弁護士に聞いた!違法行為と知らずにやりがちな会社員の「ブラック行為あるある」
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ブラック企業という造語は、企業が従業員に対し違法行為を行うような響きがあるが、むしろ従業員が知らず知らずのうちに違法行為をしてしまい、結果的に企業をブラックにしまうケースも多くある。

数多くの労働事件を労使両方の立場から扱ってきた「スマダン世代」の弁護士に「意外なブラック行為あるある」を尋ねてみると、驚きの結果が判明した!

タイムシートは原則1分単位でカウント


キリの良さからなのか、5分未満の労働分を切り上げる方式のタイムシートを使用する会社も少なくない。例えば、従業員が18時4分まで働いたら18時まで仕事をしたとして端数の4分については支払い対象にならない、といった具合だ。
従業員も会社への忠誠心が勝ってしまうせいか、こうした運用を当然のように受け入れがちだが、法的にはアウトだという。

労使双方の代理人を数多く務めてきた山岡法律事務所の鈴木優吾弁護士に聞いたところ、次のような回答が返ってきた。「労働時間を1分刻みでカウントしない、いわゆる労働時間の切り上げ運用は労働基準法に違反します。労働時間とは、そもそも使用者の指揮監督のもとに発生する時間という概念ですから、その相当時間分は1分単位に基づき支払わないといけません」。読者の中には、現場の指揮監督者として活躍し始めるサラリーマンもいることだろう。自分がブラック認定されないためにも、くれぐれも後輩に労働時間の切り上げを強要することのないよう注意したい。 

これに似たケースで、後輩のためを思い「始業時間の5分前には着席し、前日に覚えた仕事の復習をするように」などと指導してしまう兄貴肌のサラリーマンも要注意だという。早く来させた5分間に対して給与が発生しないのは、やはり違法になるからだ。

派遣社員の顔合わせ時にやりがちなブラック行為


一般的な面接では応募者に名前を言ってもらい、現住所も履歴書に明記させるのが普通だが、これが派遣社員相手となると話は別だという。顔合わせの際になかなか名乗らない派遣候補者に出会った経験はないだろうか? せっかくこちらが名刺を出して挨拶しているのだから……と、顔合わせ中の派遣社員に対して名前や住所を何度も尋ねると、その行為自体が違法になり得るという。個人識別情報を提示させる行為は、相手を特定する目的であると誤解されるケースもある。「通常の派遣契約を前提とした派遣候補者に個人特定情報を示させる行為は、違法になりうる」(鈴木弁護士)という。

もっと言ってしまえば、派遣候補者が名乗らないことや現住所を言わないことを理由に受け入れ可否を決めようものなら、それは受け入れ側に問題ありという理屈が成立しそうだ。
こちらが名刺を渡しても相手の派遣候補者が名乗らず、奇妙な空気が流れたとしても、それは派遣契約に基づいた合法的なリアクション。意外な事実だが、結構な確率で派遣社員の顔合わせ時にフルネームや住所を尋ねるサラリーマンも多いのではないだろうか? ぜひとも気をつけたい。ちなみに、これが直雇用や紹介予定派遣のケースなら相手にフルネームを言わせて構わない。


秘密保持契約を盾にパワハラ・セクハラするケース


ブラック企業を相手取った裁判では、秘密保持契約の解釈について争われることが多くある。「社内で見聞きしたことは全て社内情報と捉え、一切の口外禁止」などと教育された経験はないだろうか? 実際に、これを拡大解釈した地位の高い社員が秘密保持契約を盾に部下にパワハラ・セクハラをし、事件化するケースがある。キレた部下が「訴えますよ!?」と抵抗すると、今度は訴訟を嫌がる人事部の偉い人が出てきて「秘密保持契約書にサインしたよね?」などと被害者に迫り、被害者が泣き寝入るだけ……「社畜あるある」の顕著な例といえよう。

さて、秘密保持契約はどこまで強力なのか? 家族や友人に会社の愚痴すら言わせないほどの強力な印籠なのか? これについても鈴木弁護士は「契約の内容にもよるが、社会通念的解釈に基づくと、従業員が社外の人に業務上の相談事をしてはならないと一概に言い切れる契約ではない」と指摘する。秘密保持契約は、営業秘密を漏洩してはならないという「不正競争防止法」の概念から生まれたものだから、パワハラ・セクハラされたことも伏せておけ!という解釈は当てはまらないようだ。「秘密保持契約を結んだ仲だから、ちょっとくらいのご法度はオッケー!」などと甘く考えて部下に接していると、逆に第三者公開の裁判の場で顔から火が出るくらい様々な恥部を暴露されてしまうかもしれない。

以上、自分ではブラック行為と思っていなくてもブラック認定されるケースを挙げてみた。平和なサラリーマン生活を送るためにも、あらためて立ち振る舞い方を考えておきたいものだ。
(タカヤナギ)
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