「さよなら人類」の柳原陽一郎が語る、ジャズ×オリジナル詞×芝居×講談の『三文オペラ』/インタビュー1
撮影/岡田貴之

■柳原陽一郎/『オルケスタ・リブレ plays 三文オペラ』インタビュー(1/4)

ジャズと歌と講談と芝居……? 一見、どう噛み合うのかピンとこない組み合わせではあるけれど、これが一度観たらクセになるほど面白い。ダイナミックかつ繊細に10人編成のジャズバンドが夢見心地な音楽を奏でたと思ったら、講談師が時事ネタ満載のストーリーテリングを受け持ち、役者が主人公の胸の内をコミカルにシリアスに演じてみせる。
その舞台のなかで、ある意味、キーマンとなっているのが全曲の訳詞と歌を担当する柳原陽一郎だ。かつて唯一無二の存在感をアピールしたバンド“たま”に在籍した、いまだ平成を代表する名曲として知られる「さよなら人類」の作者であるが、平成が終わろうとする今、またもやすごいパフォーマンスを見せてくれている。時は変われど、この人の毒と愛に満ちた歌は色あせない。そんなことを目の当たりにできる『オルケスタ・リブレ plays 三文オペラ』、東京オリンピックを向こうに見据えた今の日本に、高らかに響き渡る!

ユーモアとペーソスが散りばめられた日本語詞も聴きどころ

そもそも柳原陽一郎が『三文オペラ』全曲の訳詞を手がけることになったのは、2012年夏にリリースされたオルケスタ・リブレのアルバム『うたのかたち~UTA NO KA・TA・TI』にボーカリストとして参加したことがきっかけだという。その際、『三文オペラ』の曲も収録することになり、歌詞を訳してレコーディング。それを機に、その年の秋、『三文オペラ』公演が行われることになった。
              
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──『うたのかたち』には『三文オペラ』の曲は3曲だけ収録されていますね。

柳原:そうです、なので残りの10数曲を2012年の夏に訳して。もちろんすでに日本語にされた訳詞もあるんですけど、どうせなら新たに訳して歌おうということになったので。

──これまでもバート・バカラックやボブ・ディランをはじめ、さまざまな曲の訳詞をされていますが、『三文オペラ』の訳詞はどうでしたか。

柳原:わりと楽でした。おそらく元の歌詞がものすごくわかりやすいからだと思います。
それまで僕は、どちらかというとボブ・ディランとか、アメリカのシンガーソングライターの曲を訳して歌うことが多かったんですけど、そういう人達は抽象的な言葉や表現を使うから、ややこしいわけです。「これ、何を歌ってるんだろうなぁ」っていうこともよくあるし。でも『三文オペラ』の歌は基本的に台詞のようなものなので。歌の主人公が何を言っているのか、すっと気持ちがわかるような歌がほとんどなんですよね。

──もともと芝居の台詞のような形で作られた歌だから。

柳原:そうそう、「金がない」「なんで貧乏なんだ」「お前が好きだ」とか。だから逆に前後の芝居を踏まえて、ちょっと膨らましてあげればいいわけなんです。例えば、昔の恋人が出てきたら、「幻のような日々だった」という訳をあてる、みたいな。そういうことは、たぶんちょっと得意というか好きなんだと思います。
「さよなら人類」の柳原陽一郎が語る、ジャズ×オリジナル詞×芝居×講談の『三文オペラ』/インタビュー1
撮影/深堀瑞穂

『三文オペラ』は1728年にロンドンで上演された『乞食オペラ』に素材を借りたベルトルト・ブレヒトの台本に、クルト・ワイルが9人のジャズ・バンドを用いてジャズの手法を効果的に使った音楽をつけた音楽劇。1928年のベルリンでの初演時に爆発的な成功を収め、以後、世界各地で上演された。『モリタート』(別名『マック・ザ・ナイフ』)をはじめ多くの有名な歌を含んでいることでも知られている。

