知り合ったばかりの4人の女子高生が民間南極観測隊の同行者となり、南極を目指すというSF(少し不思議)テイストのオリジナルアニメ「宇宙よりも遠い場所」(通称:よりもい)。

本日から放送される第11話を含めて、残すはあと3話。
宇宙よりも遠い南極への旅は、キマリたちに何をもたらすのか?
いしづかあつこ監督&田中翔プロデューサー対談の後編では、4人の関係性や、筆者が特に印象的だったシーンについて解説してもらった。
(前編はこちら)
皆さんには、最終回まで観た後で2周目も楽しんで欲しい
いしづか 初登場の時から、日向はすごく良い子だという印象が強いですか? う〜ん、(良い子に見せようと)特別意識しているわけではないんですけど……。「よりもい」はオリジナルアニメなので、最初の方は自分自身でコンテを手がけるんですね。第2話のシナリオで、日向がキマリに高校は中退したと話すくだりを読んだ時、日向のキャラクターがすっと入ってきたんです。なおかつ、絵コンテを書く段階で声優さんの声もイメージしながら描くことができたので、そんなに意識せず、自然体で描けたキャラクターなんですよ。もしかしたら、その現実味を帯びた感じに親近感が湧くのかもしれないですね。
田中 作品を作っている側は、まだ描かれていない日向の内面もすべて知っているので、観て下さっている方とは違う印象もあって……。第11話以降を観ていただいた時、視聴者の皆さんにはどう映るのかなと思っています。
いしづか そうなんですよね。だから、ぜひ皆さんには、最終回まで観た後で2周目も楽しんで欲しいんです。第2話のシーンも最初とは少し違う見え方をすると思うので。

いしづか 結月は、メタ的な言い方をしてしまうと、南極へ行く切符が必要だったということがまず一つあって。
田中 キマリも報瀬も日向も媚びてないキャラクターなので、結月だけは少し媚びておきたいなとは思って(笑)。最初は、いわゆるテンプレートな萌えキャラを目指していたような気がするんですけど……。結局、萌えキャラになることはなく、気づいたら先輩たち同様に残念な4人目になっていました(笑)。
いしづか ごめんなさい(笑)。だって、私がそういう子に愛着を持ってしまったので……。
田中 結果、すごく面白い子にはなったのでばっちりです!

いしづか 女子から嫌われない可愛い女の子にしたかったんです。最初、結月の肩書きをけっこう気にしたんですよ。「女優なんですか? アイドルなんですか?」って。歌も歌っているけれど、いかにもアイドルっていう描き方はしなくて良いんですよね、という意味で(花田さんに)念押しをしていました。「軽く死ねますね」という口癖は、花田さんのアイデアです。
田中 唯一の毒舌キャラでもありますからね。
いしづか あの整った顔立ちと品行方正な仕草に毒舌。しかも年下だから、拗ねて文句を言ってるという捉え方もできる。私は、結月のことを超可愛いと思って描いていますよ。
キマリたち4人の空気感や距離感は、常にすごく意識している
いしづか 今回、女の子4人組を描くにあたって、私が常に重ねているのは、自分の高校の頃の友達なんです。キマリが誰で、報瀬が誰でとか、この4人に良い感じに当てはまるグループで。その4人でいた時に自分が取っていた距離感みたいなものを再現したいと思っています。すごく細かいところなんですけれど、彼女たちって後半になればなるほど、お互いに向き合って目を見つめあって話さなくなるんです。実際、私も友達と話す時、カフェで向き合って座っていても、相手の目をまっすぐ見て微動だにせず喋るなんてことは絶対になくて。お互いに目も見ないで喋っていました。相手がそこにいるのが当たり前で。わざわざ目を見て届けなくても言葉が届くし、ずっと黙ってそっぽを向いていても、そこにいるだけでお互いに感じられる安心感みたいなものがある。

