
アパレルショップの販売員。ファッションリーダーとしての側面を持ち、羨望の対象になることも多い職業だが、反面、低賃金で長時間労働になりやすい職種として話題に挙がることも多い。
求められるスキルに対し、報酬は伸びない
アパレルショップの販売員として約20年のキャリアを持つBさん(39歳)。元々はスタイリスト志望だったが、ファッションに携わる仕事として販売員を選んだ。世の中のトレンドを先取りできることや、展示会などの華やかな舞台で着飾って人前に立てること、ファッションのお手本として見てもらえることなどが仕事のやりがいだという。
店の売上は販売員の接客スキルに大きく左右される。いつ訪ねてくるかわからない顧客ひとりひとりの、好みや性格を把握し、その上でのコミュニケーション能力や、以前話した話題を忘れない記憶力など、売上を多くあげる販売員になるために必要なスキルの数は決して少なくない。
にもかかわらず、彼女たちのスキルが報酬に反映されているかは疑問だ。
「給料はスキルに合わせて上がる会社もありますが、全体的には低い方だと思います。能力があっても、月収が25万を超えてくる会社はあまりありません」
ファストファッション。儲かっても従業員には還元されず
大手ファストファッションブランドに販売員として勤めるAさん(28歳)。企業としての業績は右肩上がりだが、店頭に立つAさん自身が置かれている環境は厳しい。
勤務時間は1日10時間を超えることが当たり前で、繁忙期には12時間以上にもなる。また基本給が安い上に、店頭に立つには美容室や化粧品、靴などの細かい出費もかさんでくるため「残業代で稼がなければとても生活できない」とも。
閉店作業を終えて22時に退勤し、翌日8時に出勤するシフトの場合、そこから通勤時間も差し引くと在宅できる時間が6時間程度。必然的に前日の疲れを引きずったまま働くことになる。
月に8日程度の休みは確保されているものの、長期の休みを取って身体を休めることはほとんど不可能だという。「半年近く連休を取ってない時期もありました。その時は結局倒れてしまいました」とAさんは苦笑いを浮かべる。
制度としての有給休暇はあるが「今の体制で従業員が有給を使おうものなら、店長が一週間ぐらいワンオペをしないと現場が回らなくなる」とのことで、実際には絵に描いた餅だ。
「一応、本社から各店舗に向けて『有給を消化するように』という指示は出るのですが、これも形だけです。有給を取れるよう何らかの対策を取ってくれることはありません」
店頭に立つ社員と、本部に勤める社員との間には、同じ正社員でも待遇が大きく異なるという点にも、Aさんは首を傾げる。
「ショップで何か困りごとがあって本部に電話しても、夕方を過ぎると営業時間外ということで、電話にすら出ません。大企業だけあって福利厚生も充実していますが、これも実態は本部の社員だけが使えるもの。ショップのスタッフには使える機会がほとんどありません。使う機会のない福利厚生を充実させて外面を良くするぐらいだったら、もう少しぐらい基本給の方に上乗せしてほしいですね」
企業としては利益を上げているが、現場で商品を売るスタッフには還元されていないのが現状なのだという。
減らない無駄な業務。生産性の向上を
都内のアパレルブランドに販売員として約5年間勤め、昨年夏に退職したNさん(25歳)も、労働時間の長さに苦労していたひとりだ。Nさんは長時間労働が蔓延する理由のひとつとして、慣例として行われている無駄な業務の多さを指摘する。
「パソコンで入力すればすぐに済むデータも手書きで管理しなければいけませんでした。本部に提出する日報についても、せいぜい天気と、その日にあった出来事の概要だけを箇条書きで記入する程度で事足りるはずなのに、だらだらと冗長な文章を書き、枠内を文字で埋めて出さなければいけないという暗黙のルールがありました。その他にも、本部の判断ひとつで省ける無駄は多かったと思います」
働き方改革が推進されている昨今。企業は長時間労働を防ぐために、無駄な業務を省き、時間あたりの生産性を上げる努力をすることが求められている。しかしNさんのいた職場では、そういった努力はほとんど見られなかった。
一方で無駄を省けなかったツケを払うのも現場のスタッフたちだ。店舗のブログ更新や、セール期間前に得意客へ送付するダイレクトメールの作成といった作業は帰宅後、賃金の発生しない業務時間外に行わなければならなかったという。
「ネットショップの普及により、実店舗が売上を伸ばすことは難しい時代になりました。
(辺川 銀)