鴉 守りたいものを形にした約5年振りのアルバム『還り咲』/インタビュー1

■鴉/ニューアルバム『還り咲』インタビュー(1/3)

約5年ぶりに鴉が4枚目のオリジナルアルバム『還り咲』をリリースした。収録曲は、2009年のメジャーデビューのきっかけを掴んだ楽曲でありながら今までリリースされずにきた「脳内カメラ」、昨年から今年にかけて書かれた四季の景観に想いを重ねたコンセプチュアルな「桜」「蛍」「楓」「霙」……といった、ある意味とても面白いラインナップ。
けれども曲を聴く限り、そうした時の隔たりは全く感じられない。むしろ全10曲が春夏秋冬をテーマにした曲を軸に繋がっている今作は、まぎれもなく2018年の今だからこそ、意味深くとてもリアルに心に響いてくる作品だった。そして最後まで聴き終えたときに胸に残るのは、真っ直ぐに前を向いて自らの足場を踏み固めようとする強い気持ち。そうした想いが全編に漂う『還り咲』、それは鴉というバンドの底力を改めて感じさせてくれる1枚と言えるだろう。ギター&ヴォーカルの近野淳一に話を訊いた。
(取材・文/前原雅子)

ポップな楽曲は近野淳一としてやるようになった結果、バンドでやりたかったことのみに集中してアルバムを作れた

──約5年ぶりのアルバムになるんですね。

近野:そうなんですよね。そんなに経ってる自覚はなかったんですけど。ソロの活動を始めたり、メンバーの脱退があったりでバタバタしてたら5年も経ってました。

──ソロ活動は2013年から。

近野:はい。そもそもソロ活動は、鴉を広めるために始めたことなんです。
バンドでは行けないようなとこにも、弾き語りなら歌いに行けると思って。ただやってみると、意外とソロのほうがハードルが高くて。バンドは他のメンバーの助けもあって成立してるけれど、1人だと、精度を上げないとお客さんが残ってくれない。鴉を聴いてもらうきっかけになればという気持ちで始めたはいいけど、しっかりレベルアップしていかないと意味がないことを痛感して。それもあってソロに力を入れて頑張ることになりましたね。
鴉 守りたいものを形にした約5年振りのアルバム『還り咲』/インタビュー1

──精度というのは、演奏に関してですか?

近野:すべてにおいて。ステージに1人しかいないので、人を惹きつける力がバンド以上に必要になるっていうか。

──弾き語りをするときは、鴉の曲を?

近野:最初は鴉の曲をメインでやってたんですけど、途中からソロとしてのオリジナルもやるようになりました。今回のアルバムの音楽性にもちょっと関わってくることなんですけど、ソロをやることで自分のなかにあるポップなものとの折り合いがつけられたというか。それまではポップなことをやりたいと思ってもバンドではバランスが難しかったりして、どっか無理をしてた部分があって。それが悩みどころだったんですね。でもソロのほうで、そういうことを全部発散できるようになったので。
ポップな楽曲は近野淳一としてやるようになった結果、バンドでやりたかったことのみに集中してアルバムを作れたんです。そう思うと、バンドでしたいことと、バンドでは難しいこと、その切り離し期間がこの5年だったとも言えるのかなぁと。

──ずっと「切り離したい」とは思っていたのですか?

近野:あまり意識してなかったかもしれないです。聴いた人が喜んでくれれば、「今回のは正解だったんだな」みたいに思って、不安も解消されてましたから。だから人に聴かせるまでは、かなり不安だったりもして。でも今回は人に聴いてもらう前に、自分のなかで正解がわかっていたというか。

──すると今回のアルバム制作は、すっきりした気持ちで。

近野:そうですね。また今言ったこととは別に、自分がやろうとしている活動方針みたいなことも今回のアルバムには関係していて。ライブハウス以外のところでライブをやってくうちに、音楽が好きで単純にいい曲を届けたいっていうだけじゃなく、自分が住んでいる秋田のことも考えるようになってきたんです。守りたい町、守りたい場所っていうのが、自分のなかでもだんだんできてきて。だからサウンドとしては振り切ったバンドサウンドになったけど、活動としては秋田の魅力みたいなものを少しでもアルバムに混ぜ込むことができないだろうかっていうのがあったんです。
やっぱり秋田に住みながら活動しているので、秋田県自体をいい所にしていかないと自分の活動も続かない、ということにも直面したので。
鴉 守りたいものを形にした約5年振りのアルバム『還り咲』/インタビュー1

──それもソロ活動を始めてから気づいたことですか?

