大器「お、良いねそれ」
奈々「良いでしょ」
大器「うん、良い。
2月15日(木)放送のドラマ『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系列)、第5話。
不妊治療として人工授精に挑戦する夫婦・五十嵐大器(松山ケンイチ)と奈々(深田恭子)。奈々は、隣人のこどもを預かったり、義理の妹の出産に立ち会ったりしたことで、自分の「こどもを授かること」への思いを確認する。

自分の醜い心を前向きに変える方法
朋也「つまり、排卵日の1日か2日前が人工授精日になるってことですか」
大器「そう。問題は、確定するのが前日とか2日前ってことなんだよ。しかも、精子は取れたてじゃないと意味がない」
朋也「え、そうなんですか?」
大器「病院では1時間以内って言われてるけど、できるだけ早いほうが良いらしい。まあ、前もって凍結しておくって方法もあるんだけど、夫婦揃って病院行けるのが理想的だよな。でも、仕事あるからなかなかそうはいかない」
本作は厚生労働省とタイアップしているためか、不妊治療に関してときどき説明的な台詞が出てくる。
5話でも、大器が後輩の矢野朋也(須賀健太)に、人工授精のスケジューリングの難しさについてレクチャーしていた。その後、奈々が職場でシフトの変更を依頼するシーンに続く。
奈々の上司は基本的には優しく、奈々を気に入っていて少し甘い。それでも、急なシフト変更が続くことには迷惑そうに注意をする。
実際、不妊治療のために仕事を休む機会が増え、退職をしたり仕事内容を変えたりせざるを得ない人は多いそうだ。
不妊当事者による支援団体「NPO法人Fine(ファイン)」が、2017年に実施したアンケートによると、仕事をしながら不妊治療を経験した人のうち95.6%が「両立は困難」と回答している。
また、仕事と不妊治療の両立が困難で働き方を変えた人のうち、どのように働き方を変えたかに対して「退職をした」と答えた人が50.1%。半数以上の人が仕事そのものを諦める結果となった。
働き方を変えた人は、職場に対する申し訳なさやこどもができない自分に対する情けなさを強く感じているというから痛ましい。
「周りが迷惑している」と言われた奈々もまた、今後、仕事か不妊治療のどちらかを辞める決断を迫られるかもしれない。
今回、奈々は隣人である小宮山家のこども・萌香(古川凛)を預かったり、義理の妹・琴音(伊藤沙莉)の出産に立ち会ったりと、こどもの存在に直接触れる機会があった。
こどもは可愛いだけでなく、言うことを聞かないしヒヤッとさせられる危険な失敗もする。そんなこどもを上手に扱う大器を見て、頼もしさを感じる奈々。こどもがいる生活のイメージができた。
そして、常位胎盤早期剥離による帝王切開で、通常より少し早く、小さく赤ちゃんを産んだ琴音。琴音は「母親失格だ」と自分を責めるが、奈々は琴音の姿を見て感じたことを語る。
奈々「今日、琴ちゃんの出産に立ち会わせてもらって、改めて思ったんだけどね。
小さい頃は、大人になったら誰でもお母さんになれるものだって思ってたけど、実はそうじゃなくて。お腹の中に赤ちゃんが宿ることも、この世界に赤ちゃんが誕生することも、すくすく成長することも、みんな当たり前のように見えているけど、本当はひとつひとつが奇跡だなあって。琴ちゃんは今日、その奇跡を1つ起こしたんだから、自信持ってほしいな」
奈々は、苦労なく自然に妊娠した琴音をうらやんでいた。そんな自分が嫌だと涙していたこともあった。けれど、出産を目の当たりにして感じたのは「やっぱりこどもを産みたい」という自分の意思だった。
「だから、こう思うことにしたの。『私は妊娠できないわけじゃない、まだ妊娠してないだけだ』って」と、奈々は言う。
誰かをただうらやみ腐るのではなく、根拠もなく突然無理にポジティブになるのでもない。ひとつひとつの体験を、少しでも前向きな考えに繋げていこうと努める奈々の姿は、妊娠に限らず誰かをうらやんでしまう──隣の芝が青く見えてしまう──私たちの「こうありたい」というロールモデルであってくれる。
孤独なヒステリーママの苦しみ
奈々が萌香を預かることになったきっかけは、小宮山家の長女・優香(安藤美優)が行方不明になったことだった。
母親の深雪(真飛聖)が優香を探すために萌香を置いて出かけるが、優香はすぐに見つかる。ダンスのオーディションに出るために塾をサボっていた優香を、父親の真一郎(野間口徹)がかばう。

真一郎「ちょっと聞くけど、受験は優香の意思なのか」
深雪「あのね、あの子はまだ小学生なの。まだまだ親の助言が必要な歳だし、いまがんばっておけば、高校受験や大学受験で苦労しないで済むの。あの子の将来を考えれば、中学受験は最前の策なのよ」
真一郎「10歳のこどもにも意思はあると、俺は思うけどね」
深雪「この10年、私1人に子育てさせておいて、よくそんな偉そうなことが言えるわね」
深雪は、Instagramに投稿するために、「リア充代行サービス」を使って優雅なランチ会を演出(たった2枚の写真に3万2千円もかかる!)してまで自分を良く見せたい。それほどまでに世間体に憑りつかれている。
優香のダンス活動にも、きっと反対することだろう。先進的なコーポラティブハウスの中で1人、古い考え方に凝り固まったオバサンとしか思えない。
しかし、SNSで本作の感想を探すと、深雪の苦悩に気付き始める視聴者も見かけるようになってきた。
深雪は、海外赴任や出張が多い真一郎のもとで「1人で」「ちゃんと」「幸せに」こどもを育てなければいけないというプレッシャーを強く感じていた。海外にいては、きっと親や友人に頼ることも難しかったはずだ。
また、「幸せ」の定義が自分で上手くできず、「世間から見た幸せ」に寄りかからずにはいられなかったのではないか。
ここで、夫やこどもに対して支配的な深雪を責めるだけになってしまうのは早計だ。
家族の中で問題を抱えているだけでなく、セクシャルマイノリティやこどもを持たないカップルなどへの偏見も強く持つ深雪。
ドラマを見ながら一緒に考えていくことが、現実世界でも個人を尊重し合う社会をつくっていくためのヒントになっていくはずだ。
オープニング映像にも変化
コーポラティブハウスに住む4家族が集合写真を撮るオープニング映像に、川村亮司(平山浩行)の息子・亮太(和田庵)が加わっていた。入れ替わりで家を出ていくはずだった杉崎ちひろ(高橋メアリージュン)もいる。
集合写真におさまることは、その人が家族として受け入れられた証明のようにも感じられる。ちひろと亮太、そして亮司がこれからどうなるかまだわからない。なのに、この数秒の映像だけでもう胸がじーんとしてしまった。
第6話は、今晩2月22日(木)よる10時から放送予定だ。
(むらたえりか)
・フジテレビオンデマンド
・TVer
脚本:中谷まゆみ
音楽:木村秀彬、堤博明
主題歌:Mr.Children「here comes my love」(TOY’S FACTORY)
不妊治療監修:桜井明弘(医療法人産婦人科クリニックさくら 一般社団法人美人化計画)、石川勇介(株式会社ファミワン)
LGBT監修:森永貴彦( LGBT総合研究所)
コーポラティブハウス、建築事務所監修:牛田大介(株式会社タウン・クリエイション)
プロデューサー:中野利幸(CP)
演出:品田俊介、相沢秀幸、高野舞
制作:フジテレビ第一制作室
制作著作:フジテレビ