「コンドームを使って公平な社会を目指したい」。そう宣言するのはベルリンにあるスタートアップ企業、アインホルン(ドイツ語でユニコーンという意味)の最高経営責任者の一人、フィリップ・ズィーファー氏だ。
通常、ビーガンとは動物性の食品を摂取しない食生活を指すが、ここではコンドームの素材に動物性のものが一切使用されていないという意味で、ビーガンという言葉が使われている。アインホルンでは動物を犠牲にすることなく商品を開発することに力を注いでおり、これは動物への配慮の一環である。他にも例えば、動物実験が一般的な方法である品質テストにおいて、それ以外の方法を探るために学術機関や研究機関との協力を進めている。
アインホルンとはどのような会社なのか?
アインホルンが目指している「フェアステナブル」とは、英語の「フェア(公平な)」と「サステナブル(持続可能な)」を組み合わせた造語だ。この合言葉の下に、アインホルンはコンドームに使う天然ゴムの採取から、客が商品を購入するまでの一連の流れの中で、自然と人間にとっての持続可能性を追求している。
ズィーファー氏に、なぜフェアステナブルを目指す手段にコンドームを使ったのかという理由をたずねたところ、「え? だってコンドームって最高じゃない!?」という非常にざっくばらんな回答をもらった。
まず一例として、彼らのパートナーであるマレーシアの天然ゴムのプランテーションとの取り組みが挙げられる。ここでの焦点は、労働環境や自然環境をいかにして守るかということだ。特にアインホルンが主眼を置くのがプランテーションの労働者の賃金である。アインホルンはこれまでの賃金制度に加えて、報酬制度を導入したのだ。これにより労働時間や天然ゴムの採取量にかかわらず、労働者の月々の収入が15%程度増えることが見込まれている。
環境については、経営者の負担にならならない方法で、バランスの取れた自然環境の多様性を確保するため、天然ゴムの研究者とともに定期的に現地視察に赴いている。
利益と社会、環境問題への貢献を両立させるビジネスモデル
アインホルンは非営利組織ではなく企業である。利益を生み出さねばならない。そして、彼らの提唱する新しいビジネスモデルの特徴は、得た収益の50%を社会プロジェクトや環境プロジェクトに投資する、というものだ。上述のマレーシアの天然ゴムの再造林のプロジェクトも、この新しいビジネスモデルの一環である。
この他には、性の啓蒙プロジェクトを行い、「エイズに対抗する若者」というドイツにある団体の性感染症予防のキャンペーンの支援を行った。これは、結果的に世界で7000万人を超える登録者がいる大手マッチングアプリLOVOO(ラブー)の協力を引き出すことに成功するなど、成果をあげた。
消費者がコンドームを手にする敷居も下げた。性に対してオープンに映るドイツ社会でも、コンドームを買うという行為は、若干の気まずさを伴うものだ。その原因が、一目でコンドームと分かるパッケージにあるとみた彼らは、まずその見た目を変えることに乗り出した。そうして生み出されたものが、ポップなデザインが施されたポテトチップスの袋のようなパッケージだ。
「私たちは、企業は社会の中で責任ある立場にあると考えている。なぜなら企業は文化や政治、経済、そして社会に影響を与えるからだ。
社内の労働環境も公平に
社内の労働環境を整えることも、アインホルンが目指す使命だ。同社では、従来の企業組織のあり方にとらわれない労働環境づくりを行っている。アインホルンでは給与を自分たちで決められるのだ。
社員全員がひとつのテーブルにつき、「自分の仕事に対する公平な報酬はいくらだと思うか、今後6カ月間自分が欲しいと思う給与はいくらぐらいか」ということを話し合う。「議論好きなドイツ社会だが、初めはさすがに気まずい空気が流れた」とは、もう一人の最高経営責任者、バルデマー・ツァイラー氏の談である。しかし結論として、この取り組みは大成功に終わった。オープンに話し合うことで、社員全員がお互いの立場を見直すことができ、チームとして目標に向かう努力がなされるようになった。これはチームのモチベーションの向上にも一役買った。
自分ができることから出発して、目標に向かう。コンドームをきっかけに、アインホルンは独自の取り組みを通し、公平で持続可能(フェアステナブル)な社会の実現を目指している。
(田中史一)