田中 4人とも個々にキャラクター性が立っているというか。依存関係みたいなものを求めるのはキマリくらいなんですよね。そんなキマリも報瀬と出会って、自分なりに前を向くようになってからは、そういう感じは無くなって。結月だけは、少し承認欲求みたいなものがつきまとうキャラクターではありますが、それも第10話以降はなくなっていきます。結月は、友情とか距離感の進行度を数値で見たいタイプですが、他の3人は気がついたら友達になっていたり、距離が近づいてたりするものだと思っているタイプ。10話では、結月も「あ、そういうものなんだ」ってストンと理解できる瞬間が描かれていて、この4人の関係性の答えというか、ああ、こんな仲間が欲しいなという気持ちにさせてくれる表現が上手くできていると思っています。
南極について調べていて思ったのは、普通だということ
いしづか この作品はオリジナルですが、この子たちがこれからどういう場所へ行くのかを(第1話の)冒頭では見せられなかったんですよね。だから、オープニングでは、この子たちがこれから目指す先を少しだけ見せておきたかったんです。(南極で過ごす姿などは)いわゆる未来像を描いているわけで。そうすることによって、この4人はきっと南極へ行くんだということが(視聴者にも)見えてくるし、そこを目指して、どういう話が描かれるのかという予告的なワクワク感も感じてもらえるかなと思いました。オープニングの中でも最初に決まったのが冒頭のカットです。この作品のファーストカットに何を持ってくるのかと考えた時、主人公が世界を回すというのは、すごくやりたいと思って。

いしづか 南極や南極観測隊についていろいろと取材した中で、すごく意外だったのは、昭和基地の中って靴下文化なんですよ。足元は音にも絵にもかかわるから、どういう状態で生活しているのかが気になっていて。基地なのでそれなりの広さがあって、何十人もの人間が一堂に会しているわけですから、オフィスや学校の教室みたいに、足に何かを履いてるイメージがあったんです。靴とかスリッパとか。でも、玄関で靴を脱いで靴箱に入れて、そのまま靴下でペタペタと歩いて食堂に行き、みんなでご飯を食べる、と聞いた時、すごい生活感を感じて、なぜかすごく刺さったんですよね。もちろん、皆さんお仕事で行かれているんですけれど、そこで生活している人たちにとっては、外で作業をして基地に帰るのは家に帰る感覚なんだろうなって思った時に。この人たちの生活は面白そうだから描きたいって、すごく思ったんです。まさか、靴下のことで、こんなにも自分のイメージがつかめるなんて思わなかったです(笑)。
田中 南極について調べていて思ったことは、いたって普通だなってことなんです。すごく寒いだけで、そんなに変わらない生活を送っているので、逆に身近な感じがしました。
いしづか そうそう、普通なんですよね。南極に普通の生活があるってことは、私としてはテーマ的にも、すごくしっくりときました。最初に4人の女の子の絆をドラマの軸に据えることになった時、このお話の中でこの子たちが得るものって何だろうって考えたんです。大冒険の果ての勝利とか、名声とかでは無いんですよね。成長過程にある彼女たちが4人で得るものって、将来忘れがたい思い出と絆と仲間だと思うんですよ。それを描くためには、彼女たちが目的地でどういう生活をするかが一番大事で。その生活が南極に実際にあったんです。だから、昭和基地で靴下を履いてうろうろしてる様子を想像した時、「あ、この子たちは家族になれる」と思って。ただの友達じゃないところにまで行き着ける気がするという確信を得た感はあります。
仲間と楽しい旅行に行って、明日帰るとなったら、あなたはどう思う?
いしづか 11話以降の見どころは……具体的に言うとすべてがネタバレなんですよね(笑)。でも、最終回までを観た時に、このメンバーで南極へ行ったということがすごく大事だったんだな、と感じてもらえたら良いなと思っています。
田中 仲間と楽しい旅行に行って、明日帰るとなったとき、あなたはどう思って、どう過ごしますか、というところなんですよね。

いしづか 2、3日旅行に行っただけでも、帰る時の空気って独特ですよね。それが、キマリにとっては初めての海外で、しかも行ったのは地球の端っこ。そこで何か月も過ごして、帰る時の気持ちって……。
田中 そこで彼女たちは何を考えて……あ、まだ、帰るとは断言できないですかね?
いしづか できないですね。そのまま南極に住むって言い出すかもしれないし(笑)。
田中 2人ぐらいブリザードの中に消えていくかもしれない(笑)。
いしづか そうそう(笑)。でも、ひとつの旅の終わりが近づいているのは確かですから。その終わりがどうなるのかを楽しみにして欲しいですね。
田中 旅の終わりに誰しもが抱く気持ちみたいなところが上手く表現されていると思います。面白さもあるし、切なさもあるし、たぶん、いろいろな感情が渦巻くんじゃないかなと。ぜひお楽しみに。
(丸本大輔)