
風俗店で働く女性たちは、その多くが経済的な課題を抱えている。今回は3人の風俗経験者にお話を伺った。
アルバイト10時間分を1時間で稼げる
経済的な困窮の中で育ったYさん(25歳)は、大学時代、学費や生活費を稼ぐために風俗店に勤めた。
「一般的なアルバイトであれば10時間働いてようやく得られる金額を、風俗だったら1時間で稼ぐことができます。どう考えてもいちばん効率的な稼ぎ方でした」
貧困から脱するために大学へ進学した。学費を稼ぐためのアルバイトに追われて、学業に時間を割けなくなるのでは本末転倒だ。また、プライベートの時間を人並みに持ちたいという、青春時代の女性としてはごく当たり前の、ささやかな願いもあった。そんなYさんにとって、風俗で働くという選択肢は合理的だった。
まだ10代の若さで勤め始めたことと、容姿の良さもあり、Yさんには多くの客がついた。
「ずっと貧乏がコンプレックスでした。他所の子どもが当たり前に買い与えられるものも、自分だけは買ってもらえなかった。そういった経験が積み重なるにつれて、自分はよその子どもたちよりも価値がないんだと、そういう劣等感が強くなりました。けれど風俗で働き、自分の身体がお金になるものだ、この身体で他の女性よりも多くの対価を得られるのだという事実は、ある意味で自分の拠り所にもなっていた気がします」
大学を卒業し、昼間の仕事に就くようになった今でも、Yさんは風俗店に籍を残している。
その一方で「やはり身を削る仕事である仕事であることは確かです」とも。
「もう身体は売るまい」と決めていたが…
宮城県に住むKさんは学生時代に援助交際をしていたが、「もう身体を売ることはやめよう」と考え、卒業後は営業職に就いた。しかし完全歩合制ということもあって収入は安定せず、月収が5万円ほどという月が2カ月続いた時に退職することを決め、現在は県内の風俗店に努めている。
風俗の仕事では「禁止されているにも関わらず本番行為を求められる場面や、女性をモノのように扱う男性も多く、お客さんに対して良い感情を抱くことはない」というものの、「それでも営業職の時代と比べればよほどマシ」とのこと。
「もう身体は売るまいと一度は決めましたが、前に勤めていた営業職ではそれ以上のものを搾取されていました。これは極論だけど、生活に困っている女のひとはみんな風俗をやれば良いんじゃないかと今は思いますね」
彼女はそう話すが、少々過激にも思えるこの発言の背景には、何らかの事情でつまずき、スキルや経験を順風満帆に積み上げられなかった女性たちにとって、生活するのに十分な金額を稼ぐことや、安定した職に就くこと自体が非常に困難だという現実がある。
日の当たる場所にセーフティネットがないことが問題
都内に住むMさん(27歳)も、かつて生活の困窮を理由に風俗店に勤めていたうちのひとりだ。
「これを口に咥えれば○○円」と、あくまで仕事、あくまで生活のためと、意識的に割り切って働いてきたMさんだが、「終わった後、あのお客さんにも奥さんや子どもが居るのかな。もし居たとしたら、自分の夫や父親がこういう店に来ているというのは、嫌なものだろうなと想像してしまい、後ろめたい気持ちになることは少なくなかったですね」と当時を振り返る。
とはいえ「本当にお金がなかった時、風俗という選択肢があったことは、私にとって一応の救いでした。自分がいつか結婚をしたり、子どもを育てていくことを考えたら、墓場まで持っていく秘密を持ってしまったということに対する後悔はやっぱりあるんです。けれど、もしもあの時、身体を売ってお金を稼ぐこともできない状況だったら、今日まで生活してくること自体が不可能だったと思います」とも。
現在、風俗産業に対する風当たりは強い。特に東京では「オリンピックを迎える街に風俗店はふさわしくない」といわんばかりに浄化作戦が進み、街にあふれていた店舗型の風俗は年々その数を減らし続けている。代わりにデリバリーヘルスなど、無店舗型の風俗店が増えた。無店舗型風俗では、女性と客が、店の手の届かない場所で二人きりになる。町の浄化と称した施策が、逆に女性を危険にさらしているという側面もある。
「風俗なんか街からなくなってしまえという声もあります。
風俗があることが問題なのではなく、セーフティネットが他にないことが問題。日の当たる場所にセーフティネットを作ってくれさえすれば、自分を含めた多くの女性は身体を売ったりなんかしないだろうと、Mさんは言う。
(辺川 銀)