ブラック企業アナリストが手口語る「悪意ある会社の退職引き止め術」

働き方改革が話題になる一方で、ブラック企業にまつわる痛ましい出来事は後を絶ちません。ブラック企業の被害から、私たちはどのように身を守ればよいのでしょうか? 「働き方改革総合研究所」代表取締役でブラック企業アナリストの新田龍さんにお話を伺いました。


ブラック企業には長居しないのがいちばん


――自社がブラック企業になってしまったり、ブラック企業に入社してしまった場合、従業員はどのように自分の身を守れば良いのでしょうか?

新田:いちばん確実なのは辞めることですね。行き当たりばったりで辞めるのではなく、十分に準備してから辞めた方が良いというのは大前提ですが、今は転職サイトやエージェントも多くあります。時間のない方のために電話での面談やチャットでのやり取りで転職のサポートをしてくれるところも多くなりました。まずはそういったサービスを利用するところからアクションを起こすのがおすすめです。

――やはりブラック企業には長居しないことがいちばん。

新田:そうです。けれど実際には「すぐに辞めると辞め癖がつく」「雇ってくれた会社だから恩義がある」などといった価値観を刷り込まれているために、多くの人が会社に残ってしまいます。


――「新卒で入社したら、まずその会社で3年は働け」「石の上にも3年」という考え方は今も根強いですね。

新田:「石の上にも3年」とはいっても、人を使い潰すような会社は石ですらありません。そんなところにいても何も身につかず潰されるだけなので、3年居る価値がある石なのか見極める必要があります。

――何も身につかずに3年経ってしまったら、転職も余計に難しくなりますしね。


新田:また悪意がある会社では、辞められると人が足りなくなるので、あの手この手で引きとめようとします。「お前が辞めると残された人たちはもっと忙しくなる」「みんなに迷惑をかけてもいいのか」などの文句や、さらにエスカレートすると「お前が辞めると人が足りなくなるから、新しい人を雇うための金を払えるのか」とか「損害賠償を請求するぞ」とか言ってくることもあります。
そんな請求はもちろんできませんし、口にすること自体が違法なのですが……。

――違法だと知らずにそんなことを言われたら「そういうものなんだ」と思ってしまいますね。


新田:また、巧妙な懐柔策で引きとめてくる会社もあります。「なんとか給料も上げるし、これから良い会社に変えていこうと思っている。君には期待もしているから、これからも頑張ってくれ」と、甘い言葉で辞めさせまいとします。けれどこの時に言われる「良い会社に変えていこうと思っている」というのは、大抵の場合嘘で、実際には何もしないことが多い。
甘い言葉で引き止められた時には、何を言ったかより、何をやっているかを見る必要があります。改善するといってもらったら、「どういうことをやってくれるんですか」「いつまでに何をしてくれるんですか」というのを具体的に確認した方がいい。それをしないと上手く乗せられてしまう。


社外に相談相手を持つことが大切


――ブラック企業に勤める方の中には、たとえ長時間労働やパワハラなどの被害を受けていても、「自分が未熟なせいだ。自分が悪いんだ」と考えてしまい、自分が被害者だという自覚を持てない人が少なくないように思います。

新田:そうですね。「時間が足りなくて仕事が多くあるのは、仕事が多いのではなく、お前ができないからだ」といったことを、上司などから日常的にいわれつづけて自信をなくしてしまうケースは、ブラック企業だと本当に多いです。
大抵はそんなことはないので、誰かに相談して客観的な意見をもらった方が良いですね。

――まず誰に相談を持ちかければ良いのでしょうか。ある程度の規模の会社であれば社内の相談窓口などもあると思いますが……。

新田:社内の相談窓口はなかなか相談できないと思った方がいいです。ブラック企業の場合は特にそう。開けていると思われている外資系企業ですら、上司からのセクハラ窓口に相談したところ、相談した内容が全部その上司に筒抜けだった、ということも普通にありました。


――社外の方に相談するようにした方が良い。

新田:労働基準監督署まで行くのはハードルが高いという場合は、親しい友人や人材紹介会社の方でも良い。TwitterのDM経由で私に話してくださっても、相談を受けるぐらいなら無料でやりますよ。ブラック企業の被害にあったらまず「それはおかしいですよ」と誰かにいってもらうことが必要。そこがスタートラインになります。


働きやすい職場を作ることで優秀な人材も集まる


――ブラック企業の問題が表面化するにつれて、「ブラック企業をなくそう」「働き方を改革しよう」という動きも目立つようになりました。
私たちの労働環境は今後どのように変化していくのでしょうか?


新田:まだまだ現状では様々な難題が横たわっていますが、一方で働き方改革を先導して行った会社というのは評価を高めていますね。6~7年ぐらい前から改革に着手し始め、産みの苦しみを乗り越えた末に、近年ようやく形になってきたという会社はいくつかあります。そういう会社は、たとえ規模が大きくなくても、「あの会社は働きやすいらしい」という噂が広がっていきますし、優秀な人材も集まりやすくなりますから、取り組む価値は十分にあるといえます。

――昨今では、どんな企業にも欲しがられるような優秀な人材であるほど、給与の高さだけでなく働きやすさも、企業を選ぶ上での重要なポイントだと考える傾向がありますね。

新田:そうですね。最近だと人材の側でも、給料の高い安いだけではなく、自分の時間をどう使いたいか? というところに意識を向ける方が多くなっています。そういう方であれば、会社の規模や知名度にかかわらず、自分の時間があることや、自由度の高さ、雰囲気の良さなども重視して会社を選びます。そういったものの価値が高まってきていますね。

(辺川 銀)