朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第16週「1983」

第74回〈2月15日(火)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

『カムカムエヴリバディ』第74回 新之助様〜 るい、良い即興芝居を見せるもコンテストに落選
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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ひなた、コンテストに落ちる

条映の新人俳優コンテストに出場したひなた(川栄李奈)だったが、あがってしまって言葉が続かない。気を利かせた司会者がひなたに応募動機を質問する。「大好きやからです。
時代劇も映画村も」と答えることができて事なきを得たひなた。そのときの笑顔は素直で抜群にかわいかった。それに注目する伴虚無蔵(松重豊)

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜74回掲載中)

いよいよ演技テスト。なんと相手役は先日回転焼きを買いに来た無愛想な男(本郷奏多)で、「なんであの感じの悪いヤツが侍の役を……」と「あの人を見下したような無愛想な男と」と母・るい(深津絵里)譲りの多弁なモノローグを語りはじめる。

最初は男に気づかれないように顔を隠しながら演技をしていて、それは悪者に怯えているようにも見えて効果的で、見ている人もなかなかうまいと思っている。
それが決めのシーンで逆にひなたが男を斬ってしまう。

傑作なのは男が機転を利かせて倒れてくれること。ひなたも即興を続けて「新之助様〜〜」と倒れた男に駆け寄る。客席は大ウケ(ここでかかる劇伴が軽快で好き)。司会者の質問を含め生の現場では機転が重要であることが描かれている。

ひなたとこの無愛想な男は気も利くし、なかなか息が合って見える。
これから新人俳優として共に頑張ることになるかと思いきや――コンテストで選ばれたのは別の人で、ひなたは落選だった。

ところが、あとで「あまりショックではなかったことがショックだったのです」(ナレーション:城田優)とひなたの心情が語られる。「大好きやからです。時代劇も映画村も」と心から言っていたものの演じたいという気持ちはさほどではないようだ。彼女の愛読している漫画『ガラスの仮面』の天才少女・北島マヤのように演じれば演じるほど意欲が増していく感覚を得ることができなかったというわけだ。でもあのアドリブのセンスはなかなかだとは思うから惜しい。


ただ、ひなたは思い込みが激しいのと、良くも悪くもひとつのことに集中しがちで気持ちのコントロールができないタイプのようなので、臨機応変な切り替えや客観性の必要な職人的な俳優には向いていないかもしれない。

進路がみつからない、と悩み続けるひなた。そんなある日、虚無蔵が回転焼き屋にやってくる。商店街に時代劇のような砂埃が舞う。店の奥には虚無蔵が唯一(?)メインキャストになったあの駄作『妖術七変化』のポスターが貼ってあるから、るいが虚無蔵に気づくかと思うと――気づかない。虚無蔵もポスターに気づいたの?と思うような視線を店の後方に向けるので、るいは“この人、何を見ているのかな”と後ろを向くがポスターに気づかない。
溜めるなあ。

ひなたを呼び出すが――ひなたも虚無蔵に気づかない。虚無像は誰も自分に気づかないことが気にならないのだろうか。淡々と「明朝9時、映画村の橋に参れ」と時代劇言葉でひなたを誘う。やたら「さにあらず」とか「門番」とか時代劇のような言葉遣いばかりする虚無蔵。俳優だと知らなかったら、いや俳優だと知っても、怪しすぎて不安になるけれど、ひなたは映画村に行くのだろうか。
そしていつ虚無蔵の正体に気づくのだろうか。錠一郎(オダギリジョー)がいれば絶対に気づくのに……とお預けプレーで明日に続く。

このとき、ラジオから流れてくる歌謡曲はあみんの「待つわ」で、明朝、映画村の橋で「待つわ」に掛けているのか。



『カムカムエヴリバディ』第74回 新之助様〜 るい、良い即興芝居を見せるもコンテストに落選
写真提供/NHK

今週は、コンテストの進行を小気味いい編集でつないで見せたり、ラジオからかかる曲と物語をなんとなく重ねたりと編集の力で面白く見せていることを感じる。

余談だが、2月14日から『あさイチ』で博多華丸大吉がお休みで、ぐっさんこと山口智充が代役をつとめている。本日は朝ドラについて薄いことしか言えないと正直に言っていたが、鈴木アナが説明して、ふんふんと聞いているというパターンもバランスがいいかもしれない。


あまりに誰もが朝ドラを知っているふうだと朝ドラに興味がない人のことが置いてきぼりになってしまうから。ぐっさんは声が明るく話すテンポも軽快で、朝ドラ見てなくて――と言ってもネガティブに聞こえないこともよかった。ぐっさんは朝ドラに4作も出ている朝ドラ俳優でもあるにもかかわらず、それを鼻にかけないところもいい。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪







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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami