも自由度が向上しました。フロアも効率的に使え、清潔感が増したというアンケート結果が出ており、「業務がしやすくなった」という声が多数届いています。
――監視の目が行き届かなくなるという声はありますか。
坪井 そういう声はいままでに届いておりません。今は同じテーブルで部長が隣の席にいることもあり、監視の目が行き届かないということはありません。
――ほかにはどんなメリットがありますか。
坪井 いままでは人数分の椅子と机がないとダメととらえていたのですが、フリーアドレスにした結果、執務スペースが効率的になり、従来の7割ほどに座席数も減らしました。これまでミーティングルームや会議室が足りないという声もありましたが、相当増やしました。
社内外の方との面談や商談もスムーズに進み、このような取材対応にも使用しています。かなり好評の声をいただいています。
――人間関係のフラット化はいかがですか。
坪井 実際そういう声もいただいています。上司と部下ともども相談しやすい環境になりました。以前よりもコミュニケーションが深まったとの印象があります。
新卒採用にも好影響
――新卒採用面での影響はいかがですか。
藤井大右(以下、藤井) いい影響を与えています。弊社の「ワークスタイル変革」はさまざまなメディアで取り上げられています。弊社の入社希望者は、企業理念への共感はもちろんのこと、このワークスタイル変革も入社の動機づけのひとつになっています。
――今の学生さんはトップダウンには慣れていないのではないでしょうか。
藤井 今は、一つのプロジェクト・タスクについてみんなで協力してチームワークで成し遂げようという意思が強くなっています。あるいは、上司であっても自由に意見を言い、みんなの智恵で、業務を遂行するという風土になっていると感じます。
――今後の「働き方」の未来はいかがでしょうか。
藤井 まだ私どもは「働き方改革」の緒に就いたばかりであり、これから進化させていくことが大切だと考えています。「働き方改革」の目的は、会社の効率や生産性向上により、企業価値を高めるところにあります。そこを見失うことのないように、成果をきちんと評価できるシステムやみんなが活き活き働ける環境整備をすることによって、世間から、「森永製菓の企業価値は上がったね」と評価いただけるようになりたいと考えています。
(長井雄一朗)