近野:そうですね。弾き語りだからバンドではやれないようなとこでもライブができるので、本当にいろんな所にいって。そういうなかで外から見て逆に秋田の魅力もわかったし。食だったり、観光だったり、景色だったり、予期せぬ素晴らしさに気づいたことで自分の意識もだいぶ変わったというか。それで今回は四季の曲を、アルバムの一つのコンセプトにしたんです。

──秋田の魅力ということから?

近野:はい。前からボンヤリと四季の曲を作りたいっていうのはあったんですけど、今回は単純にいい曲を作っていくというより、たまにはコンセプトを元に作ってみるのもいいんじゃないかなって。それでちょうど組曲みたいなものを聴く機会があって、こういうのもいいなと思ったんですね。で、その二つが繋がって組曲を四季の曲で作るっていいかもと。しかも秋田県は四季がハッキリしているので。どうせなら自分が熱くなれる、やる気が出るコンセプトがいいなと思ったんですよね。


──いろんなことが繋がって。

近野:そうなんです。でも秋田の四季みたいなことも、いろんな所に行くなかで感じた魅力で。あと秋田は今、人がすごい減ってるので。たぶん全国で一番減ってる場所なんじゃないかな。もちろん何か目的があって東京に行くならいいんです。でも無理して行かないでほしいし、そういう人を食い止めたいっていう気持ちもちょっとあって。だからあんまり全面に出しすぎないようにしつつ、秋田の魅力みたいなストーリーを歌詞に盛り込んで曲にしてみたんです。
鴉 守りたいものを形にした約5年振りのアルバム『還り咲』/インタビュー1

──そうした秋田への想いを意識するようになったのには、年齢も関係しているのでしょうか。

近野:それもあるでしょうね。でも、あんまり“ご当地”みたいな感じにはなりたくないんです。そうなっちゃうと、想いに反して一気に違うものになってしまうから。
こうして話をしていると秋田のことがよく出てきますけど、曲を聴いたときに、そう思われたいわけじゃないので。そこはあくまでも鴉というものを、ロックなものを作りたいので。だから年齢を重ねたから、そう思うようになったのかなと思いつつも、それとは別の意味合いで、やっぱりなくしちゃいけないものはあると思う気持ちを盛り込みたかったんですよね。

──とはいえ実際に住み続けているということは、好きなんでしょうね、秋田が。

近野:メジャーデビューした頃は、いつ東京に住もうかなぁっていう感じではあったんです。でも別に強制されなかったので。時々、来てほしいオーラは出されましたけど(笑)。でもそうならなかったということは、やっぱり秋田にいたかったんでしょうね。ただ、今となっては秋田にいる理由がしっかりあって。秋田にいるほうが楽しいことが多いんですね。例えば弾き語りで旅してるときも、秋田から来ましたって言うと、すごく興味を持ってくれるし。グッズにしても秋田のお米とか、タイアップで曲を使ってもらった秋田にしかないお菓子メーカーの商品とかを置いたりすると、なおさら県外の人は興味持ってくれるし。
CDが1枚も売れないのに、お米ばっかり売れたり(笑)。そういうことがあると、さらにどんどん秋田が好きになりますよね。

──秋田に助けられてるというか。

近野:全然助けられてますもん。でも助けられっぱなしなんで、ちょっと秋田のためになりたいって思うんですよね。昔は、こういう正義感の強いことを言うのって、すごく嫌だったんです。だけど、今は純粋にそう思うから。だったらちゃんと気持ちを形にしたいなって。

――インタビュー2へ

≪ライブ情報≫
【鴉4th.album還り咲レコ発ワンマン「東名阪秋咲き巡り」】
2018年4月26日(木)東京・下北沢SHELTER
2018年5月25日(金)大阪・福島LIVE SQUARE 2nd LINE
2018年6月22日(金)愛知・名古屋CLUB 3STAR KURUMAMICHI



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