ダンディ坂野「偉大なるマンネリ」の魅力 「ゲッツ!」は元々「ゲット!」だった
画像出典:Amazon.co.jp「ゲッツだぜ!!

今でも定期的に「あの人は今」的な企画で、テレビや雑誌等のインタビューに応えることが多いダンディ坂野さん。
ブレイクから20年あまり。
未だネタは「ゲッツ!」に“全振り”するスタイルで、一切ブレがないのが凄い。これって、実は芸人としてひとつの理想の姿ではないか?


『お笑いオンエアバトル』第1回に出場していたダンディ


表舞台に出て来たきっかけは、NHK『お笑いオンエアバトル(オンバト)』にあった。
「史上最もシビアなお笑い番組」とあおられていた通り、観客が面白いと評価したネタのみがオンエア(放送)されるのが売り。
当時は、若手芸人によるネタ見せ番組自体がレアだった。そんななか、この番組は全国ネットで毎週放送されるわけだから、売れたい芸人たちにとっては夢のステージである。

ダンディさんは99年3月放送の第1回に出演し、無事オンエアされている。
バラエティ豊かな参加メンバーを見るに、事務所選抜といった印象。画期的で新しいお笑い番組の誕生を業界がスクラム組んで盛り上げている感じだった。

このときの1位は「ラーメンズ」。先鋭的で独自のカラーを持つ玄人好みなコンビだ。
中学生コンビの「りあるキッズ」、ショートコント連発スタイルの「江戸むらさき」、ベース漫談の「はなわ」、『はねるのトびら』ブレイク前の「北陽/s(後に北陽に改名)」、この年に解散してしまった「びゅんびゅん」と続く。
ダンディさんはオンエアにはオンエアだったが、12名中7位で滑り込みセーフ。
ちなみに、後に大出世する「アンジャッシュ」はここではオフエアだった。

しかし、このギリギリ感が逆に持ち味になるのだから、お笑いは奥が深いのである。


ネタの面白さを超えたところにある「ゲッツ!」!?


ダンディさんの持ち芸は、ご存知のとおり「ゲッツ!」一本槍だ。
タキシード姿のダンディさんが、粋なジョークというかダジャレを飛ばし、すべった空気の中で苦し紛れに繰り出す決めフレーズが「ゲッツ!」。
さまざまなバリエーションがあるが、これがダンディさんのすべてである。

だからか、ネタの質や面白さは正直微妙だ。
実際、『オンバト』では高い出演率とは裏腹に、オンエア率は3割ほどと低い成績だった。しかし、だからこそ、毎回ダンディさんがオンエアできるかでひと盛り上がりできてしまうのだから、芸人としては実においしい。
成績に左右されないキャラの濃さ、この時点でダンディさんのブレイクは見えていたのかもしれない。
何かと使い勝手のいい「ゲッツ!」のフレーズ、両手の親指と人指し指を二丁拳銃のように立てるポーズもマネしやすく、一発芸に最適である。
だからこそ、そんなダンディさんをメディアはほっとかないのだった。


時代の波に乗ったダンディの快進撃は止まらない


マツモトキヨシのCM出演を皮切りに、『内村プロデュース』、『めちゃ×2イケてるっ!』など人気バラエティでも重宝され、怒涛の露出が始まる。
勢いあまって、本人作詞の『Oh!Nice GETs!!』でCDデビューまで果たし、ウルフルズの『ガッツだぜ!!』をパロディ化した『ゲッツだぜ!!』なんてCDまで出たほどだ。
この03年ごろは、ケータイ着信を声で知らせる「着ボイス」が流行し始めた時期。これもダンディさんにとって追い風になった。
ひと言フレーズの「ゲッツ!」が着ボイス市場でも大人気になったのだ。

このころをピークにブームは一気に下火になるが、「ゲッツ!+黄色のタキシード=ダンディ坂野」の方程式は、全国津々浦まで完全に普及。
抜群の知名度から、現在に至るまで地方営業やCM出演が途切れず、安定した収入を誇るというから凄い。
皆が望むのは、一世を風靡した「ゲッツ!」オンリーのキャラ芸人としての姿。
このニーズに応えるために、芸風も変えなければ、見た目や体型まで当時をキープしているという。
「偉大なるマンネリ」こそ、ダンディさんの魅力なのだ。


ダンディが切り開いたお笑い界の新たな流れ


ダジャレを言って自分でウケる漫談スタイルの原点は、エディ・マーフィーにあるという。
それも意外だが、そもそも「ゲッツ!」も元々は「ゲット!」だったことをご存知だろうか。
しかし、滑舌の悪さから周りには「ゲッツ!」に聞こえており、そのまま「ゲッツ!」が持ちネタになったそうだ。

このダンディのブレイクに始まり、サンミュージックは、カンニング竹山からヒロシ、小島よしお、スギちゃん、そして近年ではメイプル超合金と、多くの人気芸人を世に送り出してきたわけだが、そのお笑い芸人輩出プロジェクト名は「GET(ギャグ・エンターテイメント・チーム)」。そう、元々のダンディさんの持ちネタからである。
こう見えて、お笑い新時代を切り開いたリーダー的存在なのだ。

今年2月の週刊大衆のインタビューでは、「伝統芸能のように思ってもらえたらうれしいです」と、自身を語る。
変わらぬダンディさんの姿をたまにテレビで見かけると、それだけでなんか幸せなのである。
(バーグマン田形)
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