戦中〜終戦〜戦後と、グワーッと展開した今週。
実際の記録映像がちょこちょこと挿入され、戦争の悲惨さをナレーションで押し出してはいたが、「歌劇」編集者の森継男が出征して行ったと思ったら、「大丈夫かしら!?」とハラハラする間もなく次の日の放送でアッサリ帰ってきたりと、ドラマ内での戦争の扱いは深刻さに欠けて、イマイチ中途半端だった。
既に発表されている次期・帯ドラマ劇場(来年4月かららしいけど)『やすらぎの刻〜道』でも戦争を描くことになると脚本家の倉本聰が語っているようだが、この帯ドラマ劇場は「戦争」を大きなテーマにしているということなのだろうか?
だとすれば、若干ムリヤリぶっ込んだようにも思える戦争エピソードも分からなくもないが……。
そういえば今週は宝塚歌劇団の新人として八千草薫が入団してきていた。先週の九条摂子(『やすらぎの郷』で八千草薫が演じていた役)の映画ポスターといい、八千草薫が主演するらしい『やすらぎの刻〜道』へ向けての壮大な前振りなのかな?

夢破れて恋愛に逃避しちゃう気持ち、分かるぞ!
そんな戦中編で印象に残ったエピソードは、歌劇団の脚本家・庄司義男(駿河太郎)からコーちゃん(瀧本美織)への求婚。
戦時中だというのに、結婚をして女の幸せを選ぶのか、宝塚でスターへの道を選ぶのか……みたいな、とってつけたような恋愛話を見せられるのかと予想して少々うんざりしていたのだが、コーちゃんの気持ちはちょっと違うものだったようだ。
静岡の実家に帰って旅館を継ぐという庄司から「結婚して実家に来て欲しい」と言われ、
「私が宝塚を辞めること、庄ちゃんにとっては大したことじゃないんだな」
「考えれば考えるほど悲しくなるの。私が庄ちゃんにやめないでって言えなかったこと。庄ちゃんが私に(宝塚を)辞めろって言ったこと」
唐突なプロポーズにも心が揺らぐことなく、宝塚の方だけを向いていた!
父親から勧められたから……ということで宝塚音楽学校を受験し、その後も欲のなさが前面に出て、宝塚歌劇団に対して受け身な印象のあったコーちゃんだが、こんな熱い思いを秘めていたとは。
一方、コーちゃんのためにすごい脚本を書くと言っていた庄司は、
「戦争で宝塚がどうなるかなんてまるで分からないし、いつか必ずって思って書いてた本も何か上手くいかなくなって。そんな時にオヤジの具合が悪くなって、ついコーちゃんに……」
と、夢破れて恋愛に逃避してしまった気持ちを明かした。うん、こっちの気持ちも分かるぞ、庄司! ただ、駆け出しの脚本家と宝塚のトップスターの結婚というのはちと無理があると思うけど。
男役トップスターとして覚醒……と思ったら退団
そんな強い思いで宝塚を選んだコーちゃんは、戦後、敵性音楽として禁じられていた海外の楽曲が歌えるようになって、一気にスターとしての才能を開花させる。
レッスンシーンや楽屋の様子ばかりで、なかなか宝塚のステージが出てこないことでお馴染みの本作だが、今週はようやくステージで歌うコーちゃんがたっぷり見られたので満足!
……ステージのセットが書き割りどころか、帯ドラマ劇場恒例となった変なCG合成だったけど。
食いしん坊でドジッ子だったコーちゃんから、男役トップスターとして「歌舞伎の女形みたいな色気」を感じさせる越路吹雪まで、キッチリと演じ分ける瀧本美織の演技も素晴らしかった。
トップスターとしての風格を身につけ、ようやくこれから宝塚で大活躍する姿を見られるのか……と思っていた矢先に、「退団したい」と言い出したので、「庄ちゃんから辞めろと言われて泣いていたあの気持ちはどこへ!?」とは思ったけど。
ちょうどドラマの半分となる30話で退団話が出てきたということで、サクッと宝塚編を終わらせて、ドラマの本番は退団後、シャンソンの女王として活躍した時期に置いているのだろう。
そして、庄司からのプロポーズを断りに行ったのも、歌劇団に退団を受け入れてもらえないコーちゃんの代わりに周囲を説得して回っていたのも岩谷時子(木南晴夏)だった。
「君はコーちゃんの何なんだ」と問われた時子は「姉です」と答えていたが、そんな気持ちを持って、この後、越路吹雪と二人三脚で人生を歩んでいくことになる。
八重ちゃんの人生、ホントにいいことなかったよ(泣)
今週は、最後の最後にすさまじい衝撃情報が飛び込んできた。
コーちゃんの新潟時代からの幼なじみで、満州へお嫁に行っていた八重子(市川由衣)が死んだというのだ。
貧乏な家に生まれて子どもの頃から苦労し、父親を熊に殺され、家計を助けるために秋田の炭問屋に住み込みで働き、さらに身売りのような形で満州のお役人のもとにお嫁に行った八重子。……あれだけ楽しみにしていたコーちゃんの舞台もまだ見られていないし!
ホントに死んじゃったのだとしたら、まったくいいことのなかった人生じゃないの!
満州で終戦を迎え、日本に引き揚げてくるまでかなり長期間に渡って大陸を放浪したケースもあるそうなので、終戦のどさくさで生死不明になっているだけなんじゃ……と思いたいところだが、コーちゃんが宝塚を退団したのが1951年。
6年も経ってまだ日本に帰ってきていないということは……。八重ちゃんの続報求む!
(イラストと文/北村ヂン)
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