物語の舞台はロンドンの裏町。主人公は警視総監ブラウンとも懇意な、盗賊団の首領メッキー・メッサー。そのメッキーが誘惑した娘が、乞食の元締めピーチャムの愛娘だったことから恨みを買い、絞首刑に処されることになるのだが……。
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──『三文オペラ』には以前から興味を持たれていたのですか。

柳原:『三文オペラ』というよりクルト・ワイルの音楽のほうに興味がありました。『アラバマ・ソング』を訳して歌ったりしてましたし。『三文オペラ』自体は映画化されたものを観たくらい。残念ながら、その時の印象は「なんか面白くないなぁ」だった(笑)。僕は演劇人じゃないから、ブレヒトのすごさは正直なところよくわからないんだけど、クルト・ワイルの音楽はまぁ本当に素晴らしいので。訳しながらも心からすごい作曲家だと思いました。

──具体的にどのあたりが、どうすごいのでしょうか。

柳原:オリジナルの塊なんですよ。
ジャズでもないし、ラテンのようでもないし。かといって甘ったるいBGMにもなってない。でも、ものすごくメロディーが立っていて、ごついんですよね。

──ごつい?

柳原:やわじゃないというか。バート・バカラックもそうでしょ。聴きやすい曲に思えるけど、音楽の芯が太いというか。またギターを弾いて音楽始めた僕のような人間は「今、どういうコードが鳴ってるんだろう」とか、「8ビート? 16ビート? それともシャッフル?」っていうとこから音楽をとらえたりするわけだけど。そうではなく簡単に言えばクラシック音楽の要素がある作り方をしているから、それもすごく新鮮で。なのに売春宿の歌とか、すごくダーティーなことを歌っていて、それもまたカッコいいと思ったし。そういうことだったら自分にも入っていけると思ったんです。だって普通に考えたら僕が歌うことにはならないでしょ、オペラの歌は。
「さよなら人類」の柳原陽一郎が語る、ジャズ×オリジナル詞×芝居×講談の『三文オペラ』/インタビュー1
撮影/深堀瑞穂

──たしかにそうですよね、オペラは歌わないでしょうね。


柳原:でも『三文オペラ』は芝居もあって歌もあるので、ずっと歌ってるわけじゃないから。そういう軽演劇的なところがありつつ、しかも音楽はオーケストラじゃなくてジャズっぽい編成という。だからロックだなぁ、パンクだなぁっていう感じがしたんです。

──オルケスタ・リブレの演奏はそもそもの形からすると、アバンギャルドなものになっているのですか。

柳原:そんなに違いはないと思う。突っ張ったアレンジになっているものも何曲かはあるけど、やや現代チックになってるくらいのニュアンスだと思いますよ。

──物語としては下層階級の人と権力側の人が出てきて。

柳原:とはいうものの下層階級と権力側が、実は上のほうでは繋がってて。でもそれが現実、それが世界ってもんじゃないかと。

──言ってみれば大昔からそうですよね、アル・カポネと警察とか。

柳原:そうそう、禁酒法と警察や政治家とか。でも「そこをわかってくださいよ」っていうことに終始しちゃうと、非常に興醒めたものになるので。
そこのところは、皆さん一般教養として仕込んでおいてくださいっていうような感じで訳詞も書いてますけどね。

――インタビュー2へ

≪公演情報≫
『オルケスタ・リブレ plays 三文オペラ』
2018年2月1日(木)2日(金)牛込箪笥区民ホール
18:15開場 / 19:00開演
出演:オルケスタ・リブレ、柳原陽一郎(歌)、神田京子(講談)、松角洋平(芝居)

チケット:
前売り¥4,000、当日¥4,500(共に税込・全席自由)
e+ http://eplus.jp/sys/T1U14P0010163P0108P002245790P0050001P006001P0030001
Confetti(カンフェティ)
https://s.confetti-web.com/detail.php?tid=42940
問い合わせ:studiohanai@gmail.com(hanai studio)

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